第3話

 岡引一心が浅草に探偵事務所を開設してもう10年になる。

 妻の静は京都生まれで東京の大学出、美容の為に始めたボクシング。素質があり過ぎてプロからお誘いもある程凄い。それを知らずに結婚した俺は可哀想だ。数馬、美紗と二人の子に恵まれたが、ヘンテコな奴らで、母親譲りのハッカー美紗。盗聴器やそれにカメラを搭載した盗聴カメラ、アドバルーンとドローンを組み合わせたバルドローン、これは希死念慮者殺害事件の時には、浅草から千葉市まで犯人の車を追いかけた実績がある。数馬は中学のころから、鍵に凝って、今では開けられない物は無いと豪語する。従兄弟の一助は、故あって16歳の時に養子として一緒に暮らしている。根っからのドライバーだ。取れる免許は全部持っている。船も航空機も持っている。だからバルドローン操縦も持ってこいと軽くこなしている。

 それと、近所のラーメン屋の柊十和(ひいらぎ・とわ)という娘がいる。両親はおらずある事件を通して親しくなり、親代わりだと思ってくれている、可愛い女の子だ。彼氏が事件絡みで永眠した。数ヶ月前の話だ。


 最近は大きな事件も無く、依頼といえば、認知の爺婆が戻って来ない。とか、犬猫探し。

 喧嘩の仲裁もある。これは静が出て行くと、喧嘩の両者は、静が何かを言う前に握手して仲直りする。そして若干の仲裁料を両方から頂いてくる。非常に効率のよい稼ぎ。

 静のボクサー色に輝く眼色に恐怖を感じない人は、この浅草にはいない。そのくせ「どないしはりまった?」とか優しい京都弁を使う。

 十和が関わった事件では、国会議員のボディーガード4人を、夫々1発ずつのパンチで撃退している。そして「弱いおひとどしたえ〜」とか言ってる。自分の強さを如何認識しているのか?優しいが恐ろしい嫁だ。


 近頃、テレビニュースで美術館の写真展が話題になっている。連日行列が出来るほどの盛況ぶりで、館長は満面の笑顔でインタビューを受けている。

 匿名写真家による「水中の戯れ」というタイトルで、4人の美女が夫々違ったポーズで水槽に飛び込んだ一瞬を前後上下左右から撮ったものだという。その1例だけを放映した。残りは是非美術館で、ということのようだ。

 テレビに映し出されたもの以外に、足から飛び込んだもの、うつ伏せで落とされたようなもの、仰向けで落とされたようなものがあるらしい。如何見ても、1回飛び込んだ瞬間を6方向から同時に写しているとしか思えない。シャッターを6つのカメラに連動させて撮った物だろう、というのが専門家の意見だった。


 その公開された1枚の写真を、一助が見て表情を変えた。

「また、あいつだ。あいつが人を殺して、写真を撮ったんだあ!」と大声で喚き、一心ほか全員で押さえ込まないとどうにもならないほど暴れて酷かった。

 一心が、落ち着いた一助に訊くと。20年近く前の事件を思い出した、という。

その事件とは、20年前に遡る。一助の父親桂林徹が大学時代に都内の田舎の川原で、いかだ遊びで事故があり、女性がひとり意識不明になった。妊娠していて半年後子供を産み落として自らは死んだ事件があった。

 その後、父親が結婚して一助が生まれた。一助が5歳の時、遠辺野憲重という川の事故で亡くなった女性の彼氏の弟が、何を勘違いしたのか、死亡した彼女を一助の父親が助けられたのに見捨てた。と言って、家に押し込み両親を撲殺した。そしてその遺体を水槽に投げ入れた瞬間を写真に撮っていた。二人とも同時に投げ入れられ、その瞬間を撮った。それを部屋の壁に大きくして飾っていたのだ。子供だった一助は見せてもらえなかったが、それがテレビで流れてしまった。顔はぼかしていたものの、姿形で一眼で一助には分かったらしい。

 ポーズを取らされた状態で氷漬けにされ、写真を撮られたらしい。

一心は浅草署の丘頭桃子警部に事情を話して、川の事故と桂林徹夫妻殺害事件の調書の写しを頼んだ。


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