第19話 愛する気持ち


翌朝

恋が目覚めると、まぁやんはいなかった。

「ん、あれ?まぁ兄?」

恋が部屋を出ると、他の5人はみんな起きていた。

「恋、おはよぉ」

「恋ちゃんねぼうー」

「遅いぞ!恋」

「ごめんごめん!ちょっと寝付けなくて。顔洗ってくるね」

恋は顔を洗って身だしなみを整えた。

「お待たせ!」

その後みんなで朝ごはんを食べて、恋以外の5人は龍弥が送ってくれることになった。

(えぇ!龍弥さんと喋れるかも!)

美紀はトキメいた!

「ねぇ、わたし助手席でいい?」

「美紀ぃ〜。あんたもしかして…」

「な、なんのことよ!私はただ…」

「おーい!行くぞ〜!早くしろぉ〜」

龍弥がみんなを呼んでいる。

「後で詳しく聞かせなさいよ」

「う〜…」

そう言って美紀は龍弥が運転するワゴン車の助手席に座った。

「ん?後ろじゃなくていいのか?」

龍弥は助手席に座った美紀に問いかけた。

「はい!ここがいいんです!視界が広いし…あと…」

「ふぅ〜ん。そっか。まぁいいや」

美紀は運転する龍弥の横顔をマジマジと見てた。

(やっぱりカッコいい!龍弥さん…)

「…なんだよ?何か視線感じるな…」

「あっ…いや…その…龍弥さんって、独身ですか?」

「あぁ。そだよ」

「お仕事って何やられてるんですか?」

「建築士だよ。A市で設計事務所に勤めてるよ」

「そうですかー!カッコいいですね」

「建築士がか?そうなのかな」

(もうやばい!こんな恋したの初めて…)

美紀の頭の中はお花畑になっていた。

「龍弥さん、昨日はほんとありがとうございます。助けに来てくれて嬉しかったです」

「いやいや全然気にするな。それより傷は大丈夫か?」

「大丈夫です」

「これに懲りて、もう悪さするなよ?ちゃんと勉強して、他の奴ら見返してやれよ」

「はい!」

「やっぱり、はいって言ってくれる子は可愛いな」

そう言って龍弥は美紀の頭を撫でた。

その時美紀は…キュン死した…


その頃恋は、康二がくるのを待っていた。

(ちゃんとお兄ちゃんに謝らないと)

関口さんが恋に紅茶を淹れてくれた。

「はい。どうぞ。康二さん遅いね」

「ありがとう。佳奈さん。大丈夫。待ってる」

「ねぇ恋ちゃん。これからの事考えようか」

「これからの事?」

「うん…恋ちゃん今高校2年生でしょ?そろそろ進路というか、将来何になりたいのかを決めないとね」

「進路かぁ」

「あと3年で、恋ちゃんもここを巣立っていくかもしれないんだし。わたしはずっといて欲しいけど、そうもいかないからさ」

「なりたい自分…なんか全然考えていなかった。勉強もしてなかったし、これから行動して間に合うのかな?」

「大丈夫!間に合う!勉強なら任せて!私が教えてあげるから!」

「佳奈さん…勉強できるの?」

「まぁ!失礼ね!こう見えてもわたし、高校の教員免許持ってるんだよ」

「うそー!どうして教師にならなかったの?」

「ちょっと違うの…教師を辞めたの…」

関口さんはちょっと悲しそうな顔をした。それを察した恋は深くまで聞かなかった。

『こんにちは〜』

康二が学園に到着した。

「来たよ。恋ちゃん。さぁ!」

恋は関口さんに連れ添ってもらい、康二の元に向かった。

「康二くん…恋ちゃん、無事だったよ」

恋は康二の前に立った。

「お兄ちゃん…ごめんなさい」

『パシーン!』

康二は恋の左頬を張った。

そしてすぐに恋を抱きしめた。

「バカ!お前…何やってたんだ!ほんと…」

康二は恋を抱きしめながら号泣した。

「お兄ちゃん。ごめんなさい!わたし…わたし…」

恋も一緒になって号泣した。

「恋、お前にもしもの事があったら…俺は…」

「もう絶対どこにも行かない!だから…お兄ちゃん…」

その光景を見ていた関口さんも涙が止まらなかった。

(やっぱり兄妹っていいなぁ)


ひとしきり泣いたところで、3人は談話スペースで話しをした。

「お兄ちゃん、この間殴られたところは大丈夫?」

「あぁ!大丈夫だ。ほんとはさぁ、あいつらを暴行罪で告訴してやろうと思ったんだが…やめた!」

「どうして?」

「実はな、まぁやんに言われたんだ。あいつらを訴えるのはやめてくれって」

「まぁ兄が?」

「あぁ、あいつ『俺がケリつけるから、お前はひいてくれ』ってな」

「そうだったんだ…」

「それで?恋はこれから先どうするんだ?」

「さっきね、佳奈さんともその話してたの。わたし、勉強頑張る!まだ何になりたいとかは考えられないけど、大学に進学したいと思ってる」

「そっか…こっからやり直すぞ!」

「うん!」

「ところでまぁやん、遅いな…」

「まぁ兄はどこに行ったの?」

「うん…最後のケリつけるからって言って出てったんだ」


まぁやんはあの倉庫跡にいた。

恋たちが監禁されていたところに行くと、城田と澤達がいた。

「よう!お前ら!」

「あ!あなたは…まだ何か用ですか…」

「なーにしょぼくれてんだよ!だらしねーな」

「…」

「城田さんよ…柏木とケリついたから…もうこれで終わりだ。お前らからケジメ取ることは何もない。そうだろ?雷斗?」

まぁやんの後ろから雷斗が姿を現した。

「か…若頭!」

「城田ぁ。おめぇクスリなんかに手を出しやがって」

「……」

「本来なら破門だけどな…今回だけは不問にしてやる」

「え?」

「え?じゃねぇよ!まぁやんに感謝しろよ」

「あ…ありがとうございます!」

「それから!そこにいるガキども!」

『はい!』

「テメェらも、本当ならコンクリ漬けにして海に沈めるところだけどよぉ!二度と弱い立場のやつらに手ェ出さないで、しっかり男を磨くんなら、面倒見てやる!どうするんだ?あぁ!」

『はい!すみませんでした!よろしくお願いします』

「まぁやん、これでいいか?」

「サンキュー!雷斗」

まぁやんは雷斗の肩をポンっと叩いた。

「オメェら!今一度まぁやんに対して、礼をしろ!」

『はい!ありがとうございます!まぁやんさん!」

「やめろよ…雷斗…」

「くくくく…」

「あはははは…」

まぁやんと雷斗は倉庫跡を立ち去った。

「ところで恋ちゃん、大丈夫か?」

「大丈夫!あいつは強いから」

「そっか。よかった」

「それよりもよ、あの時学園にあいつらが来たんだよ。恋を探しに。そん時に苑香さんが助けてくれたんだ」

「苑香が?」

「礼を言っといてくれ」

「わかった!学園まで送るよ。恋ちゃんの顔も久しぶりに見たいし」

「サンキュー」


「ただいまー」

「お邪魔します」

まぁやんと雷斗が学園戻ってきた。

「まぁ兄!おかえりなさい」

「恋、康二とは話済んだか?」

「うん!まぁ兄、一緒にいてやるって言ってたのに」

「あっ!悪い!忘れてた!」

「んもう!」

そして雷斗が恋に頭を下げた。

「恋ちゃん、今回はうちの者が酷いことをして。申し訳ない!」

「雷斗さん!頭あげてください!悪いのはわたしなんですから」

「いや…でも…」

「わたしは大丈夫!いい人生勉強になったと思えば」

「恋ちゃん…強いな…」

「えへへ…」

康二も奥から顔を出した。

「雷斗さん、ほんと大丈夫です。気にしないでください」

「康二さんまで…ありがとう」

「よし!今回の件はこれで終い!」

まぁやんが手を叩いてみんなに言った。

みんなに笑顔が戻った。

「じゃあ俺、帰るわ!俺みたいなのいると、康二さん体裁わるいでしょ?」

「あ…いや…全然」

「はははは!冗談!じゃあまたな!」

「おう!雷斗、元気でな!」

雷斗は車に乗り込み、帰っていった。

「さぁーてっと!俺は寝るかな」

まぁやんはほとんど寝ていなかった。

「じゃあわたしが子守唄歌ってあげる!」

「いらんよ。ガキじゃあるまいし」

「うふふふふ」

「その笑い方気持ち悪いからやめろ」

ちょっとした行き違いから、大きな事件にまで発展した今回の一件。

まぁやんはこれから自分のことだけではなく、家族の事もちゃんと考えていかないとと、改めて思った。

そして恋には、まぁやんに対して特別な感情が生まれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る