心のはーどる

「お久しぶりです」


「久しぶりーー!時間通り着いてて偉いぞー!」


「当たり前ですよ」


15分も早くから待っていた事

今日まで毎日、散歩しながら、かすみに会えると思っていた事も

内緒にしておこうと思った。

それと緊張している事は、悟られぬようにと、平然と装った。


私服など、初めてで

いつもより大人っぽくて

それであって、喋り方や笑顔に少し幼さが残るかすみに、どきどきしていた。

それと同時に、本当の自分を見せたくないと、気持ちにも、どきどきしていた。


「今日は飲むぞー!!じゃー行きますか!」


そう言って歩き始めた。

ずっと住んでいる町だったが、かすみと歩くと、なぜか新鮮で

普段目にも止まらなかったものが、この日は目に止まり、綺麗に見えた。


「あっそう言えば僕、お酒得意じゃないですし、明日も仕事なので、あまり飲まないですよ?」


「えっ、なんでそんなにつれない事、言うかなー

せっかく楽しみにしてたのにー」


「すみません…」


「冗談だよ笑

私が、飲みたいだけだから笑

それに、そんなにすぐ謝らないでよ!

私が悪者みたいじゃん!笑」


「あっ、いやっ、そんな事ないですよ!

僕も楽しみにしてたんで!」


咄嗟に出た言葉に

あっ、やってしまった!と

ついつい心の本音が出てしまい戸惑った。

ついさっき、バレないか不安で仕方なかったのに、もうすでに心のハードルが下がってしまった。

まずい、バレてしまう。

自分の気持ちも、本当の自分も

バレてしまう事が、とても恥ずかしくなった。


不思議だった。

なぜか、かすみを目の前にすると、心のハードルが、下がってしまう…


「えーそうなの!嬉しいな!笑」


笑顔で、嬉しいと言われ事に

同じ気持ちだった事への、嬉しい気持ちと

かすみは、社交辞令でそう言ってるのではないかと言う不安が重なった。


色んな事を話してる内に、程なくしてお店に着いた。

普段は通らない裏路地

そのビルの4階、看板も出てないお店

エレベーターの中は静かで

自分の心臓の音が聞こえてしまってるのではないかと、心配だった。


「こんな所があるなんて知らなかったです」


「まぁ、普通わからないよね笑」


エレベーターが開き、前には初めて目にする世界が広がっていた。



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