新入生歓迎会-後日談


 あの後、私は翌日の昼過ぎまで目を覚まさなかったが。事後処理が大変だったと聞いた。

 あの現場には、あの後、シーザー先生とランバート先生という二大戦力が駆け付けたらしい。そして現場を見て驚愕したそうな。

 それもそうだろう。自分達が相手するべきであったコカトリスが既に倒されていたのだから。

 そして、血塗れでぶっ倒れている私。


 先生方はすぐさまコカトリスの死体を回収した上で、事情聴取のため馬鹿4人と我々の小隊員を引き連れて本部に戻ったらしい。

 他の班員も事態が事態だけに、サバイバルどころの話ではなく、本部まで軍曹殿が連れ帰ったそうだ。

 その後、話を聞いた文官科と技術科の4人は酷く驚いていたそうな。


 そして、翌日。昼過ぎに目を覚ました私の第一声は


「あぁ~…頭痛ェ…」


 であった。

 そして、側でずっと看病していてくれたというエレオノーラに抱きつかれてしまった。

 エレオノーラの魔法のおかげで、体調はすこぶる良かった、のだが、そこからが地獄だった。


 シーザー先生の詰問から始まり、ランバート先生の静かな説教、そして軍曹殿にも結論倒せたから良かったが…とかなり詰められた。

 極めつけはシーザー先生の


「どうして私達が駆け付けるまで耐えようとしなかったのか」


 という問いに対して


「つまらなかったからです」


 と、正直に答えたら、特大の拳骨を落とされたことだ。

 痛かった、うん、とても痛かった。回復明けのヒトにする仕打ちじゃないですよ。ホントに。


 ついつい、某有名な、親父にもで始める台詞を叫びたくなった。

 よくよく考えれば、ぶたれたことはないが、修練ではボコされているので言わなかったが。


 まぁ、その後にぼちぼちお褒めの言葉も貰ったりもした。

 学生、15歳にしてコカトリス、それも聞けば変異種のほぼ単独討伐は前代未聞である。


「結果こそ良かったものの…ミレイ嬢はもう少し精神を鍛える必要性があると思うがな」


「私は殺すためにこいつを握っているんですよ?それこそあそこで抜かなければ錆びてしまいます」


「そういうところだミレイ嬢…。だが、そういう精神性が強さの秘訣ともいえるのがなぁ…」


 そう苦言を残しながらも、何とも言えない顔をしていたシーザー先生がすこし印象に残った。


 そして、学園に帰ってから、シーザー先生経由で、父と母にもこの話が飛んだ。

 父と母からもお叱りの言葉が飛んでくると思っていたが、それは全くの逆であった。


「そうか…よくやった」


「また無茶したのねぇ…。でも無事で帰ってきたならそれでいいわ」


 滅多に褒めない父は私を褒め、心配性の母はいつも通りであった。

 今回ばかりは無茶をしすぎたので、叱られると身構えていた私は、少し気が抜けてしまった。


「今回ばかりは叱られると思っていたのですが…」


 と、私が尋ねれば。


「シーザー卿に既にお言葉は戴いたのだろう?なら、私達の役割は褒めることだ」


「そうねぇ。私もルドルフもそんなにグチグチ言う性質ではないしね。それに、貴女は充分反省してるみたいだし」


「ユリアの言う通りだな。そういうことだミレイ」


 父は寡黙で厳しい人だ。滅多に褒めない。

 そんな人からお褒めの言葉を貰えた私は珍しく感激した。


 母はいつも通りだ。私を心配しながらも好きにさせてくれる。


 前世の父と母の顔も思い出せなくなってきたが、今生の父と母のそんなところが私は好ましく思っていた。



 話は少し変わって、馬鹿4人の話になる。


 中層に入ろうと企てた主犯は、やはりというべきかヴェルナー・コルネリウスであった。

 動機は簡単で、単調なサバイバル生活に嫌気がさして、評価を求めたから。無茶をした私が敢えて言うが、本当に馬鹿である。


 どうにか手下達と合流し、【隠形】の魔法を使って監督官の眼を掻い潜り中層に侵入したようだ。

 幸い、死者は出なかったが、馬鹿4人には停学1ヵ月という沙汰が降りた。


 学園において、ひと月という遅れは致命傷になる。それに、就職時にもその経歴は必ず脛の傷になる。

 つまりは、落第者の烙印を押されるというわけだ。今後の学園生活では息苦しい生活を強いられるだろう。


 かく言う私にも、多少の罰はあるかと思っていたのだが、逆に何故か叙勲されることになった。

 功7級銀狼勲章。銀狼勲章は国軍で主に魔物の討伐で功績を残した者に送られる勲章である。

 功7級は、初叙の功級である。


 主な功績はコカトリスの単独討伐、ということになっているが、背景には学園生徒の救助、及び救援を一早く行ったことというものがあるらしい。

 どうやら、「ミレイ嬢は今後も嫌でも目立つことになる。それならさっさと叙勲してしまえばいい」というシーザー先生の計らいらしい。

 その、"嫌でも目立つ"にはいろいろな意味が含まれていると思うが。


 父も


「貴族、それも公爵の娘が軍人に、というだけで目立つものだ。それに社交界でも既にコカトリスの討伐の噂は流れている。余計なやっかみが来る前にさっさと叙勲してしまった方が手つきにならないという考えだろうな」


 と言っていた。


 叙勲は嬉しい。

 だが、こういう形で目立つのは止してほしかったなと思う私であった。

 自業自得ではあるのだが。


 そう思う、私の左胸には伝説の魔物フェンリルを模した銀の勲章が光っているのだった。

 

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