第5話 気分的には最後の晩餐

 学校ってさ、意外と閉じられた世界だったりする。

 クラスの数は小中よりずっと多くて、学年の在籍人数もそれに比例するぐらい多い。

 だが大抵はクラスの中で交友関係というものは簡潔する。母数が多いからこそ、一人一人と接する機会が少ない。合同授業もなくはないが、それすらクラス内で固まるのであまり意味はない。

 それをなんとかする要素が、校内におけるもう一つのコミュニティ。つまり部活だ。部活ならばクラスが例え違くとも、コミュニティの中では同期という括りになるため交流が生まれる。

 更に同学年のみならず、上下の学年とも交流が生まれるのが部活の良いところだろう。学校生活で手っ取り早く交友関係を広げたいのなら、適当な部活に入部するのが一番確実だ。

 ──つまり何が言いたいのかと言うと、


「へー! そのお弁当、阿久根君の手作りなんだ! 良いねぇ。家庭的な男子はポイント高いよ」

「……うす」


 部活にも入っていない俺にとって、三年生のクラスとかマジで知り合いゼロな地獄ということ。

 借りてきた猫だってもうちょいヤンチャするぞってレベルで、凄い大人しくなっている自覚がある。


「ちょっと阿久根君? せっかくこうして皆でお昼食べてるんだから、もう少しちゃんと話そうよ。ね?」


 無茶言うな! ……と、言い返すことができればどれだけ楽か。こんな孤立無援の状況で逆らえるほど、俺の対人能力は高くない。


「……じゃあ、その、一つ質問があるのですが」


 ということで、大人しく話題を振ることに。そしてこの際だから、ずっと気になっていることを訊いてしまおう。


「質問ね。何かな?」

「……何でこのクラス、男子いないんです?」


 何でか知らないんだけど、先輩方のクラスに男子が一人も見当たらないんですよ。女子専用クラスなんて存在しないはずなのに。

 ガラッと教室の扉を開けて、目に飛び込んできたのは異性の先輩オンリー。しかも全員が俺に興味津々な様子で注目しているというね。色んな意味で居心地が悪い。


「アイツらはね。うん、追い出した」

「追い出した」

「ほら、見ての通り円香って美少女でしょ? だから男どもから余計な野次入るかなってことで、全員まとめてポイよ」

「そーそー。それに恋バナになるかもだから、余計なこと言いそうな外野はねー」


 ソッカー。何か不穏な単語が聞こえた気がするけど、気のせいだろうなー。それよりも迷惑をかけてしまった先輩方に申し訳ないなー。ホントニナー。


「ちょっ、二人とも!? 何でそんな誤解を生むようなことを言っちゃうの!?」

「いや、そんな終始モジモジした状態で誤解も何も……」

「もう誰が見ても一目瞭然というか……」

「アンタさ、仮にも結構な人数の恋愛の後押ししてきたんだから……」

「だからそういうんじゃないのよ!!」


 ……俺、この状況で何てコメントするべきなんだろう。ちゃちゃっと弁当処理してクラス帰っちゃ駄目かな?


「ほらほら。そうやって声を荒げてると、阿久根君にガッカリされちゃうぞー。アンタ、一応はクール系で通ってるんだから」

「阿久根君がそんなことでガッカリするような人じゃ……っ!? ち、ちがっ!!」

「はい墓穴。はぁー。コレがあの円香かぁ。変われば変わるもんだねぇ」

「あの落ち着いたお姉様は何処行っちゃたのか……」

「まあ、待ち望んでた王子様が現れたんだから、しょうがないんだろうけども」


 へー。高嶺の花が摘まれる時がきたのかー。スゴイナー。


「別に阿久根君は王子様じゃ……!!」

「誰も阿久根君の名前なんて出してないけど?」

「〜〜っ!! ぅぅぅ……」


 あ、柊先輩が撃沈した。……それはそれとして今何て言いました?


「ありゃ。ちとイジメすぎたか」

「本当にこの娘は。見事にポンコツに成り下がっちゃってまぁ」

「いやまあ、ギャップって考えればアリか……? ──そこんとこ当事者としてどう思う?」

「……当事者?」


 ちょっと何言ってるか分からないですね。


「いやいやいや。阿久根君、ここまで来てその反応はないでしょ。まさか鈍感かー?」

「コラ。そこで露骨に渋い顔しない。あとその反応ってことは、ちゃんと察してるじゃないの」

「いくないなー。ここで変に誤魔化すのは、男としていくないと私は思うなー」


 ヒェッ……。す、スタッフ先輩方の圧が凄い。え、これマジでちゃんと向き合わなきゃ駄目な奴です?


「……何をどうしたら、あの柊先輩がこんな風になるんですか?」

「っ!」


 何かドスッていう効果音聞こえた。


「はいクリティカル入りましたー」

「阿久根君……。見ての通り、今の円香は繊細なんだよ。ちゃんと言葉を選ばなきゃ」

「下手すると泣くよ。みっともなくすすり泣くよ」

「えぇ……」


 何でそんなことになってるんですか。あなた大勢から慕われる高嶺の花でしょう。


「何言ってるんだい阿久根君。何で円香がこうなってしまったのか。キミにはその心当たりがあるんじゃないの?」

「ちなみに誤魔化しは効かないよ? 昨日、頑張ってそこで伸びてるポンコツちゃんから聞き出したからね! 裏はバッチリ取ってあるのさ!!」

「柊先輩?」


 あなた、一体何してくれてるんです?


「……ぅぅ、あんなのただの尋問じゃない……」

「何言ってんのよ。半ばパニクって後半は自分から通話繋いできた癖に」

「私らがどんだけビックリしたと思ってんの。ほぼ前情報無しであのポンコツぶりを披露されたんだよ?」

「ま、そっちの事情は多少は知ってたつもりだったけどさぁ。それにしたってねぇ……?」

「しょうがないじゃない初恋なんだから!!」

「柊先輩!?」


 アンタしれっと何てこと言ってくれてんだ!! そろそろ言い逃れできない領域にまで到達しちゃってるんですけど!!


「……はっ!? いや、あの、違くてね阿久根君!!」

「……」

「……ぅぅ、もうやだぁぁ……」


 いやあの、再度撃沈、てか轟沈しないでください。この状況で一人取り残されるのはシャレになってないんですよ。

 ……ああ、クラス内からの生暖かい視線でゴリゴリ正気が削れていく。

 誰か助けて。何でこんな目に遭っているんだ俺は。

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