第6話✤領主コースにご案内
次の日。
朝ごはんを食べて1回休憩を挟み、少ししてから次の街ジャルタに到着した。
まだ昼前だったからか、馬車はあまり待つことなく停留所に入ると、2時間の休憩後、出発する事を告げられた。
僕らはとりあえず詰所に行って、盗賊が出たことを伝えることにした。
衛兵さんに説明すると、詳しい話を、とのことで待合室に案内される。
ここに来るまでの街道に盗賊が出たこと、全部で16人で殲滅してあること、アジトの場所と強奪した金品があること、ついでに死体はこの中です、と魔法の巾着袋を差し出す。
地図を示しながら説明すれば衛兵さんは慌てて上司に伝えに行ってしまった。
その少し後、思い出されたようにお茶とお菓子が振る舞われたが、中々戻って来なかった。
そろそろ1時間も待たされているし、馬車の時間もあるからどうしようかと話し合う。
「もうここで降りて1泊するか、夕方の連絡馬車を探すかだよなぁ」
「そうだねぇ。例えすぐ上司が来てもまた時間かかりそうだし·····。これ多分、領主コースなんじゃない?」
「この時間のかかり具合からみると、領主コースっぽいよなぁ。うーん·····」
木っ端盗賊ならそのまま死体を確認して1人いくらかで報酬が貰えるんだけど、たまーにネームドが居たり、他国から逃げてきたのが居たりすると話は違ってくる。
確認作業に時間がかかる上、1人あたりの報酬額が跳ね上がるし、衛兵の権限では高額報酬をポンと出すことが出来ない。
その場合、街の代表か商業ギルド(銀行代わり)が代理で払うか、領主からの直接支払いとなる。
領主コースだと押収した財宝の中に元の持ち主が居そうな品目があれば交渉しなくてはならないからだ。
あの盗賊たちは意外にも相当溜め込んで居たようなので、これは覚悟しなければならない。
先を急ぐ旅ではないけれど、余計なイベントはごめん被りたいのだ。
「俺が残るから、枢はメルトと一緒に連絡馬車のキャンセルしておいて貰えるか?あと、ここで1泊しするつもりでいた方がいいだろうな」
「解った。衛兵さんに一言声掛けてから行くね。メルト、行こうか」
「はい、母。父、大人しくしててね」
「んー、向こうの出方次第かな☆」
「·····」
不安な言葉だけれど、本当にそうなんだよね。
中にはまだ18歳の聖を見て、下に見るのもいるし。
早めに戻ってこよう、と心に決めて待合室を出た。
「あのー、連絡馬車をキャンセルしたいので、行ってきたいのですが·····」
「は、はい!わかりました!」
待合室から出て詰所に繋がる廊下で、先程の衛兵さんと出会ったので外出する旨を伝えると、なんか緊張された。
なんでだろう?
後から知ったけど、僕の外見が黒髪エルフだったからだそうだ。
滅多にっていうか、僕しかいないからね、黒髪エルフ。
「直ぐ戻ってきますので」
「はい!あ、お時間ですがまだお待たせしてしまうかも知れません。宜お宿を紹介しますので、そこでお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
これはやはり、領主コースか·····。
「なら1度戻ってもう1人と一緒に行動しても?」
「大丈夫です。では僕がご案内します」
「お願いします」
待合室にもどると、聖が僕らを見て首を傾げた。
「どしたの?」
「時間かかるみたいだから、お宿を紹介してくれるってさ。その前に連絡馬車のキャンセル行こうか」
「ん、りょーかい」
さて、行くかね。と聖はメルトの手を握って歩き出した。
僕とだと身長差が辛いので、抱き上げる方が楽なんだよね。
「では行きましょう」
衛兵さん·····クルームさんは詰所で他の衛兵さんに、離籍することを伝えてから先頭を歩く。
まずは乗ってきた連絡馬車の御者さんに事情を説明して途中下車とここ以降の乗車のキャンセルを申し込む。
本来なら自己都合なので返金はないのだけど、御者さんは馬車ギルドに掛け合って、ここで降りても差額を返金出来るようにしてくれた。
盗賊16人だったからね。自分の馬車が襲われなくても、往来する全員に関わるから、と言ってくれた。
ありがとう、御者さんたち。
途中出食べてくださいね、と手のひらくらいの麻袋に入ったクッキーを渡したら、喜んでくれた。
「お宿はこちら『銀狐のしっぽ亭』になります。先触れは出してますのでご安心下さい」
と、紹介されたのはなんか大きくて立派で年代を重ねた重厚な雰囲気がある所だった。
ここ、高いところじゃない?
なんか身なりのいい人がこちらを見て頭下げてるんだけど?
「6代目、こちらのお客様です」
「はい、かしこまりました」
こういう年季の入ったところで言う〇代目、ていう言い方は十の位が省略されている事がよくある。
もしかしたらこの街ができた頃からこの宿はここにあるのかもしれない。
「それでは僕は詰所に戻ります。何かあった場合は僕が参りますのでよろしくお願いします」
「わかりました。お手数お掛けしますがよろしくお願いします」
ぺこり、と頭を下げあってから、僕らは6代目さんに案内されてお宿の中に入っていった。
何となく聞いてみたら、やはり正式には26代目、だという。
一族経営でここまで長いのは自慢だと話してくれた。
「お部屋はこちらになります。お代は既に支払って頂いてますので、ごゆっくりとお寛ぎ下さい。夕食は夜の7時となります。何かあればこちらのベルを鳴らして頂ければ、この階に居る担当のものが参ります」
「わかりました。ご丁寧にありがとうございます」
と、6代目が去ってからソファに座る。
お部屋は居間と大きなベッドの寝室が1つ。ベランダはないけれど宿からは遠くのお山が見えていた。
トイレ、お風呂はリビング横に設置されている。
直径1m半の大きなたらいとお湯と水がでる蛇口付きの魔道具で温度調節をするようだ。
お風呂が入れるのは元日本人としては有難いね。
てことで、備え付けのティーセットでお茶を淹れる。
これはほうじ茶かな?いい香りだ。
お茶請けもあったので、それと自前のパウンドケーキも出して置いた。
「やっぱり領主コースみたいだね。ネームドが居たのかな?」
「うーん。個別鑑定する前にそっ首たたき落としたからなぁ。ああでも、ちょっと強いのはいた」
「いたんだ。ちょっと強いの」
聖にしてみれば魔物も盗賊も首を落とせば終わり、という簡単な作業なんだけど、それでもちょっと強いの、という印象のが居たのが驚きだ。
「魔剣使ってたからだとは思うんだけどな。二合打ち合ってすぱー、てした」
「へー」
すぱー、ですか·····。
「それよりこれいいな。枢がくれたやつ。左手で使うのに丁度いい」
と、左腰にぶら下げている細身のショートソードをポンと叩く。
近接牽制用にと一応渡しておいたのだが、それですぱーてやったようだ。
それに貴方、右利きですよね?
「いやー。貰った時嬉しくて折ったら嫌だから、色々と強化保護付与しまくったからなー」
「·····そこらの数打ち品なのに·····」
勇者の武器が有名なのは、他の一般武器だと勇者の力に耐えられなくて直ぐ折れてしまうからだ。
だから勇者は対となる神器と共に召喚される。
武器自体のポテンシャルが高いからね。
歴代の異世界召喚勇者は全員、それを持っている。
剣とか弓とか盾とか。中には変わった武器を持っているのもいたとかなんとか。
聖は槍なんだけど、振り回せない場合を考えて応急処置的にあのショートソードを渡したんだけどね。
鑑定してみたらなんか凄いことになってた。
手習いの数打ちが伝説級にまで強化されてるって、おかしくない?
ショートソードの方も「俺、頑張りました!」て輝いてるしね·····。
うんまぁ、君らがそれでいいならいいんだ·····。
「ところで、まだ昼だけどどうする?行動制限はないと思うんだが、腹減った」
「そうだね、何も言われてないから街に出て散策してみようか」
「お外いくの?」
「行くよー。前にいた街よりかは大きいから、色んなのありそうだね」
僕らはお宿の受け付けで出かけることを伝え、街に繰り出した。
目的はお昼ご飯。
お宿は基本的に朝と夜しか出ないからね。
お部屋で作り置きを出しても良かったんだけど、せっかく街にいるなら他の料理を堪能したい。
例え一味足りなくてもいいんです。それが異世界情緒なので。
あんまり酷い時はこっそりとクレイジーソルトとか醤油をかけるけどね·····。滅多にしないけどね·····うん·····。
宿の人に聞いたら、露店街をオススメしてくれた。
この街は行き来しやすい位置にほかの街や村があるので、色んな物が毎日運び込まれているらしい。
なので、露店街にいくと毎日違った物があるので、見てて飽きないそうだ。
「アレあるといいなー。前の街出食べた肉汁たっぷりの1口揚げ饅頭」
「あー、あれ美味しかったねぇ」
「メルトもあれ好きー!」
日本で言う1口サイズの肉まんを軽く揚げて、スープに入れて食べるやつだ。
スープも何種類か会って、僕らが好んだのは甘辛いものだった。
「美味しいのあるといいねー」
「だなー」
「ねー!」
さて、腹ぺこさん達が満足する物があるといいな·····。
結果、満足。
聖が期待していた揚げ肉まんもあれば、定番の串焼き、麺類、クレープみたいなものまであり、相当量が聖とメルトのお腹に収まった。
僕は人並みなので。ええ、人並みなので·····。
それから雑貨の露店を賑やかしたり、古本を扱っている所で何冊か購入したり、色々見て回ってから宿に戻ってきた。
受け付けの人に何か言伝は無いかと聞くも、なにもなし。
今日はこのまままったりと、過ごしていてもいいようだ。
「メルト、お部屋に戻ったら少し寝る?」
「うん·····」
おなかいっぱいのメルトは戻ってくる途中で船を漕ぎ始めたので、抱き上げて帰ってきた。
部屋に戻ってからルームウェアに着替えると、メルトは自分の魔法鞄(うさぎリュック)から一抱え出来るうさぎのぬいぐるみを取り出すと、そのまま抱きしめて眠ってしまった。
「お茶は?」
「いるー。紅茶のパウンドケーキもお願いします」
へへ、と笑う聖。
まだ入るのか·····。
それから夕飯になるまで、僕らは本を読んだり、ちょっとした道具を作ったりして過ごした。
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