32.国家反逆罪で国外追放になっても構いません! 私は自由に生きていきますので!

「これだけの人数の貴族令嬢たちが、決死の覚悟で、そこのアイリーン公爵令嬢の罪を訴えるならば、国王として無視する訳にはいかん」


一段高い場所に座るカルロス=シュルツ国王陛下は、淡々とした様子でそう言います。


「父上! 何を馬鹿なことを! アイリーンがそんなことをするはずがありません!」


「発言をお許しください、陛下。キース王太子殿下のおっしゃる通りです。なにとぞご再考を! 騎士団の名誉にかけて、アイリーン様の無実を証明致します!」


「陛下! 義理とはいえ弟として、私からもお願い致します!」


「私も騎士団の調査に協力します。陛下、どうか!」


しかし、実の息子である殿下たちの声を聞いても、陛下は顔色一つ変えずに言う。


「ならぬ。これは勅命である。アイリーン=リスキス公爵令嬢は国外追放とし、以後、この国への入国はまかりならん」


「そ、そんな!」


キース王太子殿下の声が響く。


「国王の決定は絶対である。そなたらが何を言おうとな、くっくっく」


陛下が陰惨いんさんに笑う。


あれ、陛下ってこんな人だったっけ? 昔会ったことあるけど、もっとほがらかな方だったと思うんだけど……。


まぁいいや。


なら、


「国王陛下、私にも発言のご許可を願います」


私は、私をかばう様にしてくれていた、元死亡フラグ四人衆……もとい、大切な友達たちの間を縫って、前に出る。今まで誤解していたことを平身低頭、内心で謝りながら。


「良かろう。だが、沙汰が変わることはないぞ、これは勅命で……」


「あ、それは大丈夫です」


「な、なに⁉」


私のあっけらかんとした返事に、陛下は初めて平静な顔を歪め、目を丸くする。


なお、舞踏会に集まった貴族たち全員も、大体同じような表情になっていた。


「国外追放は全く問題ありません。その代わりというわけではございませんが、お願いがございます」


「も、申してみなさい。いや、申してみよ」


ん? 今、なんか語尾がおかしかったような。まぁいいか。


「先月オープンした喫茶『エトワール』の第2号店を、追放先の国で開くことをお許しください! 貴族の身分のはく奪も問題ありませんが、私の裁量で自由に生きていける権利を保証してい頂きたいのです!」


「な、なに⁉」


もう一度、国王陛下は驚いて、更に目を見開いた。


「なぜだ⁉ なぜ、公爵の爵位を捨てるなどと簡単に言える⁉ それが無ければお前は困るに決まっているのにっ……!」


「いえ、別に困りません!」


「なっ⁉」


私は力強く言い切る。もはや、陛下の目は点になっている。


「むしろ、公爵令嬢の身分から解き放たれることで、今回の人生…‥。ああ、いえいえ。とにかく、自由気ままに生きていくことが出来ます! 失った人生を取り戻すことが出来ます! だから、爵位なんて別にいりません! ただ、やりたいことをやって自由に生きられる権利だけはお認めくださいませ! 隣国へは私が選んだ馬車で自分で参ります! 最後まで、この国のお世話になるつもりはありません!」


よし、言い切った!


実は以前から考えていたことではあったのだ。


それは、断罪ルートを回避することに失敗するケースがあるんじゃないかなー、ということ。


その時、私はどうすればいいのだろうか? そのまま追放途中の馬車の事故でまた死亡するのか?


あるいは無事に追放先の国に到着したとしても、悲嘆に暮れながら死んでいくのか?


まさか!


むしろ、逆だ!


身分と言うしがらみから解放されて、自由に生きるのだ! もちろん、お父様や友人たちとの別れはツライけれど、そうなった場合に泣き言を言っていても始まらないだろう。


「私は私の人生を、全力でやりたいことをやって、自由に生きていきますので!」


それが私がループしたときに最初に抱いた信念なのだから!






だが、


「やれやれ。僕のアイリーンがそう言うなら仕方ありませんね。では、王太子の僕も、継承権第1位を放棄して、彼女に付いて行きましょう」


キース王太子殿下が私に微笑みかけながら言った。


え……。


「ええええええっ⁉ いえ、あの、それって将来の王位を捨てることになるですけど⁉」


「ええ、そうですよ?」


そうですよ、じゃないですよ⁉


「ははは。公爵の地位を軽々と捨てるほどの女性の夫になる男性が、権力に固執していては、その資格はありませんからね。なに、あなたのためでしたら、安いものです」


そ、そんなわけないのですがっ⁉


しかし、続いてクライブ様も、


「ふ、私も彼女の止まり木になると決めた身です。彼女の護衛として随行しましょう。副騎士団長には別の者を推薦してください」


「ちょっ⁉ あなた将来の騎士団長の身分を嘱望されてたはずですけど⁉」


「はっはっはっは! あなただけの騎士になるのも悪くありませんな」


こんな時なのに、キラリ! と歯を見せて笑った。


そして、バスクにミーナリアさんも、


「姉さんが僕の全てだよ! まだ恩を返しきれてない。一生付いて行くからね! ダメだって言われても! 多分、死んだ両親も、今の父さんも、許してくれるよ!」


いや、あなたには子爵領を継ぐ仕事が……。


「子爵領より姉さんが大事だ!」


「はい、私もアイリーン様に付いて行きます!」


ミーナリアさんまで続けて宣言した。


いやいやいやいや、大事な娘さんをお預かりするわけには行きませんって⁉


と、そんなやりとりをしているうちに、周囲も貴族たちも戸惑いやいさめるような声が上がり始めた。


「陛下、恐れながら今回のご処置はあまりではないでしょうか?」「王太子殿下が継承放棄など国が乱れること必至です。なにとぞお考え直しを」「せめて諜報部や騎士団による調査を待ってからの御沙汰に改められては?」「ええ、すぐに勅命を出されるべきではないのではないでしょうか?」


ざわざわざわ! 収拾がつかないほど、舞踏会は混乱しはじめる。


しかし!


「ぐむ、ぐむむむむむ! ぐああああああ……。どうして! どうしてなのだ! 言うことを、言うことを聞け!」


陛下が突然苦しみ始めたのである。


そして、


「くっ、ああああああああああ。拒絶反応だと⁉ く、ぐあ⁉ 憑りついたはずの体からっ⁉ 追い出されるですって⁉」


陛下の身体がガクリと力を失う!


それと同時に、ブワッと人型の黒い影のようなものが、浮かびあがったのだった。


「く、くうううう! なんで! なんでなの⁉ どうしてうまくいかないの⁉ ああああ! ねたましい! ねたましい! 全部私のもののはずなのに! この国の権力も富も美しさも若さも宝石も何もかも! 私のものになるはずだったのに! なのに、お前は、若くて美しくて! それなのに、美しい心まで持ち合わせているなんて。絶対許せない! あなただけは絶対に自由にはさせない! 何でも出来るあなたが、自由気ままに生きていくなんて許せない! ここであなたは私に殺されなさい! アイリーン=リスキスウウウウウウウウウウウウウウ!!!」


えええええええええええ⁉


待って! 待って!


私べつにそんなにうらやましがられるような女じゃないんですけど⁉


全然大した女じゃないんですけど⁉


誰かと人違いしてませんかあ⁉


内心そう悲鳴を上げる私だったが、しかし、そんなことはお構いなしに、黒い影はこちらへと突進してきたのでした!

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