52. 映えのために
52. 映えのために
今日は私が来て初めて『妖精の隠れ家』の酒場を臨時休業している。というかいつもお客様はいないし、あまり変わらないと思うけど……。
なぜ臨時休業しているかと言うと、朝早くから全員集合してアリシアさんから話すことがあるらしい。もしかしたら「クラン解散」とかなら笑えないけど……ありそうで怖い。
「じゃあみんな集まったみたいだし、話を始めるわね」
私たちが席に着くとアリシアさんが口を開く。なんだか重苦しい雰囲気だなぁ。昨日はあんなに笑顔だったのに、今は真剣な表情をしている。一体どんな内容なんだろう? 私はドキドキしながら次の言葉を待った。
「王都のギルドから直接手紙が来たの。なんでも緊急の依頼があるらしくて、その依頼を私たちクラン『妖精の隠れ家』にお願いしたいらしいわ」
アリシアさんの話を聞いた私たちは顔を見合わせる。えっと……これって喜んでいいのかしら? 王都の冒険者ギルドから直々に指名依頼が来るなんて夢にも思わなかった。私たちの功績が認められ始めたのかしら?
「内容はなんですの?討伐系ですの?」
ミルフィが尋ねると、アリシアさんは首を横に振った。どうやら違うみたい。それなら護衛任務かしら?
「ダンジョン攻略……調査かしらね?未開の。しかもかなり深い場所になるらしいわ。場所は王都の南にある『魔法の森』の中らしいわ。」
「ほぇ〜!未開のダンジョン!?マジでテンションあがりみ!ねぇリーゼ!」
「うん。あがりみ!よくわからないけど」
まさかそんな依頼を受けることになるとは思ってなかった。それにしてもこのタイミングでダンジョンの調査依頼なんてあるんだね。これはもう運命かもしれない。
「おい。キルマリア、リーゼ。未開のダンジョンは危険だ。あまりはしゃぐなよ」
2人はゲイルさんに注意される。まぁいつものことだ。でも仕方ないと思う。だって未開のダンジョンだよ?誰も踏み入れたことのないダンジョン。冒険者なら誰もが憧れるからね。
「でも未開のダンジョンですか……。確かに興味はありますけど、パーティーとしても経験は浅いし、私としては少し不安ですけど?」
「まぁまぁエステルちゃん。安心して私も一緒に行くから」
「えっ?アリシアさんがですか?」
「おい、アリシア。お前またそんな勝手なこと言ってんじゃねえぞ」
アリシアさんの言葉を聞いて、ゲイルさんが呆れたように言う。でも危険なことには変わりない。だからマスターのアリシアさん自ら同行しようとしてくれてるのか。やっぱりアリシアさんは優しい人だな。
「ゲイルさんが悪いんでしょ?」
「ああ?何がだ?」
「だってロデンブルグの魔物討伐から戻ってきたらすごい楽しそうにみんなのこと話すんだもん!ズルいわ!」
「お前ズルいって……」
草。アリシアさんは頬を膨らませて抗議している。あれれ?なんか思っていたのとは違う気がしてきたんだけど?この人ただ楽しみたいだけ?
「行くったら行くんだから!いいわよねエステルちゃん?」
「えっと……はい」
「やった!さすがはエステルちゃん!」
アリシアさんは凄く嬉しそうにしている。まぁここで断ったら私の命とか危なそうだし、素直に返事をしたほうが良さそうだ。
「あっ。そう言えば『魔法の森』はエルフが住んでると聞いたことがありますわね。所々に魔法の結界もあるとかないとか」
「そうなのミルフィ?じゃあ今回は魔法が得意なメンバーを連れて行った方がいいかもね。」
「ならやっぱり私が適任じゃない!エステルちゃんとルシルちゃんとミルフィちゃん。決まりね!」
「あの前衛がいませんよアリシアさん……?」
私は苦笑いをしながら指摘をする。するとアリシアさんは一瞬固まったあとに、ポンッと手を叩いた。
「ミルフィちゃんがいるじゃない?どうせ弾丸外すと使いものにならないんだから前衛でいいわよね?」
「マスターひどいですわ……」
「おいアリシアふざけるのをやめろ。エステル。キルマリアを前衛として連れていけ。さすがに前衛なしとかヤバすぎるだろ」
「え?あたし?少し働きすぎじゃ……なんか休みたいかなぁって?」
「そうですねゲイルさん。あー映えるわねキルマリアがいると。道中も楽しそうだわ~?」
「よし行こうすぐ行こう今すぐに!確かにあたしがいたほうが映えるもんね!それなエステル姉さん!キルマリアしか勝たん!」
うるさいし、単純なやつ。私はため息をつく。まぁこれでキルマリアが納得したならいいか。こうして私たち『妖精の隠れ家』は未開のダンジョン調査依頼を受けることになった。
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