第22話 古の約束

 その夜

 眠ってもいないわたしの脳裏に龍が現れた。

 まるで、バーチャル体験さながらの展開に、わたしは大いに慌てた。


「陛下様とあなたの関係は、あなたから聞くつもりは無いの。

 陛下様と約束したから。」


「あい わかった。」

 と言いながら、龍は 瞬時に陛下様のなりになった。

 そう云うことでは、ないんだよ〜


「いえ。

 今日は、あなたの事が聞きたいんです。

 あなたとわたしの関係です。

 あなたは、わたしが 全てを忘れてしまったと言った。

 約束も、希望も と。

 わたしは、残念ながら全く思い出す気配すらありません。

 あなたと陛下様の事は、陛下様からお聞きします。ですが‥

 ですが、あなたとわたしの事は、あなたに聞くしかありません。約束とは、希望とはなんですか。」


「いいのかな。

 そんなに信用のならない僕から聞いて、凛は受け入れられるのかな。僕は自分の都合のいいよう 嘘を付くかもしれないよ。」


「あなたは、嘘つき なのですか。

 それとも

 あなたは、自分の為ならば 故意に人を欺き おとしめても平気だ と。」

 わたしは、半眼で龍を見定めた。



「幾度もの想い人の輪廻転生に絶望し、僕が どれ程の時をかけ、思いを尽くして、今 目の前の凛にたどり着けたのか。

 凛は、分かろうともしてくれない。

 そんな 酷いことまで 言う。

 僕がどれほど・・どれほど・・


 それでも・・僕は憶えているから。


 あの戦火のなかで、約束してくれたんだ。


 君が僕を好きになった時、君は僕のお嫁さんになってくれるって。

 凛 君は約束してくれたんだ。

 この戦火を収め、そうして、わたしを好きにさせてみなさい。

 その時にプロポーズをお受けしましょう と。」


「ん」

「んん」

「んんんー」

 え〜と

 わたしは、約束してないよねぇ‥


 とはいえ、

 幾度もの転生を見送り

 気の遠くなる時間の

 身を引き千切ちぎる淋しさ。

 それを思った時に、少しだけ心が引っ張られたけれど、すぐに引っ張り返して、

「おかしいでしょ〜

 約束したのは、わたしではありませんし、

 同情は愛とは、似て非なるものと いろんな書物に書いてありますし、第一に わたしは あなたを好きになっていませんし。」


「凛の口から、はっきり聞いているよ。

 およめさんになる。

 まっててねって。

 凛だって、この間 思い出してくれたよね。」


「あっ・・・」


 あれは、一種の洗脳に近い状態からの戯言、ないし若気の至り、むしろ若気すぎる至り。


 言い訳をしようとした わたしを、純粋で切ない双眼が捕らえて口ごもらせた。


 振り解くように頭をふって呟く。

「同情は愛ではない。」



 龍は迷子の子犬の目をして尚、わたしの心を捉えていた。



 物事とは、関われば関わる程に、ひたすら ややこしくなっていく。

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