第3話側用人・木下義郎2
「いや~~~。まさか本当に討ち入りするとはな」
「ただの噂だとばかり思ってたが、赤穂の浪人もやるじゃないか!」
「まったくだ。赤穂の城を引き渡す時だってひと悶着あったっていう話だぞ」
「赤穂の侍たち、初めは城を枕に討ち死にする予定だったんだとさ。それが、敵討ちに転じたんだ。よっぽどの理由があったんだろうな」
「ここだけの話だけどな、何でも吉良の殿様に赤穂の殿様は散々虐められていたって話だぜ」
「虐め?本当か!?」
「本当だとも!もてなしの料理に精進料理を出すように言ったり、畳の張替え作業を教えてくれなかったり、儀式の時間をワザと間違えて教えたりしたんだとさ。後は、赤穂の殿様が『山吹色のお菓子』を吉良の殿様に渡さなかった事で事細かに虐め抜かれたって専らの噂だぜ!」
「赤穂の殿様は『袖の下』通さんかったんか?」
「ああ!聞いた話じゃあ、『武士にあるまじき振る舞いはまかりならん』と言って断ったそうだ!」
「く~~~~っ……流石は武士だ!そんな清廉潔白な殿様だから赤穂の浪人も仇討ちしようとしたのか」
「そりゃあそうだろう?アホな殿様なら家臣も命なげ打って仇取りにいかないだろ!」
「たしかに!」
随分と言いたい放題だな。
息抜きにと城下に来てみれば、江戸の民たちは赤穂の事件の事で持ち切りだ。しかも、何故か、赤穂の者が褒め称えられるかのような発言が多い。
「オヤジ、茶を一杯板飲む」
「畏まりました」
直ぐに茶が出てきた。
それはいいが……頼んでもいない菓子まで出てきたぞ?
「オヤジ、わるいが菓子は頼んでおらん」
「いやいや、これは私どものほんの気持ちです」
どういうことだ?
この茶屋には始めてきた。常連客でもないのに何故だ?
「お役人様でいらっしゃるのでしょう?」
茶屋のオヤジが声を潜めて言ってきた。お忍びで来ているというのに、何故分かったのだ?
「こういう商売をしていますと、誰が誰なのか自ずと分かるというものです」
なるほど。商売柄という訳か。
「分かっていて菓子か?わるいが何もでんぞ?」
「いえいえいえ。そんな大それたことは考えておりません」
「では、何が狙いだ?」
「お役人様も江戸っ子たちの話を聞きましたでしょう。江戸の町じゃあ、今や、正義の赤穂浪人と悪の吉良様、といった構図が出来ております。お役人様にとっては馬鹿馬鹿しい話かもしれませんが、噂ってものは怖いもんですよ。噂だけで大店が潰れるほどに影響力があります。悪い事は申しません。ここは江戸っ子たちの意見に賛同した方が御公儀面目も立つというものです」
予言めいた事をいう。
「……そなた何者だ?」
「
狸が……。ただの茶屋のオヤジがしたり顔では話す内容か。まさか御公儀の隠密ではあるまいな?
全く、どこもかしこも厄介だらけだ。
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