第8話 救出

「まだいるのか…。食らえ!」


 化け物に狙いを定め放った光線はその胸を貫く。


「よしっ。」


 しかしこれまでのように光に包まれる様子がない。


「えっ?」


 化け物の持つ得物から漆黒の波動が放出される。その波動が雁斗の銃を捉え、弾き飛ばされた。


「わあああ!!」


 雁斗は必死に倒れたデスクの陰に身を隠した。


「あいつ…、武器を持ってるのか…!?」


 弾き飛ばされた銃は隣のデスクの脇に転がっている。

 その銃を取り戻そうと手を伸ばした瞬間、化け物の砲撃がデスクを直撃する。

 慌てて頭を引っ込める雁斗。


「どうすればいいんだ…。なんで人間に戻らないんだよ…!?」


「分析…ギ。奴の体には闇の波動が多く詰め込まれていて光のエネルギーが足りないのかもしれないだギ。」


「そんな…。」


「もっと光をお見舞いしてやるだギ。」


「でも銃を手に入れないと…。そうだ!」


 雁斗は近くに落ちている木製の下敷きを拾い、銃と逆方向へ放り投げた。

 化け物はその落下音に反応し、落ちた先へ砲撃する。


「今だ!」


 素早く隣のデスクの陰へ滑り込み銃を手にした。すぐさま砲撃が隠れたデスクをかすめる。

 すかさず上半身を傾け被弾面積を小さく乗り出し反撃する。

 激しい打ち合いの応酬が続き、光線は幾度か化け物を捉え怯ませるも、化け物が人間に戻る気配はない。


「何か弱点とかないのか…?てかこういう時の弱点と言ったら頭だろ…?狙ってみるか。」


 次に相手の砲撃が止んだら飛び出して頭を撃ち抜いてやる。一発勝負だ、集中しろと自ら鼓舞する。

 一呼吸息を大きく吸い込むと化け物の砲撃が止んだ。


「ヘッドショットォォォ!!」


 身を乗り出して正確に定めた一撃は化け物の頭を撃ち抜く。同時に放たれた化け物の黒い砲撃が雁斗の右腹部をえぐる。


「ぐっ!」


 頭を射抜かれた化け物は大きく態勢を崩しのけ反った。脇腹の痛みを堪えつつ、素早くフルオートに切り替え、化け物に走り寄りながら光線を叩き込む。

 何発を撃ち込んだろう。徐々にまばゆい光が化け物を包み始める。


 還元した。


 姿を現したのは白衣を着た青年だった。聡明な顔立ちに威厳も備えているが、それでいて若い。



「ぼ…僕は…? そうだ、黒の闇が! は…、もしかして君が助けてくれたのか?僕は闇人間になっていた?」


「はい、そう…です。具合は…大丈夫ですか?」


「ああ、なんともない。ありがとう。僕はここの所長だ。」


「所長さん!?所長って…、もっとおじさんかと思ってた…。」


「ははっ!そうだな。それは無理もない。研究に夢中だった学生時代の僕を博士が見出してくれてね。才能を買われて今は所長までさせてもらってる。まだまだ未熟だがな。」


「追い付いたギ。時間が…、闇の放出が始まろうとしているだギ。」


 闇人間が駆逐された施設内を「それ」が追うようにやってきた。

 スナイパーライフルとアーチェリーを後ろ手に引きずっている。


「あ、照司くんとねえちゃんの! 拾ってきてくれたのか!」


「おお、グレンじゃないか!そうか、君達はグレンが連れて来てくれたんだな。黒の闇はもうそんなに力を貯めたのか?」


「ここの職員たち、たくさん闇人間にされただギ。皆この子達が還元してくれただギが、闇の力は貯まってしまっただギ。」



 どうやら所長はのことを知っているようだ。グレンと呼んでいる。

 所長は感謝の意と共に雁斗へ微笑みかける。


「君一人ではないのか。心強い。しかし…、それでも黒の闇を止められるか?」


「やってみるだギ。」


「僕の大事な仲間も囚われてるんだ。絶対止めてみせる!!」


「ではこれを持って行ってくれ。光のエネルギーを凝縮したカプセルだ。僕たちは闇に対抗する光のエネルギーについて研究をしてきた。しかしこれを生成することはできても、奴らに注ぐ手立てがない。君たちならきっと何とかしてくれるのだろう。頼んだ。」


「わかりました! 行ってきます!」


「急ぐだギ!」







 うっすらと開いた視界に映る斜めの世界。硬いコンクリートの冷気が頬を刺激する。手足の自由が利かない。表面が漆黒の液体でどろどろと渦巻く巨大な球体が目に入る。球体からは黒く淀んだ渦巻きが巻き上がるように空へと続き、渦を中心に暗い紫の分厚い雲が一帯を包む。


「ヒッヒッヒッ。ほぼ貯まったね。仕上げと行こうか。」


 黒い球体の傍らに立つ老人の呟きが聞こえてくる。

 徐々に体の感覚が戻り、両手を黒いエネルギー体のようなもので縛られ、建物屋上の床の上に横たわる照司は自分の状況を理解し始める。


「こいつら二人を放り込めば十分な量になるだろう。」


 二人…?辺りを伺うと老人の向こう側に横たわる意識のない弓香の姿が見える。


「…かさん…、ゆみかさん…。」


 必死に呼びかけるが、声に力が入らない。


「ん? 目覚めたか。早いところ済ませましょう。」


「ゆ…、弓香さん!」


 振り絞ったその声に弓香は反応した。

 弓香が目を開き、声のする方向へ視線を向けると、同じように床に横たわる照司と目が合った。と同時に二人の体が浮き上がる。


「さぁ闇の波動よこれが最後の贄だ。解き放て。」


 照司と弓香の体はゆっくりと球体へ吸い込まれるように移動し始める。


「うわああああ!」


「きゃああああ!」


 刹那、続けざまに二本の閃光が眩しく走る。同時に照司と弓香の体は床に叩きつけられるが、受け身が取れた。黒いエネルギー体の枷は手足から消えている。


 屋上へ駆けつけた雁斗は闇の波動に吸い込まれようとしている囚われた照司と弓香を目の当たりにする。黒い枷が体を縛り黒い球体へと誘導している様を見てその黒いエネルギー体に向けて光線を撃ち込んだのだ。





 第8話 了


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