第31話 過去編 源翁心昭 可毗禮山 其十

 源翁の目の前に展開された空間の歪みが、急速に直っていく。


 そして、そこには薄く光った透明なものが浮いていた。例えて言えば海月のような感じではあるが、勿論海月ではない。見たことのないものを表現するのは難しい。絵に描ければ多少は伝わるのかもしれないが、私には絵心もなく、文学的表現力もない。

 まあ、取り敢えず、形而下の魂と言っておく。

 この形而下の魂は、透明ではあるが、薄く虹のような色が見える。そして、それが発光しているようにも見える。うねうねうと形を変え、一定の形を保つ事はない。そこに意志?いや意識か——があるのかは分からない。しかし、ここに至るまでの行程をあれ程厳しいものにし、鎌倉公の夢に姿を現して己の野望を披露したことからしても、意識ははっきりとあるのだろう。


 少なくとも怨霊と同じように、日本の人々に対する激しい怒りはあるはずだ。


 いつの間にかあの耐え難い腐臭が消えていた。そして、あの禍々しい黒い気も、どこか高貴な感じの気が混じり中和されている。ただ、魂そのものは先ほどと同じだ。目の前に浮かぶ形而下の魂は、薄く虹色の光を放ちながらふわふわと形を変えながら浮かんでいる。

 この、九尾の狐の魂の見た目から、何か予想できる事はあるだろうか?私は自分なりに考えをまとめてみた。

 九尾の狐は、黒と白、残虐と慈愛、悪と正義などの対立候を内包している奇妙な怪異と言える。普通の怪異であれば、基本的に人間に対する敵意しか持っていない場合が多い。怨霊ともなると完全に敵意しかない。九尾の狐は、聡明であるが、時に異常とも思える残虐性を持っている。この山の自然を自在に操り、私の苦境を楽しんでいた一方で、私がなんとかそれを乗り切ると、よくやったとばかりに喜んでいた。私の行動を馬鹿にしていた節もあるが、今思えば、素直に讃えていたようにも感じる。どれが九尾の狐の本性とは言えないが、どれも九尾の狐の本性であるとも言える。


 うまく言えないが、九尾の狐は、価値に絶対的な杓子を置かない自由な怪異なのかもしれない。


 私たちが時間をかけて醸造してきた正義の概念には当たり前のように組しない。そもそも人間ではないので、人間の価値観など関係がないのは当然か。とすれば、九尾の狐は、自分の感じる正義——いや、信念か?に忠実に生きている。そんな存在なのだろう。それならば、私たちの常識に当てはめても、九尾の狐の心は永遠に理解はできない。

 ただ、ここまでで感じた事を言えば、白い、善の九尾の狐の方の存在感は低く、黒い存在の方が大きいようには感じる。


 形而下の魂はそこだけ時間が止まっているかのように、同じ場所に浮いている。


 その魂を見ながらあれこれ考えていても埒が明かない。まずは、話ができるのか話しかけてみるべきだろう。私は、形而下の魂に問いかけた。

「あなたが、九尾の狐ですね?」

 宙空に漂う透明な魂の表面が、ほんの少しだけ上へと波打った。虹色がその波に合わせて上に消えたが、すぐに下から虹色が出てきた。

 そして、空気の振動と共に九尾の狐の声が耳へと入ってきた。

「いかにも。私が其方たちの言う九尾の狐だ。でもね。私には他にちゃんとした名前があるのに、そのような人間の考えた呼称で一方的に呼ぶのは失礼だと思わないか?」

「名前ですか。そうですね。あなたにも親がいて、名を付けた可能性はあります。失礼しました。では改めまして。私は源翁心昭と申します。あなたの名前を教えていただきたい」

 そう言うと、九尾の狐はケタケタと笑った。

「ふふふ。いきなり殺されるかもしれないのに、真面目だねえ。まあ、実際、自分はどうやって生まれたのかなんて分からないし、元々名前なんてないけどね。それに君たちは私の事を勝手に狐と言っているけど、狐ではないかもしれないよ」

「では、何だと言うのですか?」

「教えなーい。でも狐に似た動物なんていくらでもいるし、君たちの想像では、妖狐は歳をとる程強くるのだろ?ちなみに私は、歳を取っても取らなくても最初から強い力があるよ。人間の話なんていい加減なものだね」

「それはそうかもしれません。私たちは分からないものを何とか分かるものにする為に、想像を駆使して勝手に物語を作ります。実際どうなのかという事を超えて、それが常識になることもざらにあります」

「自分達の常識を信じないなんて、お前。やっぱり面白い奴だね。でも、天誅!とか勝手なこと言って勝手な理屈で私を祓おうとするのだろ?」

「あなたが鎌倉公を害さず、この関東を焼き払わなければそんな事はしません」

「じゃあ、自分がここでそんな事をしないと言ったら、素直にここから帰るのか?」

「いえ。それは無理な話です。

 私は何度もあなたに殺されそうになりました。それだけの事をされ、おりんという前途ある女性を誘拐されて尚、あなたを信用する事はできません」

 形而下の魂は、少し強めの波を立てた。虹色が下から上へ現れては消える。

 そして、ハハハッと大きな笑い声がお堂に響いた。源翁は黙って魂が揺れる様を見ていた。色合いは非常に綺麗なのだが、やはりこの魂の何処かに恐怖に連なるものがあるからか、素直に綺麗だとは思えなかった。

「なるほど。では、君はこの私をやっつけるというのだね?」

「返答によってはそうなります」

「自分と君の間には、宇宙の真理ほどの差があるのに、それでも戦うと言うのだね?」

「はい。この日本から人間がいなくなるのを黙って見過ごす訳にはいきません」

「ふーん。でも、この国は邪馬台国——つまり邪な国って呼ばれていたんだろ?だったら、潰されても仕方ないんじゃない?」

 これには源翁も怒りを覚えた。様々な事を伝えてくれた大陸には恩義を感じるが、人様の国にそういう事を平気で言う中華思想だけは、本気で好きになれない。

「それは、大陸の王が日本の中のヤマトコク(ヤマト国)という国名に勝手にその漢字を当てはめただけのこと。今、我々は日本という誇り高い国に住んでいます。日本は邪という字を当てられるような国ではない。それは、海を渡ってここに来たあなたも分かっている事と思います」

「ま、『獣狩り』なんて常識外の化け物を作ったからには、邪という字を当てられても仕方ないと思うけどね」

 ここで『獣狩り』の話ですか…やはり、九尾の狐にも『獣狩り』は、相当な衝撃を与えたようだ。それが証拠に、形而下の魂は若干震えている。それだけ怒りや恐怖が刷り込まれているのだ。

「『獣狩り』ですか。まだいるかもしれませんよ」

 私は澄ました感じで、そう言ってみた。

 すると、形而下の魂の揺れが上から下へと変わった。虹色は消え去り、真っ赤な色が上から下へと波に運ばれていく。よほど、『獣狩り』には嫌な思い出があるようだ。

 そして、少し怒気を含んだ声で言う。

「分かっていると思うけど、こっちもちゃんと調べているよ。

 朝廷はかつての力を失くし、武士とかいう脳なしがこの国を牛耳っている。そんなどうしょうもない状態のこの時代に『獣狩り』は絶対にいない。まあ、仮に『獣狩り』がいたとしても、おバカな武士の頂点に立ってこの国を支配するだろうから、結局、私がこの国を好きなようにするのと変わらないよ」

 九尾の狐にそこまで言わせる『獣狩り』とは何なのであろうか?陰陽寮がその存在さえもひた隠しにし、どの文書にも記録が残っていない。しかし、余りの存在感に『獣狩り』という言葉だけが口伝で残されている。


 ただ、九尾の狐にここまで言わせたその力は本物だったと言える。そして、このことは特筆に値する。


 九尾の狐が『獣狩り』の存在を肯定し、天下統一できるほどの力を要していると言ったのだ。安倍有重は、『獣狩り』について、調べられる可能性がある言っていた。今後の世界の為にも、それを何としてでも調べあげ、正しい形で後世へと引き継いでいってもらわなければならない。

 この事を有重に伝える為にも、私は絶対にここで死ぬわけにはいかない。

 私は、そんな事を考えながら反論した。

「人間は、欲望に溺れる前に自制し謙虚に生きる選択ができます。仮に『獣狩り』がこの時代にいたとしても、あなたの言うようなことにはならないと思います。実際、二百年前の戦いが終わった後、『獣狩り』は日本を支配していません」

「はっはっは!!あんな格好になったら、『獣狩り』になった奴らは陰陽寮を絶対に許さないよ。

 お前は『獣狩り』を知らない。だからそんな事を言えるのだ。私が二百年前に封じられた後、『獣狩り』と陰陽寮の間できっと大変な事があったはずだよ。事実が隠蔽されて、もう誰も分からなくなっただけだ。君がきちんとした事実を知らないなら、これ以上は話すだけ無駄だね。まずは、さっさと私の門番を返してもらおうか」

 門番?としばし考え、私はおりんの事かと気付いた。

「まず言っておきますが、おりん殿はあなたの門番ではありません。あなたの勝手な支配を解いて、現世に解き放ってください」

 とうとう形而下の魂に口が現れた。そして、その口が笑った。

「それは無理だね。あの門番はいずれ私の身体となるのだよ。君が掠め取った魂が、二度とあの身体に戻る事はないよ」

「いえ、必ずや戻します。私が曹洞の術を使ったからには、戻さないわけにはいかないのです」

「曹洞ねえ…まあ、どこの術を使ってもいいけど、全くもって仏教とは面倒なものだね。同じ禅宗でも臨済は都から出てこずに贅沢しているではないか。わざわざこんなところで、自分の宗派にこだわることもないだろうに」

 臨済と一緒にするなと言いたいが、実際門下でもなければその細かい違いは分からないだろう。そう思うことで、私は腹の底に怒りを収めた。人の怒らせ方は天下一品だ。

「さすがは妲己。いや、玉藻前ですか。日本の仏教もお手の物ですね」

 声が若干怒っていたかもしれない。私もまだまだだと思う。

 それにしても、九尾の狐が復活してからそれほど月も経っていない。にも関わらず予想以上に日本の現状に精通しているのには驚かされる。やはり、この怪異は史上に残る怪異なのだ。決して油断してはならないと、今一度自分を戒めた。

 九尾の狐は、そんな私に構わず、ほんわかした話し方を崩さない。もう、『獣狩り』に対する怒りは消えたようだ。それか、かなりの気分屋なのかもしれない。

「私も長いこと玉藻前として朝廷の中にいたからねえ。その辺りはよく分かるよ。うふふふ。でも、君、本当に曹洞なの?なんだか雑食めいたものを感じるよ」

 形而下の魂の口が消え、狐の鼻が現れた。その鼻は私をクンクンしている。ふざけた妖だ。

 ただ、九尾の狐の雑食という評価は間違っていない。それが返って恐ろしい。今までの私の戦いぶりを見て、完全に分析していると言いたいのだ。妖退治に必要な事は、豊富な術式と経験であって、一つの宗派を極める事ではない。だからこそ私は宗派に固執せず、必要なものを取り入れ、祓いに使っている。

 同じように、妖退治の名手と言われた安倍晴明も雑食だったと言う。ただひたすら真理を求める禅僧にはそぐわないかもしれないが、それだけで怨霊や怪異は祓えないのだ。

 まだ鼻で匂いを嗅いでいる九尾の狐に、私は毅然として言ってやった。

「一つのことに拘るのも真理ですし、複数のものを一つにするのもまた真理です」

 形而下の魂にまた口が現れた。その口は更に大きな笑い方をしている。

「ははは。シッダールタの言ったことが君たちの真理なら、そもそも宗派が別れるなんておかしいと思うけどね。まあ、人間は自分に都合よくするから、確かにそれもまた真理だね。ははは」

 ここまで笑われると腹が立つが、残念なことに九尾の狐の言うことにも一理ある。

「人類は、都合よく解釈しているのではありません。例え、真理であったとしてもより良くするために解釈を改めるのです。そうやって新たな解釈を積み上げることで、世の中を良くしていくのです」

「それが都合よく考えているということだろう?」

「違います。

 私たちは問答をすることにより、良い点と問題点を浮き彫りにしていきます。そうやって出した答えを現実へと投影していくのです。それは、菩薩の教えを元に、多くの禅僧が考えた結果であり、個人が考えたことでも権力者が考えたことでもありません。多くの叡智が問題の根幹を明らかにし、改善をしていくのです」

「どれだけ大勢が何を考えたとしても、真実を更新する事なんて出来やしないよ。だって真実は一つなんだろ?」

「真実というものは確かに一つです。しかし、どんなことにも解釈の変更はあり得ます」

「ふーん。やっぱり君は、混ざりすぎているよ。禅僧に向いてないんじゃない?」

「そうは思いません」

 そうは言ったものの、多くの宗派を学んでいくと、それぞれにいいところと悪いところがあるのに気づくものだ。確かに絶対的に正しい思想というものはない。但し、ここが重要なのだが、悪いことをしてはいけない。人間の道を外すような事はしてはいけないというのは、どの思想にも共通している。

「まあ、いいや。君の言い分だと、私にも君たちの価値観を変更できる資格があるという事だね。君たちは一生私の下で私のために働くのを良しとしなさい。それがあなた達が生き延びられる唯一の道。簡単だよ。君たちの価値観の一番を私にすればいいだけ。九尾の狐さまこそが、唯一絶対の存在で、この世の真理。神である。そうすればいいだけだよ」

「そうはいきません。日本には多くの神様がいます。あなただけが神だと言うのは通りません」

「だーかーらー。神様なんて一人しかいないことにしちゃえばいいじゃない。そうすれば、私を神にすれば解決でしょ?それでいいじゃない?日本よりもずっと先進の地であるオリエントだって神様は一人だよ」

「良くはありません。景教と違い、日本の神様にはそれぞれ役割があります。そして、神さまは我々に救いを差し伸べてくれるものです。では、神であるあなたなは、私たち人間をどうしようというのですか?」

「そうねえ…普段と同じように戦争で殺し合って沢山の怨霊を作ってほしい。いや、そうなると私の楽しみがなくなるか。となれば…ああ、そうか。私が人間狩りをして、もう数えきれないほどの怨霊を作ればいいんだね。怨霊が積もり積もると、その土地は怒りと怨念で埋まり、それを求めて地獄の底から凄いのがやってくるんだ。

 君たち知らないでしょ?

 この世には自分達しかいないと思っているでしょ?でもね、地獄というか、怨霊の行き先があって、そこにはもう言葉では言い尽くせない悍ましい存在がいるんだよ。そいつがこの地に残った人間をどうするのかを見てみたいな。まさに地獄絵図だよ。それを見たら、満足してこんな島国出ていくよ」

 一瞬、源翁は言葉に詰まった。

 なんという事を…と言いたいが、それが本当の事なのか確かめようがない。九尾の狐が真実を言っているのかしれないし、単なる冗談かもしれない。しかし、多くの人間を殺し、その怨霊を弄ぶという非道極まりない事をしたいというのは本気だろう。

 九尾の狐に人間を慮る感情は全くない。

 であるならば、私はこの九尾の狐を祓う事に全力をあげなければならない。九尾の狐が日本だけで満足するとはとても思えないのだ。これは日本の脅威、延いては世界の脅威だ。

「それでは、私は一歩も引くことはできませぬ」

「まあ、そうだろうねえ。なかなか面白い話ができたよ。うふふふ」

 そう言うと、形而下の魂から光が失われていった。辺りはまた漆黒の世界へと戻った。


 こうして戦いの火蓋が切られた。


 私は、印を切りつつ真言を唱えながら、いつでも術式を使えるようにした上で、丹田に溜めた気を放出してこのお堂の内側を全て包み込むように結界を張った。九尾の狐をここから逃がさない為と、外にいる五平とおりんを守るためだ。ただ、これで自分の退路を断ったとも言える。

「ふふふ。そんなものを張っても、君が逃げられなくなるだけだよ」

 そんな余裕な声に反応する事なく、私は臨戦体制に入った。物理的、精神的な攻撃に耐えられるように五感を研ぎ澄まし、今まで問答を通して考えてきた事を実践に移す準備をする。


 ふふふふ。じゃあ、ここから戦いだね。


 と心の中に声が響いた。九尾の狐は、口で会話せずとも私の意識に介入して話せるらしい。

 目の前に薄い光が射し、ぼうっと形而下の魂が見えた。透明な魂はどす黒い闇で染められ、真っ赤な狐の目がそこにあった。その目に感情は感じない。これから淡々と邪魔な虫ケラを潰すくらいの感覚なのだろう。

 光が薄れ、また周りは闇に包まれた。

 あの目。あれは人間に理解できるようなものではない。我々の理解の上を行く——超越的な存在というべきものの目だ。二百年前。数万人規模の討伐隊が組まれたのは必然だったのだ。

 また、私の心に九尾の狐の声が響く。


 ふふ。それにしても朝廷も落ちたものだね。最早、陰陽寮も風前の灯か。誰も出せずに君一人に任せるなんて呆れたものだよ。


 全くその通りだが、それを承知で私はここにいる。

 人間側にも歴史と都合があるのだ。当時の陰陽師は強力な術式に加え、最先端の学識を持っていた。それが故に朝廷内でもかなりの力を持っていた。しかし、時代を経てその学識は皆が持てるものとなってしまった上、対怪異用に開発された危険度の高い術式は、危険指定されて封印されたとも聞く。恐らくは、『獣狩り』もその中の一貫だ。そうなれば、陰陽尞の地位は相対的に下がる。今は、言ってしまえば暦の管理と占いの専門家だ。

 朝廷の人間には都合が良かったろうが、大きな力を無くした陰陽寮は、この手の巨大な怪異に対応できる人間がいなくなってしまった。これをどうしていくのかは、これからの朝廷の課題だろう。


「この二百年。人間も怪異も非常に落ち着いています。あなたも落ち着いたらいかがですか?」


 ふふふ。いつの時代も怪異は必ずいる。君だって結構なのを祓った事もあるだろう?だから、この二百年の間、怪異たちは決して落ち着いてなどいない。それにね、二百年も待って、私もようやく好き勝手できるんだ。落ち着いてなんていられないよ。君は優秀そうだから、あの娘の代わりに対人間用の門番にしてあげるよ。これで、しばらくはここも安泰だ。


 再び形而下の魂が薄く光り、真っ赤な目が笑った。


 要するに、九尾の狐がわざわざ潜伏場所を喧伝したのは、自らを守る術者を探す意味合いもあったということだ。

 ここまで死なずにやって来られるような術者を取り込み、自らを守らせ、力を取り戻した後におりんを乗っ取るつもりだったのだ。おりんを乗っ取るまでに力を回復すれば、最早人間では相手にならない。そうなれば、守護する術者もいらないので、一人で関東を燃やすつもりだったのだろう。


「私は、あなたの下につくことはありません。おりんもです」


 そう言うと、クツクツと言うあの腹の立つ笑い声が聞こえた。

 この先、怒りを感じてはいけない。私は自らをキツく戒め、数珠を握りしめた。

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