第1話 4頁

 次の日の朝、かなめは昨夜台所に置いておいたお盆を見て喜んだ。いつも通り、今朝も味噌汁から作り始める。ご飯は、タイマーで前日の夜にセットしてあるので、もうじき炊ける。

 てきぱきと朝ごはんのおかずを拵える。同時にお弁当も作る。最近になってようやく、この台所係が板についてきた。

 といっても、朝ごはんは大抵、卵料理とぬか漬けと、半身の焼き魚だったり、ウィンナーだったり。ほんとに簡単なものだ。お弁当は、最近上手になってきた卵焼きと、時間がある時に作った、作り置きの副菜を詰める事が多い。


「朝ごはん出来ましたよ。」


 天童家の食卓は、皆が集まって食べるのが基本だ。長テーブルに、いつも1番早く席について新聞を読んでいるのは、天童家の2代目で弥生達の祖父の八朔だった。

 しばらくして、交替制でやっている朝の掃き掃除を終えた勝と、風呂掃除を終えた穣が口喧嘩をしながら席についた。2人が朝食を食べ始めると、眠たそうに次男の神無がやって来る。そうして食べ終わるくらいに食卓の横を、三男の弥生が通り過ぎる。


「弥生君、お弁当!」


「いらない。」


 いつも通りの返答だ。かなめは今朝の嬉しい出来事に少し期待していたので、ちょっとがっかりした。


「はい、ですよねぇ。」


「ご馳走様でした。かなめさんも懲りないねー。あいつも悪いけどさ。俺は有り難く頂くよ~。」


 神無は弥生と違い、ふわふわと何に関しても柔らかい。掴み所がない。当たり前のようにお弁当を受け取って、毎日遅刻寸前くらいで学校へ向かう。


「かなめ嬢、あんまり気にしても、若はヘソ曲げまくるだけだから、いっそ、そっとしておけばいいんじゃねーかな?」


「確かに。あの年頃は、あんな感じだよ。反抗期ってやつ?」


 勝と穣も、朝食を食べ終え、仕事へ行く。かなめは、2人にもお弁当を作っているので、それを渡した。ただ、2人がどんな仕事をしているのかは知らなかった。


「でも、気にして貰いたいのが、子ども心でもあると思いますから。“ツンデレかまちょ”と言うやつです。」


「“ツンデレ、かまちょ”?」


「なにそれ、若者言葉?」


「はい。なので、対処法としては、こちらは、うざいくらいに、ただ毎日同じ事を繰り返すって感じです。そしたら、そのうちあっちが変わりますから。」


 かなめは、確信しているように少し悪っぽく、得意気に言った。その様子に、勝と穣は顔を見合わせて笑った。


「いや~、さっすがだわ。」


「なる程ね。かなめ嬢すげぇわ。」


「え?なんか良い事言いました?」

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