第38話

 


「おはよう、レオ」


 翌日、目が覚めると上半身に何かが乗ってる感覚がしたので目を開けるとミルアの顔が視界を占領していた。


 一瞬、これは夢か何かかと思ったがミルアが「あれ?レオー?」と僕の頬を突いてきたので現実だと理解して意識が覚醒した。


「っ!?ミルアっ、目を覚ましたんだね」


「うん、ついさっき」


「そっか。おはよう、ミルア。それと、進化おめでとう」


「ありがとう」


 恥ずかしそうにそう言うミルアは進化前に比べて何故か魅力的に感じた。

 これも進化の影響なのか?そう思いながらミルアを見てると気付いたことがあった。


「艶々した?耳」


 ミルアの狐耳が前に比べて美しい感じがするのだ。


「気付いた?」


「それはもちろん」


「進化のお陰。少し記憶があやふやだけど、こうなるように望んだ気がする」


「そうなんだ、体の調子はどう?」


「お腹減ったくらい?あっ、でも前より魔力も上がってるし力も強くなった気がする」


「おぉー、それはいいね。…というか、そろそろ退いてくれない?僕起き上がれないんだけど」


「ん」


 ミルアが視界から徐々に退場していき、体が軽くなった。…さては、僕の体の上に乗っていたな?


 体を起こし、軽く腕を伸ばし終えてから再びミルアを見るとまた別の変化に気が付いた。


「尻尾、増えたよね?」


「ん」


 前までは1本だった尻尾が3本になってる。


「これも進化のお陰。元々私は狐の獣人と吸血族のハーフ。今回の進化のお陰で普通の狐の獣人から妖狐に、下位吸血族から中位吸血族になった」


「一段階上の存在になったわけね」


「そういうこと」


「それぞれの中位種族?の能力を持っているのは強いね、何度も思うけど」


「でも、純粋な妖狐や中位吸血族には能力が負ける。本来の半分ちょい辺りだと思う」


 それでも十分だと思うんだけどね。


「…この尻尾、3本になったせいで上手く扱えない。勝手な動きをたまにする」


 その尻尾、自律型なんだね。


「前までは1本だったから自由に動かせたけど急に3本になったから動かそうとしても全部同じ動きをしてしまう。個別に動かせない」


 ミルアがそう言いながら多分、尻尾を動かしてるのかな?3本とも右へ行ったり左へ行ったり、くるくる回ったら寸分狂わず動きがシンクロしてるのを見て笑いが込み上げてくるのを我慢する。なんか面白い…


「…レオ?」


「な、なんだい?」


「なんでもない。それより、血を頂戴?」


「寝起きに血?」


「ん、ここ数日取ってなかったせいで割と限界に近い」


 そう言いながら舌舐めずりをするのをやめてもらえるかな?


 そう心の中で呟きながら僕はミルアの小さな体を抱き上げた。


「ふぇ?…っレ、レオ!?」


 ミルアが驚き、頬を赤らめている。尻尾も狐耳もピーンと立っている。


「ん?」


「や、ど、どうしたの?」


 あぁ、ミルアが言ってるのは僕が抱き上げたら事ね。


「血を吸うんでしょ?なら、この体勢になるのは分かってるしね」


「そ、そうだけど…急に抱き上げられたら恥ずかしい」


「今更過ぎない?」


 僕ら夫婦だしね。


「ほら、飲んでいいよ」


 ミルアを完全に抱き締めて、互いの体が完全に密着してる状態でそう囁く。


「あぅ…い、ただきます….」


 カプリと僕の首筋に小さな歯を突き立てた。そして、コクコクと血を飲み始める。それと同時にミルアの細くて白い腕が僕の首に回される。



 コクコクとミルアが血を飲む音だけが室内に小さく響く。

 僕はミルアの背中に回している右手を離してミルアの頭を優しく撫でる。


「ん……」



 それからも静寂が続いたけど不思議と居心地は良かった。



「…ぷはぁ、ごちそうさま。レオ」


 ミルアがそう言いながら首筋の吸血痕を治してくれる。


 いつもならこの後直ぐに離れるのだが今回は離れようとせず、むしろ抱きついてくる力が強くなった。


「ミルア?」


「ん…レオ、もしかして私以外の吸血族に血を吸わせた?」


 そう言いながらどんどん力が強くなっていく。…まるで、逃げないよう拘束をするかのように。


 大賢者様に…と言おうかどうか迷ったけど、言い訳も思い付かないので正直に言おうと思った。


「大賢者様に、ね。半分脅しみたいな感じだったけどね」


「やっぱり。…私以外の吸血族の感じがした。むぅぅ」


「ごめん、ミルア。大賢者様には頭が上がらないからね」


 こうやって今も看病…?をしてくれてるから。


「大丈夫。これは私の勝手な嫉妬。私以外がレオの血を飲む事に対する。レオの全ては私のものだから」


「そう言ってもらえると嬉しいよ」


 ミルアから求められている。そう自覚できるからね。


「だから、こうやって私ものにする。離れないように」


「なら僕もミルアが離れないように、こうしないとね」


「?」


 自然に、ミルアに何も感じ取らせないように。


 僕はミルアの小さくピンク色の可愛らしい唇に自分の唇を合わせた。


「っっ!!?」


 時間はほんの数秒。軽い口づけをしただけ。でも、その数秒は僕にとって最高の、至福の…言葉では表せないような幸せを味合うことができた。


「レ、レオ…」


「ん?」


「好き」


 顔をこれでもかと言うほど赤らめたミルアから告げられた2文字の言葉。

 今までも何回も聞いたその言葉は、今回が一番僕の心を揺さぶった。


 だから、僕はこう返す。


「僕もだよ」

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