44. ちょろいな

44. ちょろいな




 私たちは『エルランド』の魔物の軍勢を倒し、ロデンブルグへ向かっている。


「おい。エステルまだ着かないのか?もう腰が痛くて歩きたくねぇんだが?」


「……ゲイルさんは歩いてないじゃないですか……なんで腰が痛いんですか?」


 そうリーゼに担がれているゲイルさんに言う。フレイムタイガーを一刀両断にしたあと、ゲイルさんはやっぱり腰をやったようだ。この人強いんだけど、使いどころが難しいんだよな。まるでどこかの自信家泣き虫ネガティブブレードガンナーと同じだよこれじゃ。


「振動だよ振動。腰は繊細なんだぞ?お前らもバカにしてるが歳をとればわかる」


「あーはいはいわかりましたよ。そろそろ着くから我慢してねー」


「おい。エステルお前オレの事ジジイ扱いしてるだろ!?」


「ふっ……」


「こいつ!今鼻で笑いやがった!!」


 そんなやりとりをしながら進んでいると、まだ遠くに見えるが前方に街らしきものが見える。あれがロデンブルグか……。


 そしてしばらく歩き続けるとなんとか目的のロデンブルグにたどり着く。私たちはギルドへ急ぐ。


 ロデンブルグは王都と同じく石畳の道が多く作られているみたいだが、建物などは木造建築が多いように見える。あと道行く人も狩猟民族ならではの格好をしている人が結構多い気がする。


 街の中に入ると、やはり冒険者や騎士団の人間も王都から派遣されており街の中は緊張感でピリついている感じだった。そんな中でも子供は広場で遊んでいた。まだそこまで危険な状況じゃないのかもな。広場を通り抜けると1人の子供に声をかけられる。


「あっ!猫のお姉ちゃんだ!」


「猫……?猫がいるんですか?どこに?」


 すごくソワソワしだして猫を探し始めるレミーナさん。いや……その猫耳のフードですよレミーナさん……。それを見たリーゼが言う。


「あのさ。たぶんレミーナちゃんのことじゃない?」


「……私は猫になれたんですか?」


「ううん。違うよ?」


「私が猫……いいですね。可愛いですし。私も猫になります」


「あのレミーナちゃん?聞いてる?」


 突然レミーナさんが全然話しを聞かなくなった。というか自分の世界に行っちゃってるよこの人……。もう放っておこう。


「あのキルマリア。さっき貸したポーションの入ってるバック返してくれない?アリシアさんからの書状が入ってるから」


「あーね……。もしかして汚い紙のこと?」


「汚いって……アリシアさんに失礼でしょ?」


「でもさ。あれならさっきポーションこぼしちゃったから捨てちゃったけど?」


「は?」


 私は一瞬思考が停止する。いや待って。それ大事な手紙じゃん。クラン『妖精の隠れ家』として大切な手紙なのになんて事してくれてるんだこいつは。


「ちょっと待って!それをなくしたらまずいじゃない!?」


「なんかポーションまみれになってたから捨てただけよ。ごめんごめん。小さいことは気にしない!なんとかなるっしょ!」


 ポーションまみれにしたのはあんただよ……。正当化するな。まぁいいわ。こうなったら仕方がない。とりあえず私たちは冒険者ギルドへ向かうことにした。


 ギルドの中へ入ると相変わらず冒険者たちで賑わっていた、私たちはそのままカウンターに向かう。


「王都から派遣された討伐隊のクラン『妖精の隠れ家』の者です。」


「はい。では書状を見せてください」


「えっと……その……実は……」


 私が言い淀んでいると、ギルド内の奥から声をかけられた。あの鎧は王国騎士団のものだ。


「ああ?ゲイルじゃねぇか。なにやってんだお前?」


「エドガー。ほう。お前たちが騎士団として指揮してるのか」


「アリシアはいないのか?」


「ああ。あいつは留守番だ」


 どうやらゲイルさんとアリシアさんの知り合いらしい。この人たちは王都から来たわけだし、騎士団にも知り合いがいるのか。


「おいおい。そんなことよりなんでここにいるんだよ。こんなにガキを引き連れて、ここはガキが来るような場所じゃないぜ?」


「ふん。オレだって好きで来ている訳じゃない。それにこいつらはクラン『妖精の隠れ家』のメンバーだ。」


 ゲイルさんがそう説明すると、エドガーさんはピクッと一瞬動きを止めたあと私たちに言ってくる。


「おいおい人が悪いぜ。アリシアの仲間ならそう言ってくれよ!オレはてっきりただのガキだと思ってバカにしちまったじゃないか!なぁこの事はアリシアには内緒な!」


「え?」


「頼むよ。ほらあれだ。嫌われたくない!アリシアはこの世界に現れた癒しの女神!そしてオレの女なんだ!あーよかったぜ。バレたら殺される所だった」


 あー。この人アリシアさんが好きなのか。なんとなく察してしまった。まぁアリシアさんは美人だから分からないでもないけど。


「あのエドガーさん。私たち実はアリシアさんからの書状をどこかのおしゃべりアサシンに捨てられてしまって困ってるんです。なんとかなりませんか?」


「エステル姉さん……おしゃべりアサシンってあたしのこと?」


「ふざけるな!」


 エドガーさんはいきなり怒鳴り始める。まぁいきなり失礼なこと聞いた私も悪いけどさ。


「アリシアの可愛いキュートな文字が書かれた書状を捨てただと?バカかお前らは!?どれだけ大切なものか分かるか?このままじゃ世界が崩壊するぞ!」


 ……しない。あーこの人もおかしな人だったよ。なんか私の周りにはおかしな人が集まるように仕組まれてるんですか?仕方ない……こうなったら……


「あの……エドガーさん。もしなんとかしてくれるなら、アリシアさんにエドガーさんに助けてもらいましたって報告できるんですけどね?」


「よし!オレが責任持ってギルドのお偉いさんに伝えてやるよ!」


 草。ちょろいなこの人。私は心の中で笑いながら、書状の件はなんとかなった。こうして私たちは無事にロデンブルグの魔物討伐に参加することになったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る