第37.5話

 


 ◆ミルア視点◆



 夢を見てる。これは、私が子供の時の、夢……




『ねぇ!お母さん!!あれ見て!』



 賑やかな街の中を走り回る少女……私。確か…6歳だった気がする。



『あんまり走ってはダメよ』



 そんな私の後ろをついてくる女性…私のお母さん…



『ーーーーー』


『えぇ、そうよ。ーーー』


『『……ーーーーーー』』



 お母さんの隣で話してるのがお父さん。…何を話してるかは分からないが、それにお母さんが答えてる。



『あはははっ』



 見るもの全てが楽しかった私は特に気にせず走り回ってた。



 そして、気づいた時には私は迷子になった。



『あ、れ?お母さん…?お父さん…?』



 周りを見渡すもそれらしき人は居ない。私の身長では周りの大人の体で阻まれておりよく見えない。



 次第に私は不安になっていく。



 どこに行ったのか、どこ、どこ、どこ、どこ?



 私は探した。



 探して、探して、探して、不安な恐怖の感情で今にも泣きそうな私は、それでも探し続けた。




 でも、見つけられなかった。



 当時の私は色んな場所を探したつもりだったが、今思えば同じ場所をぐるぐるぐるぐる、歩いていただけだった。



 周りの賑やか声が怖くなった。



 限界になり、泣きそうになった瞬間…私に話しかけてきた人が居た。



『大丈夫か?お嬢ちゃん』



 一人のお爺さんだった。



『わ、たし…』



 極度の不安から当時の私はこのお爺さんが誰かも知らない状態なのに全てを話した。



『なるほどな……ふむ、儂も一緒に探してやろう』


『ぐすっ…いいの?』


『もちろんじゃ、目の前に今にも泣きそうな嬢ちゃんが居て、しかも迷子ときた。助けなわけにはいかん』




 そして、お爺さんと探し始めた。



 私はお爺さんの服にしがみつきながら歩いたけどお母さんとお父さんは見つかることはなかった。




 日も暮れ、あんなに居た人が少なくなってきて…私は心の中でもう、お母さん達に会えないと思っていた。



『帰る家は分かるのか?嬢ちゃん』


『…分からない』


『そうか…ふむ、なら儂の家に来るか?』



 お爺さんからの提案。



 お母さんにも、お父さんにも会えなくて、お家にも帰れない私はお爺さんの提案に頷いた。



『なら、儂が代わりに育ててやろう。これでも子の扱いには慣れておる。そうじゃな、形式的には…養子という事にせねばな』




 それから、私はお爺さんに6年間育てられた。




 お爺さんーーマル爺には色んな事を教えてもらった。



 常識や知識、戦う術、吸血族の能力の使い方…生き残る方法、逃げる方法…など。

 料理を一回だけ教えてもらったことはあった。でも、その時に出来た料理をマル爺に食べさせた翌日、マル爺は体調不良を起こして私は料理出禁になった。



 私はマル爺を本当の祖父だと思うようになっていた。



 ある日、マル爺から私のお母さん、お父さんのことについて話があると言われた。その時には既に、私の両親の事は諦めていた。



『ミルア、お主はな…言えなかったが、親に捨てられたんじゃ』


『っ……』



 考えはした。でも、深くは考えないようにしていた。




 私は親に捨てられた。



 その事実が、あの時…心のどこかで未だにお母さん達は私を探している、と思っていた。でも、そんな思いをマル爺の一言で抉り取られた。




 その日から私の何かが変わった気がした。




『ミルア、お主の親にも何か理由があったのかもしれんぞ』


『…もういい』



 その瞬間、私の中で大切で大好きだったお母さん、お父さんの事は大嫌いな存在に生まれ変わった。

 当時の年齢的にも余計、そう言う気持ちを後押しした。





 また、ある日……今度は、マル爺が姿を消した。初めは、また捨てられた…と思ったが書き置きが置いてあった。



 “突然のことですまんが、儂は少し旅に出る。探さないで欲しい。

 ミルア、お主は強く生きろ。そのための方法を教えたんじゃ、お主なら生きれるはずだ。生き血の為の家畜もおるはすだ。

 ミルア、お主にも大切な人が出来るはずだ。またいつかお主と出会うはすだ。その時に、お主の成長した姿とその相手を居るのなら見せて欲しい。マル爺より“




 なんで居なくなったのか分からない。旅に出る、何の目的があって?一人で生きる、どうすれば?不安、不安、不安…



 色んな感情が私の中を駆け回る。統一性は無く無秩序…




 やがて、落ち着きを取り戻した私は一人で生きることを決心した。



 それから2年間、私は一人で生きてきた…今思えば幸運だった…12の子供が一人で生き抜くのはとても難しい…しかも、吸血族の私には…





 そして、いつものように生き血を飲もうとしていた私。でも、珍しく獲物がいなかった……探す事数十時間、ようやく獲物を見つけて、さぁ気絶させてから飲もう、と思っていたけど逃げられ、殺された。



 その時の獲物を殺したのがレオ。




 大切な人……大事な、大事な大切な人。



 初めて会った時に感じた優しいオーラ…この人なら私の目の前から居なくならない。そう感じ取った。だから、大切な人…私の目の前から、私に何も言わずに居なくなる、大切な人…




 私は、レオに見合う女になりたい…



 私は、レオと横に並べるだけの強さが欲しい…



 私は、レオと残りの人生も共に歩みたい…



 私は、望む。




 自分の願いを叶えられる力が欲しい…




 可愛く、妖艶に、美しく、可憐に…



 速く、鋭く、硬く、強く…




 それら全てを私は望む。それらを手に入れられる体を望む…






 そして、私は……


「…ふふっ」


 長き過去の夢から目を覚ました。










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