再演する鉄鎖

 もうすぐ、本官の運命が決まる決闘が始まります。再戦は二度はできないですからね。ですが、あまり緊張もしていないようです。自分のことなのに不思議ですね。

 昨日の連中も観戦しているのでしょうか。ヨゾラ君には良いところを見せてあげたいですね。あの笛吹き女はどうでもいいですが。

 結局、先輩達は誰一人として来ませんでした。やはり、笛吹き女の言うことは信用なりませんね。


「でも、エレナ先輩なら……」


 あの仮面の先輩なら本官に何も言わずに来て何も言わずに帰るのでしょう。そんなことはもうありませんが。


「カタリナさん、そろそろ始まります」


 運営の人が呼びに来ました。本官はそれについて行きます。やはり、あまり緊張していないですね。


「では、頑張ってください」


 そんな声援を受け舞台に上がります。そこには既にヴィオラさんがいました。左手の甲には何もないですね。普段は見えないようです。


「左手が気になります?」


 ヴィオラさんが話しかけて来ました。少し意外でしたね。本官のことを嫌いなのかと思ってました。


「いえ、別に。というか、本官のことは嫌いではないのですか?」


「もちろん、嫌いですわ。貴女には皇妃としての品性が足りませんもの」


 やはり、嫌われてましたね。というか品性ですか。確かに本官よりは先輩達の方が品性はありますが。ありましたっけ。なかったような。きっと、公の場ではしっかりしていますよ。

 

「本官も貴女の方がふさわしいと思いますよ。本官がいなければこのアデリアの皇妃にはなれたのでしょう。そもそも、本官はこの都の出身でもないですからね」


「なぜ貴女ような人がアデリアの皇妃になれたのでしょうね」

 

「アデリアの元領主があんな不祥事を起こさなければ、本官も皇妃にはなれなかったでしょうね。本官はその時のおこぼれを貰ったに過ぎません」


「へえ、そう」

 

 ヴィオラさんの雰囲気が少し変わりましたね。何かが癪に障ったらしいです。もう右手出してますし、どうやらお喋りはここまでのようですね。

 

「《鉄鎖の番犬》」「《陽射す舞姫》」


 お互いに武装が完了し、ヴィオラさんが盾を張って突っ込んで来ます。それしか有効打がないのでしょうか。というか、右手の武装から使用するのですね。そっちの方が楽で助かりますが。


「《解錠処置シールド・ケア》」


 それと同時に銃弾を放ち、光のベールが半透明な盾を消滅させた側から銃弾が通って行き、ヴィオラさんに着弾し、武装を封印し鎖で拘束します。やはり、武装を解除したときの光と封印したときの光は似てますね。他の人からすれば違いは分からないでしょうね。


「こんな隠し技を持っていましたのね」


 鎖で拘束されたヴィオラが話しかけて来ました。少し間抜けな姿ですね。あの笛吹き女もこんな風に拘束してやりたいですね。


「本官も初めてできましたよ。鍛錬って積むものですね」


 嘘ですよ。こんな小技を最初からしていると決闘がつまらないものになってしまい、観客もいなくなってますからね。ですが、難易度が高いのであまり使いたくないのも事実です。安定して当てられるように要練習ですね。


「《日食の祈手》」


 次は左手の武装をして来ましたね。最後には額から寵愛の証が出てくるのでしょうか。そうしたら、エレナ先輩なら笑いながら闘うのでしょう。本官にはできませんが。


「《太陽を砕く牙スコル・ファング》」


「《解錠処置シールド・ケア》」


 ヴィオラさんが剣先を飛ばし、光のベールを受けますが消えずに避けることになります。やはり、消えませんか。

 再び、銃弾を撃ちヴィオラさんに着弾しますが封印はされずに鎖だけ出て拘束しますが、すぐに砕かれ拘束が解かれてしまいます。


「面白い能力です。そんなに本官のことを倒したいらしいですね」


「貴女を倒すために用意してもらった能力ですもの。そうでなければ困りますわ」


 次は剣先を複数本飛ばしてきますが、これも難なく避けられますね。獣人の武装に感謝です。ですが、なぜ近づいてこないのでしょう。《施錠処置シールド・アレスト》も《解錠処置シールド・ケア》も効かないのであれば近づいてしまえばすぐに決着など着くでしょうに。


「近づいてこないのが不思議なんですよね」


 ふむ、バレてますね。ですか、情報を得るチャンスでもありますね。少し会話に付き合いますか。


「そうですね。分からないので本官に教えてくれますか?」


「教えるわけありませんわ」


 面倒臭い女ですね。ですが、ある程度は推測できます。本体には《解錠処置シールド・ケア》が効くのでしょう。なら、それを狙って先程と同じように同時に当てればいいのでしょう。

 

「《解錠処置シールド・ケア》」


 再び、光のベールと同時に銃弾を放ちます。これをヴィオラは避けようともせずに当たりに行きます。どうやら、本官のことを徹底的に打ちのめしたいらしいですね。少し笑みが溢れてしまいます。


「はあ!?」


 驚きの声を上げたヴィオラの眉間には穴が開いており、そこから光の粒子が漏れ始めています。当然でしょう。本官が撃ったのは《施錠処置シールド・アレスト》が発動しない普通の銃弾なのですから。


「こんなことでは終われないですわ!」


 顔を真っ赤にしたヴィオラが左手の寵愛の証が光り始めます。というか、まだ武装が破壊されないんですね。かなり丈夫な武装なようです。


「《太陽を断つ刃毛スコル・スキン》」


 ヴィオラの姿が再び変わり全身に毛皮のような装備になってしまいました。強化武装の類いでしょうね。やたら、剣先を飛ばす能力しか使わないと思ったらそういうことですか。

 強化武装には銃弾も通らなさそうですし、最後は殴り合いになってしまいますか。貴族にはふさわしくない姿なのであまり使いたくないのですが。

 

「《自己封印シールド・ブレイク》」


 本官の手首に長い鎖のついた枷が掛けられます。まるで囚人のようなので好きではないのですよ。


「さて、そろそろ決着をつけてあげますよ!」


 凄いスピードで向かって来るヴィオラに、本官は格好悪い姿で格好良い台詞を吐いてやりました。

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