四日目、朝

「アップルパイをお作りしましょうか?」

「昨日のは全部食べたしお願いしていいかな」

「かしこまりました」

 その声が少し嬉しそうに聞こえて僕は苦笑した。

「そういえばなんでアップルパイなんだろうね」

「このレシピは初期設定ではありません。追加で登録されたものです」

「え、じゃあ君には前の持ち主がいて、その人が登録したってこと?」

「不明です。その記録データは削除されています」

「そうか……」

 まあ普通は管理者が変わる時点で個人情報は初期化するはずだ。何かの手違いでアップルパイのレシピだけ残ってしまったのかもしれない。

「そういえば、君のキャラ設定を聞いてなかったな」

「ニコ。24歳。牡羊座のO型。人生はドラマチックの連続だと信じている。忘れっぽい性格。クイズと取り留めのない雑談が好き。天気予報は毎日チェックするタイプ」

「どうりで」

 僕は口の端で笑う。

「君のプログラマーはピュアでユニークなロマンチストみたいだね」

「面会をご希望ですか? プログラム責任者でしたら連絡することが可能です」

「いや、やめとくよ。まともに顔が見られそうにない」

 あなたのプログラムしたロボットに恋をしました、なんて言えるわけがないし。

 そして何より。

「君がいてくれればそれでいい」

「そうですか」

 ニコは淡々と答えながら手を動かしてパイ作りを続けている。

 そんな彼女の横顔をちらりと見て、僕は目を細めた。

「……笑ってるよ?」



(了)

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正解とアップルパイ 池田春哉 @ikedaharukana

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