第1話 6頁

 一人部屋に残された弥生は、ようやく原因がわかって、絡んだ糸が解けたような気がしたが、それと共に虚しさがじわりと心を包んだ。

 本当は、何でも出来て、強くて、独りでこの家を支えて、しっかりと生きている大きな背中に憧れてた。そんな兄さんに俺の力の無さを知られて、自分の弟である事を失望されて、呆れられるのが怖かった。神無兄さんも、あんな感じでも凄い芸術の才能があって、やりたい事が明確で、進路も決まっていて、眩しいんだよ。

 それに比べて俺は。どうすればいい?

 弥生のこの劣等感は、いつしか自分から孤独や寂しさを作り出していた。


「畜生。」


 今更気が付いた所で、どう皆と接すればいいのか、わからなかった。


 三者面談の日になった。その午後。学校の放課後に、かなめは約束通り、弥生の学校へ行くことになっていた。

 いざ学校へ行こうと、玄関で靴を履き、外に出た。玄関から、敷地の外に出る正門までは、綺麗な石畳の整備がされていて、かなめも外出時は、ここを通っていた。

 すると、行く手の先の向こうから、三つ揃いのスーツをバシッと決めた見覚えのあるインテリ風の男が歩いて来るのが見えた。かなめはぎょっとして、その場に立ち止まった。予期せぬ、“小姑”の帰郷である。


「か、影近さん?!」


「なんですか?その顔は。」


 はぁ。と、かなめを見るや否や、その男はため息を付いた。


「あの、私これから用事があって。」


 慌てながらかなめが言うと、影近は淡々と言った。


「弥生様のところなら、行かなくて大丈夫ですよ。」


「え?」


 どうして知ってるのだろう。かなめはドキリとした。





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かなめと月裏の台所🌙 柊楓 @izokasum5436

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