結実する努力

 カタリナとヴィオラの決闘が行われている観戦席で、軽食を食べながらサキがヨゾラに寵愛能力の解説をしていた。今はヴィオラが《太陽を断つ迅毛スコル・スキン》を使用したところのようだ。


「ありゃ、ヴィオラちゃんの武装がまた変わっちゃった。あんなに変わることってあるんだね」


「あれは強化武装って言って今の武装に特別な補助能力を付与することができるのよ」


「カタリナちゃんの能力を無効化したりしたのもそれが原因?」


「あれは武装の特性ね。補助と言っても武装を硬くしたり、武器を追加したり、身体能力の底上げをしたりするくらいね」


 再び決闘場に目をやると今度はカタリナが《自己封印シールド・ブレイク》を使用し、手首に鎖のついた枷をしたところだった。

 

「あれも強化武装なの?」


「あの枷はカタリナの武装に最初からついているものよ。一時的に封印して解除して取り出しているだけよ」


「僕のナイフみたいな感じ?」


「少し違うけどおおむね正解よ」


 決闘場ではカタリナが自由自在に鎖を操りヴィオラの剣撃を防いでいた。


「カタリナちゃんの鎖ってなんか触手みたい」


「ただの重しだったはずの枷と鎖があそこまで動かせるようになるなんてね」


「でも、拳銃があるならあんな枷、最初から使う必要なくない?」


「拳銃は後から発現したものよ。最初は動かせないあの枷一つで戦っていたわ。もちろん、《施錠処置シールド・アレスト》や《解錠処置シールド・ケア》も無しでね」


「……カタリナちゃんには悪いけど凄く弱そう」


「とっても弱かったわよ。学園でも一位二位を争うくらいの落ちこぼれだったわ」


「やっぱり?」


「けど、あの頃からかなり真面目な子でね。どれだけ自分の寵愛の力が弱くても鍛えることはやめなかったわ。なんでかは教えてくれなかったけどね」


「ふーん」

 

 時折、ヴィオラは剣先を飛ばして隙を窺うも鎖による防御は硬く大きな手傷は与えられず、カタリナはヴィオラの隙が見えているにも関わらず防御に徹していてお互いに決め手に欠けるような戦いだった。


「カタリナちゃん防戦一方だね。あんまり攻め気がないと削り倒されるんじゃない?」


「その前に決着が付くから大丈夫じゃないかしら」


「なんで?」


「どうしてだと思う?」


 質問をされ返されて少し面を食らうが、サキは分からないことは聞かないので、ヨゾラは少し自分で考えることにした。


「うーん? 強化武装がそこまで強かったら最初から使っているはずだから、強化武装には何かしらの制限がある?」


「正解よ。大抵の場合は時間制限になるわね。まあ、その前に破壊されると意味はないわね」


 問題に正解できたヨゾラの頭をサキは撫でた。しかし、周りに人が多く恥ずかしいのかヨゾラはサキの手を振り払った。サキは少し悲しそうにした。


「じゃあ、カタリナちゃんは時間切れを狙っているからあんまり攻めないんだ」


「そうね、下手に隙に飛び込んで反撃された方が負ける可能性があるから仕方ないわね」


 それだけ言うとサキは席を立ちヨゾラにお金が入った袋を渡した。


「まだ終わってないけどどこか行くの?」


「ヴィオラ・レアーツに興味が沸いたから、少し調査に行くのよ。ヨゾラは適当に楽しむといいわ」


「あの左手の呪い以外に?」


「そうよ。夜にも戻らないと思うから適当に時間を潰してなさい」


 そう言い残すとサキは足早にこの場から去ってしまった。残されたヨゾラは袋の中身を確認した。


「ん? 何これ」


 その中にはお金以外にも半分に折り畳まれた紙と、差出人不明の封蝋がされた手紙が入っていた。


「手紙は勝手に見ちゃダメだよね」


 ヨゾラは好奇心を抑えながら、半分に折られた紙の方を見た。


「えーっと、『ヨゾラへ この手紙を適当にカタリナに渡して置くこと サキより』。このくらい口で言ったらどうなの?」


 その疑問には誰も答えなかったが、別の疑問がヨゾラには浮かんできた。


「んー。この手紙の封蝋ってどう見てもこの前の封蝋だよね」


 その手にはヨゾラがカタリナに見せたものと同じ封蝋がされた手紙があった。


「まーた、企み事でもしてるのかなー」

 

 ヨゾラの視線の先では未だに強化武装が解けないヴィオラとカタリナの決闘が続いていた。


「まっ、適当に遊んで適当に渡せばいいでしょ。久しぶりに好きにお金が使えそうだし」


 状況が動かない決闘により観客の熱が冷めていくなか、ヨゾラはお金の使い道を考え一人で勝手に盛り上がっていた。

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