第11話 龍弥の歩む道


まぁやんが東京に行って3ヶ月後。

まぁやんから龍弥に電話が入った。

☎︎「龍、元気か?」

☎︎「あぁ、変わらずだ。みんなも元気だぞ!そっちはどうよ!東京のシティボーイめ」

☎︎「なんだよそれ!ところでお前の進路は決まったか?」

☎︎「うーん…」

☎︎「お前、建築士になりたいんだろ?目指せよ!」

☎︎「お前な…簡単に言うけど、難しいんだぜ!建築士っていうのは」

☎︎「俺だってよ、やりたいことがなかったところからスタートして、今ここまできてるんだ。お前ならできるって」

まぁやんは龍弥が悩んでいることに気がついていた。

☎︎「勉強してはいるよ!まずは2級建築士を取って、設計事務所とかに就職しようと思ってる」

☎︎「なんだ!ちゃんと考えてるじゃねーか」

☎︎「まぁな」

☎︎「龍、俺よ…将来はお前が設計した家を買って、そこでお前や康二、恋と一緒に住むのが夢なんだ」

☎︎「……」

☎︎「だからよ!頼むぜ!未来の建築士」

☎︎「あぁ!やってやるよ!」

龍弥はこのまぁやんの電話で迷いを拭い切れた。

(難しいからって迷っててもしょうがない。行動あるのみだ)

その日から、龍弥の猛勉強が始まった。


そして2級建築士試験の結果が届いた。

恐る恐る封を開ける。

……

「みさきさん!俺!受かってた!」

「本当にかい!よかったねぇー」

龍弥は早速、まぁやんに電話で報告した。

☎︎「まぁやん!受かった!受かったぞ!」

☎︎「おぉ!おめでとうさん!やったな!」

☎︎「あぁ!こっから頑張って設計事務所の求人当たっていくわ!少しホッとしたぜ」

☎︎「ばーか!まだ就職が残ってんだろ。ホッとしてる場合かよ!」

☎︎「辛辣だなー。人が喜びにふけってるのによ」

☎︎『はははは』

龍弥の次の目標が定まった。

設計事務所への就職だ。設計事務所に入れば、働きながら1級建築士を目指せる。

龍弥の目線は就職活動一点に絞られた。


龍弥の就職活動は苦戦を強いられた。

大手の設計事務所は、龍弥をみてくれずに書類先行で落とされた。悔しさが続いた。

(もしかして…孤児だから落とされてるのか?)

っと自分が差別されてる風にも思えた。

ある日、龍弥はいつものように就職説明会に赴いた。

そこで大手の建設事務所の説明を受けていた。

そこの会社の人が、参加者に対して

「では、今いる方で自己アピールしてみたい方いますか?」

っというくだりがあり、龍弥は積極的に手を挙げた。

「はい、ではそこの方、どうぞ」

龍弥は一呼吸置いて、話し出した。

「○○大学、理工学部の吉川龍弥です。わたしには親はいません。幼い頃に父が亡くなり、母親は蒸発しました。そのため特別養護施設である興正学園で育ちました。ですが、わたしは自分が不幸であるとは思っておりません。なぜなら、その学園で血の繋がりよりも強い絆で結ばれた、わたしの家族がいるからです。

わたしが建築士を目指している理由として、家族が笑って暮らすことができる建物を設計したいと思い、将来は自分の家族のための家を設計したいと思います」

辺りがシーンとなった。

龍弥の自己アピールが、皆の心に響いたのだった。

しばらく沈黙のうち、ひとりの年配の男性が

『パチパチパチパチ』

と拍手をした。

それにつられてか、大きな拍手が起こった。

「いや…その…ども…」

龍弥は一気に恥ずかしくなった。


そして、その会場も終わり、龍弥が会場を出ようとした時、さっきの年配の男性に呼び止められた。

「君…確か吉川龍弥さんですね」

「はい…そうですが…」

するとその男性は龍弥に近づいた。

「君の自己アピール。実に素晴らしいと思ったよ。久々に胸にじーんっと響くものだった」

「そっそうですか?…ありがとうございます」

龍弥はその男性が何者なのか解らず、少し警戒していた。

その雰囲気に男性はいち早く気づき、

「あっ!わたしとした事が。つい興奮しちゃって、名乗ってなかったね。わたしこういうものです」

そう言って名刺を差し出した。

(◇◇建設株式会社 代表取締役会長 尾島幸雄)

「えぇ!っとすみません。ちょっと驚いてしまいました」

建築会社では最大手の会社であった。

「近頃の就活生は、小難しいことは言えるんだけど、言葉血が通ってない。しかし、今日の君の自己アピールは、温かみがあって、率直で素直で、人間味溢れるものだった。これこそ建築士に求めるものなんだ」

「あ…ありがとうございます!」

「君、家族笑って過ごせる住宅を設計したいって言ってたよね」

「はい!そうです!」

「なるほど…」

尾島会長は少し考えて

「うちの会社はね…最近は住宅は作ってないんだよ。公共事業やビルがメインなんだ…」

「そうですよね。会社案内で把握してました。でも建築会社の最大手の御社の話を聞きたくて…」

尾島会長はまた少し考えて

「どうだろうか?吉川さん。あなたがまだ内定もらってないのであれば、わたしが個人的にやっている子会社みたいなところで働いてみないか?小さい会社だけどね」

「え!」

「そこはね、住宅専門で新築からリフォームまで幅広く取り扱っているんだ。設計士から営業、事務、工事から全部やってるんだ。君なら温かい住宅を作りそうだなって思ってね」

「わたしでいいんですか?」

「君がいいんだよ。君さえ良ければの話だ。収入は本社の初任給と同じでいい。興味があれば連絡して?」

そう言って名刺を渡された。

龍弥は突然のことで頭の整理が追いついていなかった。

尾島会長がその場を去っても、しばらく動けなかった。


☎︎「そっか…そんな事があったのか…

龍弥はまぁやんに相談していた。

☎︎「あまりに突然なことで、頭がパニックだよ」

☎︎「龍はどうしたいんだ?」

まぁやんは龍弥の事だから、きっと誰かに背中を押して欲しいんだと思ってた。

☎︎「住宅の設計に携われるのはすごい魅力的だ」

☎︎「じゃあ、不安要素はなんだ?」

☎︎「不安要素…んーまぁ…突然の話だからね。いい話には裏があるっていうじゃない?」

☎︎「ことわざかよ?でもな、そう言う出会いって大事だぜ?まずはきちんと相手の話を聞くことだ。それからでも遅くないと思うぜ」

前までは龍弥がまぁやんの相談に乗ってたが、今はその逆になっていた。

龍弥はその時

(まぁやんの野郎は成長してる。自分は遅れているな)

っと思った。


後日、龍弥は尾島会長に連絡を取り、詳しい話を聞きたいと申し出た。

すると本社のビルまで来てもらいたいと言われ、指定された日時に本社のビルに行った。

受付で名前を伝えると、広い応接室へ通された。

(コンコン)

「はい!」

(ガチャっ)

「やあ!よく来てくれたね!吉川くん」

やはり、この間の方は間違いなく尾島会長であった。

一緒に若い男性も入ってきた。

「紹介するよ。彼は星野くんというんだ。星野くん、彼がこの間話した吉川龍弥くんだ」

「初めまして。吉川さん。わたしは会長の会社で専務をしている星野と申します」

「吉川です!初めまして!」

「さぁさぁ、お座りください」

龍弥はふかふかのソファーに浅く座った」

「吉川くん、どうだね?考えてくれたかね?」

龍弥の心臓は相手に聞こえてしまうのではと思うくらい高鳴っていた。

「本日は、もっと詳しい内容をお聞きしたく、参上致しました」

龍弥がそう言うと、尾島会長と星野は顔を見合わせて笑った。

「あははは!いやいやすみません。会長のおっしゃった通り人物だなって思って」

星野は満面の笑みで龍弥を見た。

「では早速ですが、我が社のことをお話ししましょう」

星野は細かく、会社の事、待遇面、仕事内容を説明した。

「…とここまでが説明となりますが、吉川君の方から質問等はあるかな?」

「はい…わたしはまだ2級建築士しか持っておりません。それでもこの待遇っというのは何故でしょうか?」

龍弥の待遇面は、普通の大学卒の平均初任給のおよそ1.7倍であった。

「これは会長の判断です。あなたの可能性に投資した金額と思っていただいて結構です」

「いや…わたしもあまりお話ししてないのに、可能性と言われても…」

すると尾島会長が

「私はね、今までたくさんの人を見てきたんだ!そしていつも自分の直感を信じてここまで来たんだ。だからそんなに謙遜する必要はないんだよ。私はね、君と一緒に仕事をしてみたい!そう思ったんだ!どうだろうか。私と一緒に、いい住宅を作ってみないかい?」

その言葉を聞いた瞬間、龍弥は身震いした。武者震いと言ってもいい。

そして龍弥の意志は岩のように固まった。この人達と仕事がしてみたいと。

「尾島会長!星野専務!不束者ですが、よろしくお願いします!」

その言葉を聞いた尾島会長と星野は吹き出した。

「おいおい!嫁入りじゃないんだから!あははは」

望まれて仕事ができる!こんなに幸せなことははない。

龍弥の道は、追い風に乗って進む舟のように、勢いを増して進み出した。

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