第22話 親友を想う気持ち

 昼休みに入り、僕は早々に食堂で昼食を済ませると屋上に向かった。


 今日は気温も落ち着いていて、外で本を読むのに絶好というにはまだ暑いけど、十分に許容できる範囲だった。


 先日購入したライトノベルの下巻を読む。上巻は主人公の成長した姿を存分に描写していたけど、下巻は過去の話で、主人公の成長を描いているようだ。


 しばらく読み進めていると、かえでが入口からちょこっと顔をだした。


「やっぱここにいたんだ。てか暑くないの?」


「このくらいなら大丈夫だよ。騒がしい教室よりは集中できるし」


「まぁそれはね、そういえば小テスト、あたしの言ったとこ出たでしょ」


「うん、ばっちりだった。ありがとう」


 休み時間中に見せてもらったノートの出題予想が見事に的中して僕も助かった。初めて見る内容ではないので、ノートを見れば暗記もできる。


 帰ったらできるだけ本を読みたいので、一応授業は真面目に聞いている。復習とかはやりたくないので、どうすればいいのか考えた結果、授業をまじめに本気で受ければ、家に帰ったら勉強する必要がないことがわかった。


 成績は祐介に勝ったり負けたりを繰り返している。楓には勝てないけど……。


祐介ゆうすけも完璧だったって言ってたよ」


桜井さくらい君は普通にやればできると思うけど、よりにもよってテストの前の日にゲームに熱中するなんてね」


 僕も人のこと言えないけど、よりによってテストの前日にゲームを買ってしまったのは微妙だったとしか言えない。まあ、期末とかじゃなかっただけマシか。


「楓はどうだった?」


「あたしは、まあいつも通りかな」


 楓のいつも通りはほぼ全問正解だろう、だけどその辺を控えめに言うところとか、密かに人気を集める楓の秘密なのかもしれない。


 楓は美少女と言っても間違いないくらい顔が整っている。しかし、性格がそう思わせるのか、高嶺の花のような感じではなく、頑張れば手が届くというような印象を与える。その性格は友好的で面倒見がいい、そのせいで勘違いしてしまう男子が多い。


 どう勘違いするのかは、楓が自分のことを好きかもしれないと思うみたいなのだが……。


 僕の場合はその接し方が昔からの楓の接し方だとすでにわかっているので、そんなこと思うことはないのだけれど……。確かに知らなかったら勘違いしそうだと思うことは多々ある。


 本人には自覚がないようだが……。


「なんか、楓がここにくるのは珍しいね」


「うん、それなんだけどさ、あたしに結衣ゆいの笑顔を見たことあるかって朝に聞いたじゃない? それであたし、あるって答えたでしょ」


「うん」


「でもさ……」


 楓は言いにくそうに言葉をつぐんだ。それは言っていいのかどうか、迷っているような表情だった。


「あたしが、結衣が笑っているところを見たのは、中学二年生が最後なの」


 楓の言葉の意味が僕はすぐには理解できなかった。


「どういうこと? 中学二年ってなんかあったの?」


「あたし、中学二年まで結衣の家によく遊びに行ってたんだよね。でも急に遊びに行かなくなったんだ。それが中学二年の時。その時さ……結衣の周りの環境が変わってね。お父さんに友達はもう連れてきちゃダメって言われたみたいなんだ」


 楓は人のプライベートをいくら僕でも話すのは気が引けているのか、言葉を選ぶように話した。その表情は真剣なものになっていた。


 その真剣な表情に僕は何かを感じた。それは雪乃ゆきのを想う楓の気持ちのような感じで、僕はその楓の雰囲気に呑まれてしまった。そしてそれは雪乃の笑顔とそのお父さんが関係しているのだろうか。


「雪乃のお父さんってどんな人なの?」


「……わからない、あたしはそのお父さんとは会ったことがないの」


 楓は何かを考え込むように視線を地面に向け、黙り込んでしまった。そして。


「ねえ春人、今日の放課後、結衣の家に行ってみない?」


「え、連れてくるなって言われてるのに、大丈夫なの?」


「こんなことをしててもらちがあかないわ。思い立ったら即行動よ!」


 さすが学年トップの行動力……いや、これは関係ないか。


 なんで僕も? と内心思ったが、楓の表情を見ていると、とてもそんなことを言えるような感じではなかった。僕に何かできるとは思わないが、僕は楓についていくように雪乃の家に行くことになった。



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