27.悪魔になぜか凄く恨まれているのですが⁉

色々言われた気がしますが、えーっと、聖女?


うーん……。


よく分からないけど私がそんなものなはずはないので無視でOKね!


それよりも、


「どうして、ザカリーさんに憑りついていたの⁉」


そう詰問する。


以前、殿下に聞いた話では、この黒い靄は人心を惑わす異世界の悪魔で、この世界に大きな災いを呼ぶという。その存在がまた目の前に現れたのだ。人型に姿を変えた黒い靄は、私を睨みつけるようにして言った。


悪魔と言う割には、どこか人間っぽさもあるような気がした。また前回は気づかなかったが、髪の毛が長く、もしかすると女性なのかもしれない。


「あなたが邪魔だからよ、アイリーン! あなたをほうむるために、ザカリーにりつき、またその男の妻の体調を悪化させたわ! そして、この男の弱った心を支配したのよ。摩耗まもうした精神ほど操りやすいものはないんだから! ふふふ、男なんていとも簡単ね! 私の若さと美貌にかかればねえ!」


ん?


私はその言葉を吟味して、気づいてしまった。


あれ、今回の一件、もしかして私のせいってこと?


え、ええー⁉ 私のせい⁉ なんで⁉ じゃあ、さっき、ザカリーさんといい感じに和解して、お互い契約成立だな、みたいなノリで握手なんかしちゃったけど、むしろ慰謝料請求されるんでは? 契約も撤回されてしまうのではー⁉


「で、でも。どうしてザカリーさんなの⁉ ちょっと、遠まわし過ぎない⁉ 悪魔らしく、もっと直接来なさいよ!」


「誰が悪魔よ! 私は美しく若い異世界の女神よ!」


いや、真っ黒なんですけど……。しかも人に憑りついて悪さをする女神がどこにいる⁉


「それにねえ、私だって本当ならこんなまどろっこしい手段をとるつもりはなかった。でも、最初の計画は頓挫とんざしてしまったわ。本当なら今頃、徐々に周囲の男たちの精神も支配出来ていたはずなのにぃ!」


恨みがましく悪魔は叫んだ。


「許さないわよ! アイリーン! 私はあんたみたいな私の存在をかすめさせる美貌を持つ、しかも天然っぽい女が大嫌いなんだから!」


ていうか、この悪魔、めちゃくちゃ感情的すぎません⁉


まるで人間みたいなんですが⁉


「げ、原因はよく分からないけど、どうやら、あなたの計画はうまく進んでいないみたいね! なら、もう諦めたらどうかしら? でないと、またビンタで追い払うわよ!」


ビンタくらいで退くとは思えないけど……。


しかし、


「くっ。聖拳による打撃は私の存在をこの世界から抹消しかねない。くそ、くそ、くそ! 覚えていなさい、アイリーン=リスキス! 絶対に復讐してやるんだから! そして、あなたから全てを奪う! 王太子の婚約者の立場も宝石も、富も名誉もね! 私こそがこの世界で最も愛される存在になるべきなのよ! あなたには何一つ渡さない。奪い尽くしてやるんだから! 国母の座は私のものよ!」


あら、なんかびびってる? 


ビンタが弱点な悪魔なのかしら? それに悪魔の言う婚約者とか、国母? それって……。


「あ、そういうのなら、どうぞどうぞ。私は(2周目の人生は)自分でちゃんと自由気ままに生きていきますので。お好きになさってくださいませー」


本心から言った。しかし、


「馬鹿にしてええええええ! 私にそんなことは出来ないと思っているのね! 許さないわよ、アイリイイイイイイイイイン!!!!」


えええ⁉ ち、ちがっ……。


「絶対に後悔させてやるから! あなたのような美しく、全てを持っている人間を絶対に許したりしないわ! その立場は私のものよお!」


「ちょちょちょちょ! それは誤解もいいところなんですけど⁉ それに別に美人とかでもないし!」


私、人生1週目は国外追放のうえに死亡して、2周目もこれだけ頑張ってるのに、結果的に死亡フラグに囲まれながら暮らしてる、かなり可哀そうな貴族令嬢なんですけどー⁉


だから、これ以上、ややこしいのは勘弁してくださいませ! 


私は今回の人生、自由に生きて、自分の人生を取り戻したいだけなんですからー!


そう叫びたかったのですが、口を開く前に、黒い靄はスーッと空間に消えるようにしていなくなってしまいました。


「次こそ失敗しないわ。今度こそ最後だと思いなさい」


禍々まがまがしい言葉だけがこだまする。


残されたのは、呆気にとられた死亡フラグ四人衆と、ザカリーさんたちだけだ。


そして、何より、今回の一件が私が原因の一端を担っていたことを知り、ザカリーさんから協力関係を反故ほごにされないか心から心配する自分であった。


私は冷や冷やしながら、ザカリーさんの顔色を窺いながら、何とか一言だけ言いました。


「ほ、ほほほ。経営にはトラブルがつきものですわね!」


「トラブルっていうレベルではないのではないですか、アイリーン……」


そんな静かなツッコミを殿下から受けたのでした。

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