ヨゾラとカタリナの静かな戦い

 決闘が無事に終了した日の昼下がりの時間、高い建物が立ち並ぶ都の中心街にカタリナは服を買いに来ていた。


「ふむ、本官にはどれが良いか分かりませんね」


 人型の模型を前にカタリナは唸りこみ、悩ましい顔で服を選んでいた。


「ねえ、カタリナ先輩。こっちの服とこっちの服、どっちの方が似合うかな?」


 カタリナと一緒に来ていた銀髪を肩まで伸ばし長い布を首に巻いた少女は、両手に服を持ち自身の体に片方ずつ当てて、もし着てみたときの状態をカタリナに見せていた。


「こっちの方は少し子供っぽいけど可愛くてから好みだし、右の方は少し暗い色だけど大人っぽさがいい感じじゃない?」


「本官にはどっちも似合っているように見えますね」


「うーん、とりあえず他にもいいのがないか見てくるよ。あと、カタリナ先輩はこっちの服の方がカタリナ先輩らしくていい感じだよ」


 少女は手に持っていたものとは別の服をカタリナに手渡し、自身が持っていた服を戻した。


「こっちですね。値段は……まあ、たまにはいいでしょう」


「値段じゃなくて直感で良いと思ったものを買うんだよ。特に服は滅多に買わないんだからさ」


「本官はあまりセンスがないらしいのでヨゾラちゃんに任せますよ。お金に余裕があるわけではないので二人で一着ずつまでですよ」


「はーい」


 元気よく次の服を選びに行ったヨゾラを見ながらカタリナは少し困惑していた。


「……なんで本官より楽しそうなんですかね」


 最初は女装に乗り気ではなかったヨゾラも、カタリナの服を着た辺りから吹っ切れ始め、今や自身が着る服を選んでいた。


「やっぱり、これがいいかな」


 先程の可愛いらしい服を持ってきたヨゾラはそれをカタリナに手渡した。


「買ってくれてありがとね。カタリナ先輩」


「まあ、悪い気はしないですね」


 ヨゾラが喜ぶ顔を見て嬉しさを感じたカタリナは服を会計するために店員の人を呼んだ。

 

「着ていくので更衣室を貸してください」


 ヨゾラがそう言うので流れのままお金を払い服を持ってヨゾラと二人で更衣室に入るカタリナ。そこでとあることに気づいた。


「さて、カタリナ先輩。僕と一緒に着替えよ?」

 

「ふむ、次は本官が恥ずかしい目に遭うと言うことですか」


「今さら更衣室を追加で借りると怪しまれるよ?」


 これまでの意趣返しなのかヨゾラはかなり強気だった。しかし、カタリナは全然焦ってはいなかった。


「いいですよ。一緒に着替えましょうか」


「……冗談だよね?」


 一瞬理解できなかったヨゾラは素で聞き返したがカタリナの態度は変わらなかった。


「喧嘩を売ってきたのはそっちです。撤回すると叫びますよ」


「もしかして、自滅した?」


「はい、とても綺麗に。飛んで火に入る夏の虫ですね」


「冗談です。許してください」


「無理です」


 本日二度目の許しを乞うヨゾラに対しカタリナはどこまでも無慈悲だった。


「乙女の裸が見れるのですからそう気を落とさないでください」


「下着まで脱ぐ必要ないよね? 後、サキちゃんが暑かったりすると部屋で服を脱いだりしてるからあまり興味はないかな」


「何をしてるんですか、あの笛吹き女は!」


「さすがに外ではやらないよ!?」


「外でやるのは変態と言います。というか、早く脱いでください。決心がつかないなら、一緒にせーので脱ぎますか?」


「……僕の裸を見ても何も言わない?」


「心配しなくても言いませんから。ほら、脱ぎますよ」


 そう言って自身のベルトを外し服に手をかけるカタリナを見て、渋々首の布を外し服に手をかけるヨゾラ。


「せーの」


 カタリナの掛け声で同時に服を脱いだ二人。しかし、ヨゾラは袖部分が短く薄いインナーを着ておりカタリナだけが下着姿になっていた。


「ほら、カタリナ先輩。下も脱ぎましょ?」


 口に人差し指を当てて喋るなと言う仕草をするヨゾラを見たカタリナは嵌められたのは自分だったと気づき、急に自身の格好が恥ずかしくなってきた。


「ほら、早く。せーので脱ぎましょ? せーの」


 何かに操られたかのように雰囲気に気圧されたカタリナはヨゾラと同時に下も脱いで上下共に下着姿になっていた。


「さて、さっさと着替えよ」


 カタリナに勝って満足したヨゾラはさっさと着替え始めた。カタリナは放心していた。

 そして、ヨゾラが着替え終わってもカタリナは立ち尽くしていた。


「ほうほう、カタリナちゃんって綺麗な肌してるんだね。というか、まだ着替えないの?」


「……着替えるのであっち向いててください」


 ようやく、意識を取り戻したカタリナは力無く新しい服を手に取った。既に脱いだ服はヨゾラが畳んで荷物にしまっていたのでヨゾラはやることがなかった。


「そんなにじっと見られると恥ずかしいのですが」


「僕の着替えも見てたはずだよ。なら、僕が見てても大丈夫だよね?」


 そんな下らない理屈でも納得してしまったカタリナは諦めて着替えを続けた。黙って見られる方が恥ずかしいと気づいたカタリナは雑な質問をした。


「本官の姿を見て何か言うことはありませんか?」


「綺麗だね」


「それだけですか?」


「うーん。後は……サキちゃんと同じように胸の辺りの膨らみがない。いや、カタリナちゃんの方が微妙にある? どっちにしろヴィオラちゃんには勝てなさそう」


「必死に搾り出した答えがそれですか」


 カタリナも着替えが終わり二人は何事もなかったかのように荷物を纏めて店から出た。


「うん、さっさの服より全然可愛いね」


「よく呑気にそんなことが言えましたね」


「ん? カタリナちゃんも可愛いよ」


「それはよかったです。はあ、これでは気にしてる本官が馬鹿みたいですね」


「そんなことよりちょっと遅いけどご飯食べよー。服のお礼にご飯は僕が奢るからさ」


「いいですね。久しぶり高い物が食べられそうです」


「あんまり高いと食い逃げになっちゃうよ」


「そんな軽い感じで罪を犯さないでください」


「冗談だから、早く行こー」


 二人は仲良さげに店内に入っていった。その姿は仲の良い友達のようにも見えた。

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