48.合流、そして別れ

 周囲の安全を確保してからルーグ砦跡に向かう。


 向こうもこちらを確認したのか、数名の男たちが姿を見せた。


 僅かに警戒するような動きも見えたが、そのうちの一人、全身鎧を纏った男が大きく片手を振った。


「おお、子連れの剣鬼殿ではないか!」


 その声には聞き覚えがある、というより全市に鎧を纏う者は騎士より他にはなく、そうであれば彼がイゴーであることは明白だ。


「どうやら間に合ったか」


 そう呟きながら私も片手をあげて彼らの方へと近づいた。


※  ※


 キケを含めた全員が無事であることを確認すれば、こんな場所に長居は無用とスラ―ニャらと合流を果たし、一同ルーグ砦跡より離れる。


 キケとテクラ、エルフの騎士イゴーに剣士ワイズの一党は全員で八名。


 それに私たち六名という大所帯になったが、無事に姿見の前にたどり着いた。


 姿見の向こうではエスローの妹とラギュワン師が映っており、彼らは私たちを見つけて素早く行動を開始した。


「本当に、これで?」

「来たから戻れるとは思うが、万が一はあるだろう。我らが先に行く、ついて参れ」


 そう言い添えれば私はスラーニャを抱きかかえ、ロズ殿の手を取って再び姿見に触れる。


 一瞬だけ視界が揺らぐも、あっという間に旅立ったあの洞窟へと戻ってきた。


「ラブラブで宜しい事で」


 エスローの妹は可笑しげに告げやるも、その言葉には揶揄よりも温かみを感じる。


 それがかえって気恥ずかしさを感じさせた。


 ロズ殿も僅かに頬をお赤く染めているように見えた。


 私たちのそんな感情の機微など気にする事もなく、続いてキケやテクラが。


 そしてワイズ一行が現れた。


「こいつはすげぇや……」


 ワイズ自身はだんまりを決め込んでいたが、その仲間たち感嘆の声を上げてわいわいと騒いでいる。


 その後にはイゴーとアゾンが、最後にエスローとブレサが姿見を通してこちらに戻ってくれば、ラギュワン師は大仰な溜息を一つこぼした。


「これで全員か? まったく大所帯よな。さて、ワシの仕事は果たした。セイシロウ、ワシは先に戻るぞ」


 疲れた様な声を出してラギュワン師はそそくさとその場を退散した。


「ろくにお礼を告げられませんでした」

「師は元より人付き合いは好きではないのでな、私の方から礼を述べていた旨は伝えておこう」


 キケが肩を落として告げるので、私の方からも伝えおくと慰めを口にし。


「それで、これからどうするのだ?」


 今後について問いかけた。


 私の問いかけにキケは視線を僅かに落として考えると意を決したように顔を上げた。


「許されるのならばロニャフに亡命しようかと……」

「亡命、か」

「はい、ロニャフに僕を受け入れるメリットがあるのか分かりませんけど……。ロニャフ王は僕とテクラの危機にイゴーさんやワイズさんたちを派遣してくれました。その恩に報いる方法が今は思い浮かばず……」


 そう言う事であれば私が何か手助けできることは無いだろう。


 むしろ、アーヴェスタ家の騎士たちやイゴーの方が力になれるはずだ。


「そうであるならば、我らも王に話をしてみましょう。我が家の問題でジェスト殿一行を窮地に立たしてしまった償いも込めて」


 エスローがそう告げると、ブレサも頷きを返していた。


 どこか緊張気味だったキケとテクラはその言葉を聞いて安堵したようだった。


「新参だけどな、俺からも言ってみよう」


 イゴーがそう笑うと視線をワイズに向ける。


「アンタはどうする? 仕官するなら口をきくぜ?」

「俺は旅を続ける。その男の様に強くなるためにな」


 そう告げて、私に視線を向けて来た。


 鋭いが敵意は薄い視線を。


「聖サレスに勝ったそうだな?」

「勝ったとは言えん」

「周囲はそうは見ない。なるほど、俺が負けるはずだ。俺は聖ロジェの剣が何たるかに答えを出せずに道に迷い、お前は己が剣で聖サレスに届いた」


 そこまで告げてから小さく言いを吐き出してワイズは言う。


「俺は楽な方へ逃げた。そう気づけたのもあの時に殺されなかったからだ。感謝する」

「迷いはあれど邪道には足を踏み入れていなかった、そう見受けたのでな。次に会う時はいかなる剣士になっているか、楽しみにしている」


 私が笑みを浮かべて言いやれば、ワイズも微かに笑みを浮かべて頷きを返した。


 そして踵を返すと洞窟の外へと向かう。


「行くぞ、野郎ども。ここでの俺たちの仕事は終わりだ」

「へ、へい、兄貴!」


 ワイズの仲間たちはそれぞれ、ごめんなすってと挨拶してワイズの後を追う。


「前金しか渡されてないんじゃないのか!」

「残りは貴様にやる、俺は十分な報酬を得ている」


 ワイズの背中に慌ててイゴーが声を掛けるも、ワイズは平然とそう返して去っていく。


 何か悟ったようにも見えた、己の剣の向かう先が何処かが。


 そうであるならば、きっと程なくしてワイズの名はアルカニアに響き渡るだろう。


「仕方のない男だ……。ならば、俺たちも行くか、ロニャフの王都へ」


 イゴーが肩を竦めてキケたちに告げれば、先頭に立って歩きだした。


「お別れとかいいんですか?」


 ブレサが私たちを見ながらイゴーに問いかけると、イゴーは笑いながら言った。


「また近いうちに会うだろうさ。だが、一応言っておくか。じゃあな、呪炎剣のセイシロウとその娘よ」


 どこかおかしそうに告げてイゴーが去っていくと、キケやテクラが何度も私たちに頭を下げながら彼の後を追う。


 ブレサとエスローは肩を竦めて歩き出すが、エスローの妹だけはまだとどまっていた。


「ねえ、ねぇ、旦那」

「なんだ?」

「旦那に付いて行って良いかい? ご当主も妹が何処で何をしているか知りたいと思うんだよね」


 思いがけない言葉ではあったがカーリーンとスラーニャは父が同じ異母姉妹。


 少しは気に掛けているのかと思うと、それを無碍にするわけにもいかない。


「楽な道行じゃないぞ」

「心得ているよ、どんな道を歩んでいたか調べたからね」 


 そう告げてエスローの妹はフードを降ろして茶色い髪にとび色の瞳をあらわにすれば、彼女はにんまりと笑みを浮かべて告げた。


「そう言う訳で宜しくお願いするよ」


 特に反対の声も出ず、エスローの妹は我らの旅路に付いてくることになった。


<続く>

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