第四章 9
「「は?」」
と返す私とカミラに怯む事なく、
「きっと前世で私達が死んでから、続編が作られたのよ!よくあるでしょう?転生ヒロインや悪役令嬢が事故か何かで死んだ後、知らない間に続編が発売されいてたパターン!」
「いえ、確かにそういうパターンもあるにはありますがその場合ヒロインも変わっているのでは?」
懐疑的な私の言に、
「確かにそのパターンもあるけれど、続投のパターンだって珍しくないわ!そしてその場合、ヒロインに惹かれる攻略対象は追加される……!考えてもみて?トラメキアの皇太子にナディルの次期公主、 、どこかの国の御落胤らしき影を持った孤独な美青年、豊かな宝石産出国の国王陛下!学園卒業からひと月も経たないうちにこれだけの殿方が現れてるのよっ?」
「……言われてみれば」
考え込むカミラに対しアリスティアは(そんな感じじゃなかったけどな)と思う。
「ですが、ナルジア国王には既に王妃がいらっしゃいますよね?あと、複数の側妃や妾妃も?」
「ああそうだ、ナルジア王国の国王と言えば女たらしで有名だったんだわ__思い出した。なんでも金にあかせて目をつけた女性を片っ端から自分のハーレムに連れ込んでは爛れた性生活を送ってるって噂の男じゃなかった?歳は四十代で子供も沢山いて__、それにアリスより年上の子もいるんじゃなかったっけ、ヒロインの攻略対象としては無理があるんじゃない?」
「そ、それはそう?ね。じゃあナルジアの王様は違うとして__あ、もしかしたら自分の息子の一人とアリスティアの縁談を勧めに来たとか?書状じゃ断られると思って自らが金銀財宝積んで来た!とか。でもって、さり気なく息子を従者の中に紛れ込ませておいて隙をみて引き合わせるとか__」
想像力が豊か過ぎる。
私はお茶をぐいっと飲み込む。
「で?その場合、悪役令嬢は誰になるわけ?こうしてアリスが王城にいる場合、ミリディアナは本来なら追放されてるんでしょ?」
「え えぇ、」
ミリディアナはゲーム本来のストーリーを思い出したらしく気まずげに目を泳がせる。
「その場合、国にいらっしゃる婚約者の方が担う事になりますわね。ナルジアの王子様の婚約事情まではわかっていないし、カイル様にはいらっしゃらないわよね?だとしたらライオス様の婚約者かしら?あ!ユリアナ様では?」
本気で悩むミリディアナに、
「あなたねぇ……、そもそもあのお子様姫じゃ小物すぎるわよ、相手にならないじゃない。それとも何?アリスにこの国から出てって欲しいわけ?」
「ち、違うわ!ただ、ロマンチックだと思って、」
「不倫紛いのドロドロ略奪劇のどこがロマンチックなのよ?そんな事考えてると“追放された悪役令嬢が返り咲いて今度こそ処刑コースに巻き込まれる“なーんてパターンが出てきちゃうかもよ?」
「えっ……」
固まるミリディアナを放置して、
「悪気はないのよ、どこまでも乙女ゲー脳なだけで」
とカミラに謝罪されてお茶会はお開きになった。
同じ頃アルフレッド達はナルジア王国の王、ルカスと対面していた。
金満家で策謀家のこの王は金と宝石の取引についてレジェンディアに有利な条件を提案して国王を解してから、
「王子殿下がたにご挨拶したい」
と如才なくこの対面にこぎ着け、
「先ずはこのレジェンディアに聖竜の加護を受けし乙女が現れたことまたその乙女と第二王子殿下とのご婚約が速やかに整いしことお祝いもうしあげる。この婚約を経てレジェンディアは更なる発展を望めることであろう__ついてはその姫君に御目通り願いたい」
(こいつ……!)
皮肉だらけの祝いとも言えない祝いを述べた後にこのセリフである。
双子の纏う空気が剣呑なものになっても無理はない。
「生憎彼女は体調を崩している為その申し出には応じかねる」
アッシュバルトが即座に切り返すが、
「はて?我が部下からそのような報告はあがっておりませんでしたが__失礼ながらいつからお伏せになられた?」
「……何だと?」
ここまであからさまに「
唸るように呟いたアルフレッドが即座に室内外に控えている騎士達に拘束を命じようとした途端、ナルジア国の王は思いもよらぬ言葉を吐いた。
「我が息子の無礼のお詫びと、心を開いて下さったお礼を申し上げたい」
と。
「カイルが、ナルジア王国の王子……?」
それから数刻後、一室に呼ばれたアリスティアはその情報にまず驚く。
部屋には六人が集まっていたがアリスティアとアルフレッドの位置はアッシュバルトとミリディアナを中心に部屋の端と端に分かれ、カミラとギルバートもそれに付き合っているので同じ部屋にいながら互いの顔は馬鹿ップルに遮られて見えないという非常に話し合いには向かない状態での会議となっている。
「カイル本人にも確認を取ったところ間違いない、ヤツは間違いなく生物学上カイルの父親だそうだ」
アルフレッドが嫌そうに言い、ミリディアナは「まぁ……」と驚いているが心なしか瞳が輝いているように見える__のは私だけだろうか。
ちらっとカミラに目をやると僅かに頷かれた。
やっぱり「Ⅱが…!」とか思ってんのか、あの元悪役令嬢様は。
私は大きく息を吐いた。
「……そう嫌そうにため息を吐かないでくれ、私達もあの男と君を会わせるつもりはない」
今のはミリディアナに呆れたからであって他意はなかったのだが、アッシュバルトには別の意味にとられたらしい。
「いえ、あの、そういう訳では」
らしくもなく言い淀むアリスティアに、
「へぇ?君会いたいの?奴がカイルの父親だから?」
「__そんな事は言っていません」
一段低くなったアリスティアの声に、
「ふーん、じゃあどういう訳で?」
アルフレッドは更に言い募る。
「純粋に驚いてるのよ、突っかかるんじゃないの」
カミラが宥めて続ける。
「それで?カイルはライオスが敢えてこの国に預けてったって言ってたわよね?」
「ああ、その辺がきな臭いと思っている。それというのも彼は“カイルが困った時に助けるように”と自分との繋ぎ用に城下に部下を置いて行った。その話自体は聞いていたがその中にカイルの乳兄弟にあたる青年がいたんだ。彼が国を出る時唯一付いてきた幼馴染らしく、彼が善かれと思って国に報告してしまったんだ__“聖なる竜の加護を得た姫君とカイル殿下が心を通わせた”と」
「はぁ?何よそれ?」
カミラが呆れたように言うと、
「当の父親曰く“カイルは幼い頃より他人に懐かず、またその出自から周囲から恐れられて育った故誰にも心を開かない子であった為、国元より外国の方が伸び伸び生きられるだろうと出奔を許したがやはり己の愛した女性との息子である事は間違いなく、行方を探していたところレジェンディアで心を開ける女性と出逢ったとの知らせを受け、息子の無事な姿と彼の姫君にひと目お会いしたい”__と馳せ参じたんだそうだ」
「筋は通ってるわね」
「まあ、な。だが_…」
「ナルジア国の王といえば、色狂いで有名だからねぇ」
そうなのだ。
ナルジアの国王ルカスといえば下半身でモノを考、いや貞操観念が薄いというより全くない事で有名で側妃に妾妃に寵妃だらけの後宮、後宮以外にも複数の愛人を囲い、愛人ですらない一夜限りの相手は数知れずという節操なしを絵に描いて額に入れたような人物なのだ。
「実際に会って見た感じはどうだったの?」
「いかにも国王って感じの豪放快楽、金満家の成金国家の権化」
にべもないアルフレッドに、
「それだけでは伝わらんだろう、全く……見てくれだけでいうなら立派な人物だ。四十半ばという話だが三十そこそこにしか見えない若々しさだし、顔立ちも整っている。おまけに有数の宝石産出国の国王となれば寄ってくる女性には事欠かないだろう」
「ふぅん、見かけだけは整ってるわけね。それで?人間性は?見ててどう思った?」
「心から出奔した息子を案じてるように見えたよ、一応はね」
「実際は違うってこと?」
「あの程度の演技を見抜けないほど未熟じゃないよ、僕たちのみたところ、中身はー…」
「
「
双子の声が、綺麗にユニゾった。
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