第17話 黒幕

屋敷を出ると、見覚えのある男が立っていた。


「オレルアン…。また立ちはだかるか。」


オレルアンは笑顔で一礼する。


「ええ。この前出し抜かれた借りを返さなくてはいけませんから。」


…気持ちが悪い。…


「実力を隠していたくせによく言う。」


オレルアンは、苦笑しながら降参するように両手を軽く上に挙げる。


「バレていましたか。でも、実力を隠していたのはお互い様です。」


…こんなジェスチャーをするような雰囲気ではなかったはず。これが本性か。…


「私は力の使い方がわかっただけ。」


私の言葉を信じていないのか、オレルアンは不満そうにため息をついた。


「そういうことにしておきましょう。シーラお嬢様。教えてください。なぜ、このようなことを。」


…気持ちが悪い。…


「クリスとの契約を履行しただけ。“お互い”の想定通りに。私はもう少し後だと思ったけど。」


私の言葉にオレルアンが笑い声をあげる。


「ククッ。貴女は、いつも俺の想像の上をいきますね。ますます、欲しくなりましたよ。」


…やはり。…


「黒幕は、お前か。」


オレルアンは、私に人差し指を向ける。


「よく分かりましたね。」


…コイツは何もかもが嘘で塗り固められて、普通の奴らとは違う気持ち悪さがある。…


「髪や目の色を偽装している人間が裏で色々動いていて、気づかないわけがない。執事モドキも兄モドキの襲撃もお前が仕組んだことも分かってる。」


オレルアンは目を丸くした。


「バレていましたか…。」


…バレてないとでも思ったか。マクスウェル家に着いてから不自然な点がいくつもあった。不自然な点を追っていくと必ずコイツが何かしらの方法で関わっていた。…


「いつからお前が関わっている?」


オレルアンは顎に人差し指を当てて、少し考えた様子を見せる。


「出し抜かれた後からですよ。ただ、言い訳をさせてもらうと、少しだけ誘導しただけで、ほとんどはあの方達の意思です。」


…嘘に真実を混ぜ合わせてるから質が悪い。…


「この後、何を企んでいる?」


オレルアンは偽装を解き、金髪赤眼の姿を見せてきた。


「俺がリンク王国の第三王子と言ったら、信じてもらえますか?」


…金髪赤眼…。…


「他国の貴族だと推測していたから、あり得ない話ではない。」


オレルアンは深いため息をつく。


「はぁ、そこは信じるとは言ってくれないですね。」


…信じる?誰を?…


「何を企んでいると聞いている。」


オレルアンは跪き右手を差し伸ばす。


「我が国に一緒に行きませんか?行く宛もないなら、ぜひ我が国で貴女を保護させていただきたい。」


…気持ちが悪い。…


「行くはずがない。」


オレルアンは、優しそうな憂いを含んだ眼差しを向けてくる。


「子どもは、成人するまで大人の保護を受けるべきだ。」


…コイツから発する言葉一つひとつを聞くたびに反吐がでる。…


「今まで、保護どころか虐待を受けて育った。今さら保護など必要ない。」


オレルアンは胸に手を当てる。


「俺が貴女を守ると誓いましょう。古代魔法で制約してもかまいません。」


…コイツ…。誓約魔法がユニ本体に大きな負担をかけることを知ってる。…


「本当に子どもを守ると考えている人間は、こそこそと裏工作をして暗殺者をけしかけたりしない。”少し”だけ誘導しただけと言ったけど、あれを“少し”と表現する人間を到底信用できない。」


再びため息をついたオレルアンは、腰に下げていたロングソードを構える。


「はぁ。仕方がない。手荒なことはしたくなかったのですが。」


オレルアンから凄まじい量の身体強化オーラが吹き出したかと思うと、目の前に突然何かが飛び出してくる。


…蹴りかッ!?速いッ!…


咄嗟に両腕をクロスしてガードする。


バキィッ―


身体強化オーラを両腕に集中していたが、蹴りの威力に耐えきれずに腕の骨が悲鳴をあげた。


「くッ!」


蹴りによってできた距離を詰めようとオレルアンが前に出る。


「言っておきますけど、油断や手加減はしませんよ。見た目に騙されて、皆さんやられてましたから。特に、貴女の魔装は厄介ですから。」


オレルアンが剣を横凪ぎに一閃する。


―幻夢剣―


オレルアンの放った斬撃が、複数に別れて襲いかかる。


…死角を上手く狙ってきている。これも回避できない。…


致命傷にならないように防御に専念する。


ザシュ―ザシュ―ザシュ―…


「…ッ!」


オレルアンの容赦ない斬撃が、私の体に傷をつくっていくが、耐性スキルで耐える。


「流石、耐性スキルを極めているだけありますね。」


「うぐぅッ!」


「もう諦めてください。仮に私を倒しても、後ろにリンク王国の手練れが控えてますから、貴女に勝ち目はありません。」


…もういいか。…


「”窮鼠猫を噛む”って言葉知ってる?」


「…いえ。何処の国の言葉ですか?」


「この世界には存在しない国の言葉で、”弱者であっても、追い詰められれば手痛い反撃をする”という意味。」


ザシュ―


次元収納からナイフを取り出し、自分の手首を深く切りつける。


私の手首から血が溢れ出るのを見て、オレルアンが声をあげる。


「何をしているんですかッ!」


身体中から滴り落ちる血が地面に到達すると、全て漢字で構成された魔法陣が拡がっていく。


「な、何ですかッ!そ、その魔法陣はッ!」


「この世界には存在しない国の文字で描かれた魔法陣で、”五蘊皆空に気づくことで、一切の苦厄から解放される”という意味。」


血が魔法陣に浸透していき、金色に輝き始める。


.@*#魔法

―照見五蘊皆空度一切苦厄―


魔法陣が幾重にも展開され、巨大な球体を形成されていく。


「い、いったい何が…。」


巨大な球体に呑み込まれていく私はゆっくり目を閉じた。


巨大な球体の中は、時が停まったかように静まり返り、悠久の時が流れていた。


私はしばらく静寂に身を任せた。


……………

…………

………

……


「………。」

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