第5話✤フラグ立つ

 はい、こんにちわ。

 一級フラグ建築士・神宮寺枢じんぐうじかなめです。

 フラグがフラグ足り得なくてフラグ自体が叩き折ってやって参りました。

 ·····つまり、盗賊が出ました。

 聖がジト目でこっちを見てくるし、メルトは首を傾げて「フラグ?」と問いかけてきます。

 そんなつもりはなかったんだよ。

 多分あれだ、戦況予測と戦術予報のスキルが統合されて未来予測に進化しちゃった気もしなくは無い!

 けど!僕は無実なので!


「全部で16人か。僕らの連絡馬車はスルーされる可能性があるけれど、少し離れた後続の商会馬車は確実に危ないね」

「だなぁ。多分手前の駐車場に仲間が居るな」


 ぽそぽそと小声で話し合う。

 盗賊はまだ姿は見せてないけれど、僕と聖の共有マップにはしっかりと『敵対生物・人間』を表す赤紫の点が表示されている。


「父、母。どうするの?」


 心配そうに聞いてくるメルトを落ち着かせるように撫でる。

 メルトはメルトで、何からの不穏な気配を察知していたようだ。


「大丈夫だよ。僕らが何とかするから」

「ほんと?」

「俺と枢が嘘ついた事ないだろ?」

「うん·····」


 あんまりこういう自体に出会って欲しくないのが親心なんだけどねぇ。


「ちっと御者のおっちゃんに話してくるわ」

「僕が行こうか?」

「いんや、枢はメルトとこの馬車をみててくれ」

「うん、わかった。無理はしないでね」

「おーぅ」


 聖はヒラヒラと手を振って椅子から立ち上がると、御者席まで歩いていく。


「なぁ、おっちゃん。ちょっと停まって欲しいんだけど·····」


 から始まる、ゴニョゴニョ話。

 他の乗客からはトイレか何かだと思われて居るようだ。


「すみません、皆さん。こちらの方が気分が悪いようなので少し脇に寄って停りますね」

「すまん、ちょっとさっき食べたやつが合わなかったらしくてなぁ」


 と、にへらーと笑う。

 聖はこの世界では成人している年齢だけど、未だに子供として扱われる微妙な年齢だ。

 しかも、キャラメイクはしているとはいえ、基本が日本人に寄っているので年齢よりも低く見られやすい。

 それもあって、他のみんなから心配する声があがる。


「戻ってきたら果実水をあげるから、行っておいで」

「ありがとう、おばちゃん。いってくるー」


 よろよろした動作で下車する後ろ姿を、御者さん達が心配そうに見送った。

 皆の視界から遮られた瞬間、聖は一瞬で姿を消す·····。

 そして·····。


「ハー、ただいまぁ」

「おかえりなさい。その·····大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ。ありがとね、おっちゃんたち」


 のんびりと帰ってきた聖は御者さんたちに結果を小声で伝えると、途中いたおばさんから竹筒に入った果実水を受け取って礼を言った。


「おかえり、聖」

「父、おかえり」

「ただいま、2人とも」


 果実水を一口飲んでから、メルトに渡す。

 受け取ったメルトも一口飲んでから、僕に渡してきた。


「ありがとう、いただくね。それで、どうだったの?」

「ん?ここ」


 僕の問いかけに、聖は魔法鞄をぽんぽん、と叩いた。

 つまり、16人全員の死体が収納されている·····と。


「強制精神介入してねぐらと溜め込んだ大凡のお宝は把握したから、次の街で詰所か騎士団に報告、のちに賞金とお宝の売却金はギルド口座かな。枢の方に入れておくよ」

「了解。生活費にさせてもらうね」

「そしたらカレー作ってくれ、カレー。ひき肉たっぷりのやつ」

「りょーかいです。茹でたじゃがいももつけるよ」


 僕らの話している内容は当然、遮音結界の中でやっている。

 どんなに小声で話しても筒抜けだからねー。


「あと少しで今日の宿泊予定の駐車場に入ります。自前のテントがある方は御協力お願いします」


 1日以上の長距離連絡馬車は基本的に朝と夜、夜間使用のテントは提供してくれるが、自前でも構わない方針だ。

 流石に全部自前だとチケット代から一割引されるが、旅の途中の食事は提供されるなら有難くいただくスタイルです。

 聖は足りないから自前のも出すけれど。


「はい、本日は宿泊ですね。宿泊用の駐車スペースの3番に停めてください」

「わかりました」


 駐車場は宿泊用として大きめのスペースがある。

 合計10のテントが所狭しと設置されていった。


「左の1がアキラさん一家、と·····」


 御者のおっちゃんがテントの持ち主と場所の確認をしていく。

 ちゃんと乗客の確認をしていて安心できた。

 途中で居なくなったり、この場所が襲われて死んでしまっても、一応は確認できるからだ。


「今日の夕食は根菜のスープと黒パン、干し肉を戻して葉野菜といためたものです」


 ご飯は御者さんたちが作ってくれる。

 料理スキルのある御者さんは人気で、わざわざその人が走らせる馬車を探して予約することもある。

 そう言えば僕らも、連合軍時代は料理スキルのある一団に所属できるように手を回したなぁ、と思い出に浸る。


「ご飯だごはんー!メルト、枢、いくぞー!」

「はい、父!母、ご飯なのです!」

「はいはい、慌てなくても大丈夫だよ」


 食事二楽しみを全振りしている2人の後をついて行くと、御者さんがスープやおかずを配ってくれている。

 お皿は貸出もしているが、基本は自前を使う。

 お値段以上の所でネット通販した木の食器は、この世界でも使えるので良かった。

 漆塗りだったりマホガニーだったりするが、聞かれたら「旅の途中の露店市場で買いました」と言えば納得してくれるので、ちょこちょここういった日本の製品を使っている。

 お手入れ、楽だからね。


 ご飯を貰ったらそれぞれのテントで夕食だ。

 僕らのテントは一見二人用だけど、空間魔法で16畳くらいの大きさになっている。

 中はリビング、衝立でベッド、トイレ、湯浴み用の小スペースでできている。

 湯浴みスペースには湯船は無いものの、直径1mくらいのタライがあり、そこにお湯をためて使っている。

 ちゃんとシャンプーやリンス、ボディソープもあるので、野宿してても快適だ。


「この干し肉と葉野菜の炒めたの美味いな」

「これ、ジャイアントディアーの干し肉だね」

「鹿さん?」

「そう、次の目的の鹿さんだ。これより美味い肉だぞ」

「鹿さん·····!美味しい!」


 おかしいな、鹿さんなら何度も食べさせているのに·····。

 ウチの娘が食いしん坊キャラになりつつある?


「鹿さんはなー、ステーキもだが、ソテーにしたり、ローストしたり、バルサミコ酢で味付けしたりでも美味いぞ」

「鹿さん·····美味しい·····!」

「馬さんも美味しいぞー?」

「父、色んな肉たべたい!」


 肉食一辺倒、ダメ、ゼッタイ。


「お野菜も食べなさいね?」

「「はーい」」


 まぁ、好き嫌いがないのが救いか。

 そう言えば、ほぼ全ての肉や野菜が集まる食材都市もあったな。

 そこは調味料なんかも豊富で、メルトがまだ小さかった頃のご飯作りの一環で暫く住んでいた事があったっけ。

 近所の人も優しくて、なんだかんだでメルトを育てる知識はそこで得たものが多かった。

 また行きたいなぁ。育ったメルトをみたら、喜んでくれるかな。


「枢ー、ちっと足りない」

「ん?あれ、串焼きももう無いの?」

「メルトと2人でもう食べた」


 と、見れば僕のお皿の上には串焼きが1本と揚げ芋が少しだけ乗っていた。


「何がいい?」

「カレーは匂いがなぁ。サンドイッチかおにぎりか·····」

「母ー。メルトもー」

「じゃあ、卵焼き挟んだサンドイッチと唐揚げのおにぎりを出すね」


 魔法鞄からそれぞれ3つずつと、コーンスープを出して器によそる。

 すると2人とも嬉しそうに口に入れていった。


「食べたらお風呂に入ってね。就寝時間はいつもの10時。過ぎたら消灯します」

「はーい」

「わかったー」


 リビングに設置されている時計ではまだ7時なので、お風呂に入っても少しは時間はある。

 メルトの勉強の時間は取れそうかな。


 メルトにはどんな種族に関しても偏見を持って欲しくは無いので、この世界の事を教えている。

 読み書き計算はもとより、僕が知り得る専門知識もその都度混ぜ込んでいるが、半分位は理解して覚えているようだ。

 うちの子は凄いんですよ、ええ。


 僕が後片付けをしてお風呂から上がると、2人は仲良く本を読んでいた。

 これから行く街とダンジョンのおさらいをしているらしい。

 ダンジョンには何がいて有効属性の話や、得られた素材で何が作れるのか、などなど。

 2年に1度ギルド合同で発行される『五大王国の歩き方』的な本を買っておいたのだ。

 意外と変わったりしているので毎回王国毎に買っている1冊だった。


 さて、今日はこの位でおやすみなさい。

 明日には次の街に着くから、まずは詰所か騎士団に·····zzz…。

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