題名:研究室訪問のお礼

 やっとの思いで書き上げ、送信したメールが下記二通だ。

 一通目は元ゼミの教授。キレキレの指摘で、僕に愛の鞭をくれた方。

 二通目は元担任の教授。ふんわりと僕の話を聞いてくれ、ふんわりとした回答をくれた方に送った。


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 ――先生

 お世話になっております。

 元ゼミ生の――です。


 お礼が遅くなり申し訳ございません。

 昨日は、急な訪問にも関わらずご対応いただきありがとうございました。


 また、価値観が違うにも関わらず、講義前の貴重な三十三分間を僕に下さり、

 理解しようとし、在学時と変わらず接してくださり、重ねて感謝いたします。


 今回、先生の研究室を訪問させていただいたのは

 先生の厳しい目で今の自分を見ていただきたかったからです。


 確かに、普通の感覚では国立大学を卒業したら公務員、大手企業に入り、

 定年まで勤めきるのが安定した人生なのでしょう。


 結婚して子供を作り、パパ友などの交友関係を増やして

 定年後に趣味を思いっきりすればいい。そういう考えもあると思います。


 ただ、衰勢が激しいITベンチャーで仕事をしてみて、

 また、昨今のコロナ禍で心を病んで去っていく同僚たちを見て

 今までの理想的なパイロットモデルの前提が根本から崩れているように感じました。


 環境に慣れ、職場でゴマをすりながら昇進していく。

 出来ない、途中で落ちていくやつは残念なやつだ。

 これは強者の理論でしかありません。


 多くの大人は疲弊しているように感じました。

 若者も、自分の生活を支えるのが精一杯で、

 彼女を作るという選択肢を持たない人も増えています。


 また、日本社会を支えている多くの人は、出世競争から外れ

 それなりの生活をしている中流以下の人間です。


 総中流社会という幻想は等の昔に崩れ去っています。

 収入と物価の推移を照らし合わせてみれば一目瞭然です。


 僕は、働いていくうちに、そういった疲れた人間に寄り添い、

 勇気を与えるような小説を書いていきたいと強く思うようになりました。


 現時点で、自分の進んでいる道に後悔はありません。

 自分の生き方が、パイロットモデルとして、後輩に示せるように

 精進していきます。


 駄文失礼しました。


 また、先生の最終講義の際には、出来るだけ出られるように調整したいと思います。


 よろしくお願いいたします。

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 お世話になっております。

 また、連絡が遅れてしまい申し訳ございません。

 以前担任していただいた19年卒の――です。


 先日は突然の訪問にも関わらず、丁寧にご対応いただきありがとうございました。

 また、人生に関していくつかのアドバイスも頂き、重ねてお礼申し上げます。


 今後は自分のやりたい道で生き続けていけるよう、

 適度に運動して、社会情勢に目を向けて、感受性を大事にしていきたいと思います。


 以上、ありがとうございました。

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 今日まで、怖くて教授からの返信を確認できずに、メールをスルーしていました。

 元担任の教授からは、頑張れと返信があり、ゼミ担当の教授からの返信はありませんでした。

 ホッとしている自分と、心臓を握られたような気持ちになっている自分がいます。

 

 また、この場を借りて、突然の訪問を受け入れてくださった教授に心からのお礼を申し上げます。

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