プロジェクト九尾 源翁心昭編

梅木百草

第1話 現代 日本国 2022年 三月五日

 この日、一部の人々に話題になった出来事があった。


 栃木県那須郡那須町にある殺生石にひびが入り、真二つに割れたのだと言う。これは地方のニュースでも全国のニュースでも取り上げられた。何故ならば、この殺生石は、九尾の狐が姿を変えたものだという伝説があるからだ。

 九尾の狐と言えば、日本では誰しもが知る妖で、その力はどの妖よりも強く大きいと言われる、まさに伝説の妖怪だ。

 九尾の狐は、当時の元の国から海を渡り日本へやってきた妖だ。日本では、玉藻前という女官に化け、第七十四代天皇の鳥羽上皇を病に伏せさせるなどの悪さをした。しかし、陰陽師安倍泰成にそれを見破られて逃走。最後は、那須野の地で朝廷によって討伐された。しかし、その時、九尾の狐は石に姿を変えたと言う。その石は毒を吐くようになり、人々を苦しめたが、源翁心昭という曹洞宗の坊主に祓われたという。

 その石が殺生石という石だ。


 その殺生石が割れた。


 新聞には、経年劣化で割れたとしか書かれていないが、その一方、ネットでは、ここを訪れた観光客が真っ白な狐を見たと話題になっている。その狐は九本の尻尾を持ち、優雅に歩いたかと思うと、風のように消えたのだそうだ。


 そのトピックスを見た人々は、当然のように九尾の狐の復活を信じた。もちろん、妖を信じている人だけだが。


 そして、程なくして日本の全国各地で犯人の捕まらない殺人事件が多発する。

いつ起こらないとも限らない死の恐怖を感じながらの生活は、人々に相当のストレスを与え、警察も解決できない事件に四苦八苦していた。


 しかし、六百年程前に生きた人間が、こうなる事を予言していたと言う。それは、かつて殺生石を祓ったと言われる人物で、名を源翁心昭と言う。

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