第8話 友達

「それで、昨日どうなったの?」

 昼食の時間に、金子からそう訊かれ、恭一は頷いた。金子は首を傾げて、

「それはどういう意味?」

「参加することにした」


 自分でそう口にしてみても、何となく信じられないような気持ちになる。今まで人と一緒に何かをしようと思ったことなどほとんどなかったように思う。それが、ロックバンドに加入して、一緒に音楽を作っていこうとしているなんて、自分が一番驚いている。


「そうか。決めたんだね。そうなる気はしてたんだけど。じゃあ、矢田部の歌うのを観に行かなきゃね」

「うん。来てよ。何か、あと一か月くらいで次のライヴがあるらしいんだけど。間に合うのかなって心配してるんだ」

「歌詞も書くんだよね」

「そう」

 言われて、緊張してきた。


「昨日、津久見さんに歌詞を聞いてもらおうと思ってたけど、すっかり忘れてた。津久見さんも何も言わなくて。それどころじゃなかった。津久見さん、喜んでくれちゃって」


 金子と話していると、担任の星野先生がそばに来た。彼女は微笑みを浮べながら、

「最近、仲良しだね」

「あの……」

 恭一が言葉に詰まると、金子が代わりに話し出した。さすが学級委員をしている人だ、と感心した。


「僕の好きな音楽を、矢田部も好きだってことが最近わかったんです。それで、よく話すようになりました」

 嘘が九割くらいだが、先生は納得してくれたようで、

「矢田部くん、いつも一人だったから、安心した」

「ありがとうございます」


 恭一が礼を言うと、先生は手をぽんと打ち、

「そうだ。私、金子くんにお願いがあって来たんだわ。忘れるところだった。午後の授業で使う資料、ここまで運ぶのを手伝ってもらおうと思って。お願いね。授業開始五分くらい前になったら職員室に来て」

 そう言って、彼女は教室を後にした。恭一は小さく笑い、

「学級委員って大変なんだね」

「そう。先生の小間使い」

 金子も笑った。


 最近、学校に来るのが楽しくなっている。この人のおかげだ、と改めて思った。

「金子くん、ありがとう。ライヴ、絶対来てね」

「絶対行くよ」

 歌うことと歌詞に対する不安は消えないものの、頑張ろうという気持ちで胸が弾んでいた。

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