第25話 友情


恋と美紀が仲違いしてから数日…

美紀は恋と話そうと何度も試みたが、恋は受け答えしなかった。

「恋…お願い。私の話を聞いて?」

「……」

「恋…私に腹を立ててもいいけど、何か嫌な予感がするの。お願いだから話を聞いて?」

「美紀はわたしがまことくんと仲良くするの反対なんでしょ?わかったから」

「恋、あなたはまことくんにまぁやんさんを重ねてるだけだと思うの。でも彼の目はまぁやんさんみたいに澄んでいないの」

「美紀…何言ってるかわからないよ!もういいよ!」

「恋…」

美紀は、恋はまことがバンドをやってることでまぁやんと重なって見えて、まことの本質を見てないと警告したかったのだ。

(この不安はどこから来てるんだろ?)

美紀の不安は日に日に大きくなった。


恋はまこととデートを重ねた。

お互いまだ実際に交際を口に出さなかったが、恋も次第にまことに対し好意を持っていた。

「恋ちゃん、来週のクリスマス、一緒に過ごさない?」

「うん!どこ行く?」

「どっかでご飯食べてさ、カラオケでも行こうか」

「うん!わかった。生でまことくんの歌聞けるね」

恋とまことはクリスマスにデートすることになった。


そしてクリスマスイブの日

恋は一番お気に入りの洋服に着替えた。

これは恋の誕生日にまぁやんが送ってくれたものだった。

「佳奈さん!今日帰り少し遅くなるかも」

「そぉ?デートかな?お泊まりはだめよ!」

「何言ってるの!もう!」


恋は今日のクリスマスに、まことが何か自分に伝えてくれるのかと少し期待していた。

ワクワクしながら、待ち合わせ場所へ赴いた。

「恋ちゃん!お待たせ!」

「ううん!わたしも今きたところ」

「今日も綺麗だね」

「…ありがとう」

「じゃあ行こうか」

まことは恋に手を差し出した。

照れながらも恋はまことと手を繋いだ。

(これがほんとのデートなんだ…)

恋はこの時、ドキドキしていた。

レストランではイタリアン料理を食べながら、音楽のこと、まことが本格的にメジャーデビューを目指している事などを話した。

食事が終わってデザートの時に、まことが真剣な顔で

「恋ちゃん。俺…ちゃんと言ってなかったけど、恋ちゃんのこと好きです。つきあってくれませんか?」

と告白された。

恋は嬉しかった。告白されたのが初めてだった事、どことなくまぁやんに似た感じがするまことから好きだと言われた事。

(これでまぁ兄の事、忘れられる。もやもやが消えるかもしれない)っと思った。

「はい!こちらこそよろしくお願いします」

とYESの答えを出した。

まことは喜んで

「めちゃ嬉しい。緊張した〜」

「わたしも嬉しい…」

レストランをあとにして、ふたりは初めて出会ったカラオケボックスに赴いた。

まことの歌を聴いて、恋は楽しく過ごした。

曲が途切れた時、まことが恋の隣に座った。

「恋ちゃん。好きだよ」

そういってふたりはキスをした。

恋はファーストキスだった。

「恥ずかしい…」

するとまことは恋を抱きしめた。

「恋ちゃん…」

恋の首筋にキスをし始めて、再度恋にキスをした。

恋は身を任せていたが、キスが徐々に激しくなってきた。

(え…まことくん?)

恋は初めての事だったので戸惑った。

だが好きな彼が求めることだからと、受け入れた。

だが、まことの行動はさらにエスカレートしてきた。

恋の胸に手をやり、ブラウスのボタンを外した。

(ちょっ…え…)

服の中にまことの手が入ってきて、胸を触ってきた。

更にまことの逆の手は、恋のスカートの中に入ってきた。

「まっ…まことくん…ちょっと…待って…」

恋がそう言っても、息遣いが荒くなったまことには聞こえなかった。

恋はソファーに押し倒されて、まことが恋の上になった。

その時、恋の脳裏にはあの時の…拉致されて乱暴されそうになった時の記憶が蘇った。

「ちょっと!まことくん!待って!やだ!」

恋は必死に抵抗した。

その拍子に恋のスカートが破けてしまった。

まことは更に恋を抑えつけた。

すると恋の目に涙が浮かんでいるのをまことは見つけて、我に帰った。

恋から離れて隣に座った。

恋は押し倒されたままの姿で泣いていた。

「ご…ごめん…俺…」

恋は破れてしまったスカートを隠して、はだけたブラウスを整えた。

「…わたし…帰るね…」

恋はカバンを持って部屋を出て行った。

恋は放心状態だった。

今まで好きになった、優しいまことが、急に怖い存在に思えて拒絶してしまった。

「う…うぅ…まぁ兄…龍兄…お兄ちゃん…」

泣きながら街を歩いた。

そしてせっかくお気に入りだった、まぁやんからプレゼントされた洋服がボロボロになってしまった。

恋は公園のベンチに座った。

そして携帯を見ると、美紀からメールが届いていた。

『恋…この間はほんとにごめんね。許して欲しい…恋とはずっと友達でいたいから…メリークリスマス』

それを見た瞬間、涙が溢れて止まらなかった。

そして美紀に電話をかけた。

☎︎「プルルルル〜プルルルル〜ブッ」

☎︎「恋…メール見てくれた?」

☎︎「美紀…わたし…わたし…」

☎︎「恋!どうしたの?何で泣いてるの?」

☎︎「美紀…助けて…会いたいよ…」

☎︎「今どこ?恋!」

☎︎「大通公園…」

☎︎「恋!そこ動かないで!すぐ行くから!」

☎︎「うん…」

電話は切れて、恋は座り込んでしまった。

どれくらい時間が経っただろうか?

そんなに経ってないが、恋にとってこの時間は寂しくて長く感じた。

その時であった。聞いた事のある車の音が聞こえた。

「れーーん!どこ?れーーん!」

車の助手席の窓を開けて、身を乗り出して叫ぶ美紀の姿が見えた。

「みきー!」

車が止まった途端、助手席から美紀が飛び出して、恋の元へ走って行った。

「れーん!」

美紀は恋に抱きついた。

「恋、大丈夫?」

恋の姿を見た美紀は何かを察したが、今は詳しく聞くのはよそうと思って、

「うちにいこっか?おいで?」

そう言って恋の手をひいた。

車は龍弥のものだった。

「恋!どうした!おま…」

そう言った時に美紀に制止された。

「龍ちん、ごめん。うちに行ってもらっていい?」

「あぁ!わかった」

美紀と恋は後部座席に乗り込んで、美紀は恋をずっと抱きしめていた。


美紀の家に着いて、ふたりは降りた。

「龍ちん、また連絡するから。ちょっとホテルに行ってて?」

龍弥は詳しい状況はわからないものの、ここは美紀に任せるべきだと思って、

「わかった。恋を頼んだ…」

「このことは、まぁやんさんには…」

「あぁ、わかってる。じゃ」

龍弥と別れて、恋は美紀に連れられて、美紀の家に入って行った。

「恋、まずここ座って?」

美紀は恋をソファーに座らせた。

「今カフェオレ作ってあげるから、ちょっと待ってて」

美紀はキッチンへ行ってコーヒーを淹れていた。

恋はまた泣いていた。

ふと見ると、食べかけのケーキが二人分、テーブルにあった。おそらく龍弥とクリスマスを過ごしていたのだと思った。

「はい!恋。熱いから気をつけてね」

美紀が淹れてくれたカフェオレを一口飲んで、また涙が溢れてきた。

「美紀…ごめんなさい。龍兄とクリスマス過ごしていたのに…わたしのために…」

「当然だよ!私達は親友だよ!彼氏よりも大事なんだからね!」

そう言う美紀に、恋は抱きついた。

「美紀…わたしを許して?美紀に酷い態度取っちゃって…わたし…わたし…」

「よしよし。何も気にしないの。大丈夫だから」

「うぅ〜美紀ぃ〜うぅ〜」

恋はしばらく泣き続けたが、その間美紀はずっと恋を抱きしめていた。


ひとしきり泣いた恋は少しずつ落ち着いてきた。

「恋、無理には聞かない…でも…恋が話したかったら、私は聞くよ…」

「うん…今日ね、まことくんとデートしたの。レストラン行って…そこで初めて告白されたの」

「うんうん」

「わたし…すごく嬉しかった。美紀…前に言ってたしょ?恋はまぁやんさんの影を消したいから雰囲気の似てるまことくんに意識いってるって…」

「うん…ごめんね」

「そうじゃないの。あの時図星だったから…だからあんな酷いことを美紀に言っちゃった」

「うん。いいんだよ。それで?」

「そのあとね…初めて出会ったカラオケボックスに行ったの。二人で。最初は歌歌ったり楽しかったんだけど」

「うん…」

「まことくん、キスして…くれたの。ファーストキス。嬉しかったの…すごく…でもそのあと…」

「恋、無理に言わなくていいからね」

「大丈夫。そのあと、だんだんエスカレートしてきちゃって…激しくなってきちゃって…胸…揉まれたり、スカートの中に手を入れられて…パンツ触られて…

「……」

「その時、あの拉致られた時の思い出が蘇ってきて、怖くて、怖くて…」

「うん…怖いよね…」

「やめてって言ったんだけど、なかなかやめてくれなくて…わたし…抵抗して…その時にスカート…破けちゃって…」

「…そっか…」

「わたし怖くてつらくて、まことくん、謝ってたけど…その場から飛び出してきちゃった」

「恋…怖かったね…もう大丈夫だよ」

「みきーーーー!うわーん」

恋はまた号泣した。

「恋…もう大丈夫だから。よしよし。ね。もう大丈夫」

恋は泣き止んだと思ったら、そのまま眠りに落ちていた。

美紀は恋をベッドに連れて行って、寝かしつけた。

「恋をこんな目に遭わせやがって…許さない!」

美紀は恋のスカートを脱がせて、布団をかけて上げた。

「このスカート…確かまぁやんさんからプレゼントされたってすごく喜んでいた…恋のお気に入りのやつじゃん」

美紀は破れているところを直せないかと思い、裁縫道具を出して直した。

そして綺麗にした後、恋に抱きつくように、眠りについた。

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