黎明のパラダイムシフト【男3 計3】

タイトルよみがな:れいめいの パラダイムシフト

ところどころにSE指定や場面表示が入りますが、無くても成り立ちますので、声劇の場合、無視してくださっても大丈夫です。


★台本ご利用の際は、必ず目次ページの規約

https://kakuyomu.jp/works/16817139555508097862

をお守りくださいますようお願い申し上げます!

●スチームパンク風ファンタジー

●所要時間 30分程度


●配役 男3計3(各人、叫び、怒声的なものが少々あります)


登場人物


ダイグ

龍穴解放をもくろむ一派、「テンペスト」の構成員のひとり。

年のころは四十代~五十代。


カイナ

「テンペスト」でダイグと行動を共にする。

龍と同調する力を持つドラグナー。

年のころは十代後半から二十代。


ララック

龍穴解放を阻止する保守派組織「不滅ふめつ麗人れいじん」の構成員のひとり。

生真面目。

年のころは二十代後半~三十代。



―― ここより本編 ――


カイナ:

ダイグ、どう? ヤツらいた?


ダイグ:

おう、ついでに足止めは万全だ。ほれ、ケツに乗りな!


カイナ:

よっと!


ダイグ:

飛ばすぞ!


カイナ:

うわっと!


【※SE 高鳴るエンジン音】


カイナ:

うえっぶ、砂が口に入る!

このポンコツ、二人乗ってこんなスピード出して大丈夫かよ!?


ダイグ:

このダイグ様の技術なめんな!

なーに、走行時に吐き出すエアの量はハンパねえが、出力上限はこんなもんじゃねーわ。

カイナ、舌噛まねーように黙って、つかまってろ!


カイナ:

はいよ!


【※砂煙をあげながら疾走するバイク。】


ダイグ:

龍穴りゅうけつまでもう、あとわずかだな……っと、おお、来やがったか。


カイナ:

え? どこ?


ダイグ:

だーいぶ後方だ。ほれ、豆粒みてーなのが空にいるだろ。


カイナ:

わあお、あれ「不滅ふめつ麗人れいじん」の飛空船?

地上の追手だけじゃねーのかよ!


ダイグ:

すぐに追いつかれるな。

だがまあ、龍穴付近は、火山口かざんこうがケムリ、もくもく吐いてっからな。

そこまでは、アレじゃ来られねーわ。

どっかで兵隊でも落っことすだろうよ。


カイナ:

だいぶ低木ていぼくと岩が増えてきた、このまま突っ込む?


ダイグ:

おうよ、モードチェンジ、ロック!

ロックに行くぜぇ!


カイナ:

そのロックじゃない、って、ぅあおおぉぉー!


【※エアを下方に噴出しながら、障害物を避けガンガン岩場を登っていくバイク。】

【※ややあって、ブレーキ音。】

【※SE無い場合は少々間をおいて】


ダイグ:

よーし、到着だ。


カイナ:

(せき込む)ッ! ぁあ~~、しんど!

口の中砂だらけだよ!


ダイグ:

そこいらに吐いとけ。ほれ、そこが「穴」だ。


カイナ:

龍穴の入り口。うん、間違いないね。


ダイグ:

ここから洞窟の奥まで、歩くぞ。


ララック:

そこまでだ。


カイナ:

……ッ(息をのむ)


ララック:

そこを動くな。


ダイグ:

だーいぶ、お早い到着だ。頑張ったなぁ。


カイナ:

まーたララックかよ。しつっこいな、あんた?


ララック:

好きでお前たちを追っているわけではない。

龍穴りゅうけつ解放組織「テンペスト」の構成員、ダイグ、カイナ。

動くなよ。撃つぞ。


ダイグ:

どうぞ? 俺の腰の、これが見えねーならな。


ララック:

……!


ダイグ:

当たればドカンといくし、当たらなくてもお前が攻撃した時点で、やっぱりドカンとやるぜ?

爆発すればお前もろともみじんだし、龍穴にも無理やりの穴があく程の威力だ。


ララック:

ふん、ハッタリだろう。

今のお前たちに、そんな小型かつ高火力な自爆装置は作れまい。


カイナ:

それがそうでもないんだよね。

それ、マジだからホント気を付けて。


ララック:

なんだと?


ダイグ:

龍穴をひらくのを止めたいアンタらだ。

手順を踏まない方法での解放なんざ、もっと望まないだろう?


ララック:

……そうかもしれないと、噂はされていたが。

まさか本当に、地下の武器商人のおさ、あいつをスポンサーにつけたのか。


ダイグ:

まあ、そうかもな?

ホントは、ああいう上昇志向ムンムンなヤツをふところに招きたくはねーんだけどさ。

まあ、理想は一緒だし、上が決めたなら仕方ねーし。


カイナ:

俺は嫌いじゃないぜ、あのオッサンも。

このオッサンと性格似てて、豪快だし。こっちのが貧乏くせーけど。


ダイグ:

うっせ。


ララック:

きさまら「テンペスト」は、どこまで破壊行為を繰り返せば気が済むんだ……!


ダイグ:

破壊行為、ねえ……。

ま、こんなとこでゆっくりおしゃべりする気はねーんだ。

俺らは行くぜ。

ララック。お前さんもつきあうか?


ララック:

お前たちを、このまま見過ごすつもりはない。


カイナ:

妙な気を起こして、洞窟の中で命落とすなんてもったいないからね?

できるだけ大人しくしててよ。


ララック:

爆弾を抱えてるくせに、よく言う。


ダイグ:

そりゃあ、俺らは龍穴さえ解放できれば命の一つや二つ、惜しくはねーからな。


ララック:

……。


カイナ:

うそでーす。ホントは惜しいよ。

でもま、無駄にはならないからね。


ダイグ:

ほれ、カイナ、ランタン貸せ。電気入れるぞ。


カイナ:

ほいよ。ララちゃん、あんたもランタン持ってない?


ララック:

なぜお前らに提供しなければならない?


カイナ:

いいけどさー、足もと気を付けなよ?


【※洞窟内を歩きながらの会話。】

【※SE、水が滴る音と足音。】


ダイグ:

しっかしまあ、こーんな小さな龍穴にまで追っ手を差し向けるとは、さては不滅さんも暇なんだな?


ララック:

そういうお前らテンペストこそ、こんな小さな場所にまで風穴かざあなを開けようとしているだろう。


ダイグ:

別に。他の大きな穴には、それなりの大きなチームが向かってるさ。

お前さんも知ってるだろ。


ララック:

人類を滅ぼそうとしているくせに、飄々ひょうひょうと……!


カイナ:

滅ぼそうとしてるわけじゃねーぞ。


ダイグ:

そもそも、龍穴をあますことなく封印したままじゃ、いずれ人は滅びの道を行くことになる。

そのくらい、お前さんだってお勉強してるだろうよ?


ララック:

そんなことはわかっている!


カイナ:

その昔、この大地はドラゴンが支配していた。

というか、別に支配してたってよりは、ただ生きていただけだよな。


ダイグ:

そうだな。

だが、その力はあまりに強大で、他の生物が共存していくのは困難を極めた。


カイナ:

だから人類は……その叡智えいちもちいて、長い時をかけ、ドラゴンをすべて封印した。


ララック:

そしてその、数千年の時を、この大地は平穏に過ごしていたんだ。

お前たちはそのドラゴンを、次々と解放してしまっているんだぞ。


カイナ:

しょーがないじゃん。

封印されたドラゴンは、長い時間を深い深い場所で眠り続け、その力は膨張し続けている。


ダイグ:

ドラゴンのせいで一度は滅びかけた人類が、こうやって再び文明を築き上げてきた長い時、ドラゴンは地中深くで、力をたくわえ続けた。

それすら、別にドラゴンの意志じゃねえ。


カイナ:

このまま行けば、膨らみ切ったドラゴンの力が大暴走を起こして、大地は裂け、火山は爆発を繰り返して、星そのものが滅びるよ。


ララック:

それはどれだけの時間をかけての話だ。

いずれ起こるであろう遠い遠い未来の現象を止めるために、お前らはドラゴンを解放している。

そのせいで、今ここで暮らす人々が命の危機にさらされているのは、いいのか!


ダイグ:

トロッコ問題ってヤツかねえ。

このままじゃどうせ、この星そのものがなくなるんだぜ?

大昔の人間の所業しょぎょうのせいで、ドラゴンもろともな。


カイナ:

あんたこそ、それでいいの?

……まあ、正直言って、俺だってさ、べつに俺が生きている間に、そんな地殻変動ちかくへんどうやら大爆発やらで世界がどうにかなっちまう訳じゃないんだから、他人事っていえばその通りだよ。

でも、龍がかわいそうだからさ。


ダイグ:

出口を求めて勝手に膨らむ自らの力で、生きる場所さえも滅ぼす運命なんてな。

ま、そんな大義名分は上がうたってることだが、俺はこいつの願いをかなえてやりたいだけだ。


カイナ:

ごめんね! 俺には龍の嘆きが聞こえちゃうんでさ。


ララック:

お前は、ドラグナーだったな。

龍と同調し、その力を緩和かんわして、己の力へと変換できる者。


カイナ:

そうでーす。だから、俺にはいつも、龍の声が聞こえる。

最近はうるさいくらいでさ。


ダイグ:

解放されたドラゴンの力は、そりゃあ多少は大地を撫でるし、それによって地上や生物にもそれなりの傷をつけるがな。

いずれ落ち着けば、調和は、もたらされる。

龍を封じた昔とは違う。

ドラグナーという存在が、今はあるからな。


カイナ:

俺はそのドラグナーだからさ。

そう生まれついたってだけの話だけど、それでも。

俺が生きているうちに、解放してあげたいんだよ。

少しずつでも。


ララック:

少しずつ、であるなら問題はなかったんだ!

封印されたドラゴンの力によって星が滅ぶのを避けるためには、彼らを解放する必要があることくらい、誰だって知っている!

だが近年、お前らがやっていることはなんだ!

次から次へと龍穴を解き放ち、各地の穴からドラゴンをあふれさせている!

本来、時代をまたぎ、長い時間をかけて解放していけば最低限の影響で済むものを、こんな短期間で行えば、いらぬ犠牲を出すことなどわかっているだろう!


カイナ:

それ、あんたが言っちゃうー?


ララック:

なんだと……?


ダイグ:

ま、お前さんくらいの兵隊じゃ知らんだろうよ。

急ぐ必要が、こっちにはあるってこった。

何しろお前さんとこの「不滅の麗人」のお偉いさん方は、俺たち「テンペスト」や、それ以外の同じ思想の人間たちを、次から次へと殺しにかかってるんだぜ?


ララック:

なに……?


カイナ:

こっちだって、だいをまたぐ覚悟くらいしてたよ。

実際、ウチの組織の歴史って結構長いしね。

それなのに、こっちのメンバーも、どこにも属していない善良な人々でさえも、どんどん暗殺されてるんだよ。


ダイグ:

龍穴保守派ってぇ理念だけならカッコもつくが、裏の実態はエグいもんだ。

ドラゴン開放派は、根絶やしにするつもりらしいぜ?


ララック:

そんな、ばかな!


ダイグ:

そんで、世界を統一するつもりなんだよ。

保守派だけを残して、はべらせ、そのトップに立って。


ララック:

あのかたが、そんな、嘘だ!


カイナ:

いずれわかるよ。こっちの被害はすでに尋常じゃないんだ。


ダイグ:

ヤツの狙いこそ、まさに刹那せつなだぜ。

ドラゴン開放派の思想は、見つけ次第抹殺。

今、自分がこの世界を治められるなら、のちの世のことは知ったこっちゃないってな。


ララック:

……。


カイナ:

少しは、心当たりもあるんじゃねーの?


ララック:

……たしかに、ある程度の統治も必要であろう、という声明は聞き及んではいるが、そんな……。


ダイグ:

いずれわかるとは言ったが、こっちはそれを待つつもりはねぇんだ。

殺されるのを大人しく待機して待つバカはいねぇってな。

……さて、到着だ。


ララック:

……ッ!


カイナ:

……はあ……。

小さい龍穴とは言え、人の大きさに比べれば、巨大だね……。


ダイグ:

まあな。龍が封印される各地を結ぶレイライン、そしてエネルギーの流れ、すなわち龍脈りゅうみゃく

それらがクロスする場所に、こうして存在する、龍穴。


カイナ:

凝縮されているエネルギーは、ハンパないね。


ダイグ:

施されている封印のふたは、幾重いくえにも重なる巨大なギアだ。

いつ見ても圧巻だねぇ。

カイナ、お前さんの出番だ。


カイナ:

はいよ。ドラグナーの力、ご覧あれ。


ララック:

待てッ!!


ダイグ:

おっと、止めるなよ。忘れたか? この自爆装置の存在をよ。


ララック:

お前らにも、俺たちにも大義はある!

だが、荒涼こうりょうとした大地にそれでも生き続ける動植物は!

命をつなぎ、小石を積み上げるように文明を築いている人々はどうなる!

大局たいきょくで見れば刹那せつなであろうが、彼らには今がすべてだ!


カイナ:

だから、ドラグナーがいるんじゃないか。


ダイグ:

文句ならお前さんがたのトップに言ってくれ!

本来必要のないドラグナーの力、最大限にふるって、ドラゴンの被害を最小限にとどめてんだよこっちは!


カイナ:

余計な戦争はしたくない。

けど、うちだってこのまま黙ってないと思うぜ。

龍穴の解放を本来のペースに戻すために、あんたらの組織、いずれは叩きに行くんじゃないかな。

けど今は、こっちが壊滅させられちゃたまらないから、その可能性も考えつつ、やれることをやる!

できる限りドラゴンを解放し、その力の媒体となって、大地に変換する。

そうすることで、地上の破壊は最小限に、そして土地には潤いをもたらす。

俺たちドラグナーは、とっくにその役目を負ってるんだよ!


ララック:

だが!


カイナ:

少なくとも、ここから解放される龍はとても小さなものだよ。

あんたが心配するほどの被害は出ない。


ララック:

そういう問題じゃない!


カイナ:

じゃあどういう問題かなぁ。


ダイグ:

カイナ、解析は!


カイナ:

進んでるよー。

うん、ここのはアナログだけど、さすが人類の知恵を詰め込んだ複雑な仕掛けだ。

でも、定石じょうせきどおりだから簡単に解けるね。


【※SE バチンバチンとスイッチを切り替えるような音】


カイナ:

一列、解除。

二列、解除。

三列、そのまま、二段目オフ、オフ、オフ。

三列に戻って一部解除、一段目オフ、オン、オフ。

キー差し込み。全解除。


ララック:

よせ……ッ!!


ダイグ:

行かせねぇよ!


ララック:

はな、せ……ッ!


ダイグ:

うぉっとォ!


ララック:

うぁッ、ぐ……! えッ!?


【※ララック、カイナに掴みかかろうとするがダイグに阻止され、勢い余って何かのスイッチに突っ込む】


カイナ:

わお、ララック、ありがと!

L、R、同時に装置を押し込み、解錠! 右はララちゃん、左は俺!


ララック:

なっ……!


【※SE ガチン、と何かのスイッチが入り、ギリギリガリガリと金属や石がこすれ軋むような音】


カイナ:

門が開く。さあ、起きる時間だよ、ドラゴン。


ララック:

くそ、俺が、この手でなど……!


ダイグ:

いやいや、まさかよろけて最後の起動装置に突っ込むとは……。

不幸な事故だったねぇ、はははは!


ララック:

貴様……。


【※SE ゴゴゴ……と洞窟全体を揺るがす地響きと暴風】


カイナ:

うわっ、さすがに衝撃がすごいけど、これって……。


ダイグ:

カイナ、そこはまともに食らうぞ!


カイナ:

わーお! 風のドラゴンだったか! うわっぷ、飛ばされる……ッ!


ララック:

クッ、掴まれ!


カイナ:

サンキュ!


ダイグ:

うおぉ、すっさまじいな、この風力は……!


カイナ:

洞窟の中だから、乱気流、だよ……!


ララック:

しゃべるな、ガキ!


カイナ:

おかげさまで少し、舌切った。


ララック:

バカか……。


ダイグ:

緑色のドラゴンか……小型だが、美しいな。


ララック:

そんな場合か!


カイナ:

大丈夫、ドラゴンの覚醒で、多分ここ崩れるけど……この風の力、俺が変換して、この場所は守るから。


ララック:

それも、ドラグナーの力か……。


カイナ:

安心してお行き、緑のドラゴン。

そしてできれば、ほどほどにね。

また会おう。


ララック:

く……ッ、崩れるぞ!


カイナ:

動かないで! 怪我はさせない!


ダイグ:

こっからが長げーんだよなあ……おっと、自爆装置は多重安全装置オンっと。


カイナ:

しばらくは動けないけど、大人しくしててね、ララちゃん。


ララック:

その呼び方、やめろ……。


【※少しずつ、静かになって行く】

【※数時間経過の間】


カイナ:

はぁ~~、やっと脱出!


ダイグ:

老体にはきっつかったなぁ!


カイナ:

何言ってんだ、普段は年寄り扱いするなって言うくせに、中年!


ララック:

げほッゴホッ……体中、砂だらけだ……。


カイナ:

ちょっと休憩……あー疲れた!

洞窟に入ったのは夕方だったのに、今何時!?


ダイグ:

時計時計……おお、失くしてなかったな。

んー……もうすぐ夜明けだな。


カイナ:

うへぇ……でもまだ星がきれいだなぁ。


ララック:

俺の追跡からチョロチョロ逃げ回ったあとで、お前らはいつも、こんなことをやっているのか……。


カイナ:

まあねー。今回は特に、風のドラゴンだったから。

もっと楽に終わることの方が多いよ。


ララック:

結局ドラゴンの解放を、俺はまた、許したわけか……。


カイナ:

もー、こっちばっかり悪者みたいに言わないでくれる?


ダイグ:

まあ、思想のぶつかり合いだ。

こういうのは、敵対する相手が自分にとっての悪者さな。


カイナ:

……なあ。


ダイグ:

なんだ?


カイナ:

人が、長い時間をかけて龍を封じたのは、間違いだったのかな?


ダイグ:

……。


カイナ:

そして、また龍を解放しようとするのは。

間違っていることか?


ダイグ:

いーんや。

昔、龍を封じたのは、その時の人類にとって必要だったことだ。

そのくらいの改革がなければ、人類は滅びていた。

だが、時ってのは流れ、積み重なり、変化をもたらす。


カイナ:

どういうことさ。


ダイグ:

人も、世界も、変化するもんだってことだ。

時をかけて変化する。すなわち、状況は変わるし、昔のまま、留まってはいない。

封じられた龍が膨張させ続ける力が、どんどん大きくなって行くのと同じようにな。


カイナ:

その時にはたしかに成功と思えたものも、時間が経てば、変わる?


ダイグ:

そうさな。

龍を封印した当時、その封じられた龍の力が後の世に影響するなんて、当時の人間は思いもしなかっただろう。

だが、今の俺達はそれを知っている。

時が流れたからだ。

だから昔と今じゃ、必要なものも対策も、同じじゃない、変化する。

そして、未来ではまた、色んなことが変わってるだろ。

どれもこれも、その時には、きっと正義だと思われてることだ。


カイナ:

そっか……。


ダイグ:

大体な、どれが正しくて間違ってるなんて、人間が人間同士で勝手に決めるもんだぜ?

これお前、星にしてみれば、人間の作る常識や社会なんてのは、イチミリの価値にも傷にもならんぜ?

人間なんざ、星にとっちゃ自分の体にいる細胞くらいなもんだ。


カイナ:

でも、ドラゴンだけじゃなくて、人だってうっかり集団で暴走すれば星ひとつ滅ぼすかもしれないじゃん。


ダイグ:

そうだとしてもだ。

その星ですら、宇宙の細胞のひとつみてーなもんだ。

その細胞の細胞みたいな、チリほどにも満たない人間が何をやらかそうが、宇宙単位で見たら毛の先ほどの変化にもならねーよ。


カイナ:

そうだけど、じゃあ、人間や動物とかって、要するに無価値なのか。


ダイグ:

どうかねえ。けどな、論点はそこじゃねえ。


カイナ:

え?


ダイグ:

つまりだ。

ちっぽけな人間が改革をしようとするなら、他でもない自分たちが心地よく暮らすために、実行すればいいって話なんだよ。


カイナ:

……。


ダイグ:

今の自分たちの暮らしが、楽しく、良いものになるように。

それができれば、大成功だ。


カイナ:

……そうか……。


ダイグ:

そんで後の時代のことは、後の時代の人間が考えればいい。

そいつらは、今の俺たちとはまた違う生き方をしてるはずだからな。


カイナ:

生物も、星も、永遠に同じ存在ではない?


ダイグ:

そう、変わっていくモンだからな。

多分お前たちドラグナーだって、星が、生物が、ドラゴンと共存するために生まれたんだろ。

進化ってヤツだ。

はるか未来に、また龍の存在が人間を脅かすようになるなら、その時人間は、またその時なりの対策を考え、進化し、生き残る努力をするだろうよ。


カイナ:

進化、かぁ。


ダイグ:

難しく考えんな。

この世界で人間は勝手に生きていくし、星も、勝手にめぐっていくってこった。


ララック:

……単純明快だな。


ダイグ:

おうよ。しょせん数十年を生きるだけの人間だ。単純結構!


ララック:

そのくせ、トロッコ問題か。


カイナ:

だーから、それについてはあんたらのボスを叩いて解決するってば。多分ね。


ダイグ:

お前さんは、まだあの組織で活動するかい?


ララック:

……。


カイナ:

ま、そうだろ? あんた、頭固そうだし。


ララック:

お前たちの言うことを鵜呑うのみにするつもりはない。


カイナ:

だよねー。


ララック:

経過観察が必要だ。


ダイグ:

おお?


ララック:

わが組織も、お前たちもな。


カイナ:

こっちもかー。


ララック:

当たり前だ!

俺は俺の理想を信じて、今まで組織で活動してきたんだ。

お前たちの言葉ひとつで、そう簡単に納得できるわけがないだろう!


カイナ:

ま、そうだろうね。

俺だって、身寄りがなかったのを最初に拾われたのが今の組織だったってだけでさ。

もしも拾われていたのが「不滅の麗人」だったなら、そっちに賛同してたんじゃないかな。


ダイグ:

ま、縁なんてのはそんなもんだ。


カイナ:

ただ、そのうち主張の違いを感じて決別するんじゃないかって思うけどね。

俺は俺の気持ちを大事にしてくれるダイグが好きだし。

俺、あんたんとこのトップは、嫌いだよ。


ララック:

そうか。多分好かれたくもないだろうがな。


カイナ:

へへん。これでもあんたのことは、嫌いじゃないんだけどさ。


ララック:

俺は好きじゃない。


カイナ:

知ってますー。


ダイグ:

まあ、いいさ、これまでよりは、少しは仲良くやってくれ。

どうせこれからも付きまとうんだろ?


ララック:

そのつもりだ。しばらくは、あちらに帰らない。


カイナ:

ええー?


ララック:

組織を外側から観察したい。


ダイグ:

大丈夫なのか?


ララック:

問題ない。どうせ俺は、普段から野放しにされている程度の構成員だ。


ダイグ:

ま、あちらさんは功績たててなんぼな組織だからなぁ。


カイナ:

よほどの上層部でもない限り、わりと放っとかれてるってわけか。


ララック:

そうだ。


ダイグ:

やれやれ……。


カイナ:

あ……! ほら、あそこ。

この辺一帯で一番大きな風力発電群が動き始めた!

もうすぐ日が昇る。


ダイグ:

空が、夜明けの紫だな。


カイナ:

綺麗な景色だ。


ララック:

風力タービン、そして蒸気タービンも動き出す。

機関車も始発が出るころだろう。

とりあえずは……人が作り上げたあれらが無事であったことを祝福する。


カイナ:

うわあ、おっかたい!


ララック:

やかましい。


ダイグ:

まーまー、仲良くしろっつったろー?


ララック:

了承はしていない!


カイナ:

そっちが折れないならこっちもだし!


ララック:

ガキが!


カイナ:

どっちがー?


ダイグ:

ったく、しょーがねーなぁ……。


【※間をおいて】


ダイグ:

(モノローグ)

滅びかけ、渇き、枯れていたこの世界で。

懸命に紡がれてきた命は、儚くもろい。

俺たちはそれでも、俺たちが生きていくために。

砂とすすと、油にまみれながら、あがき、ただ、ひたすらに。

前へ前へと、進んで行く。



END

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