第34話

 



「ギルマス……ちょっと、寝ます」


 急に体が重くなり、強烈な睡魔が僕を襲った。


「ん?あぁ、疲労とやらか。分かった、次に起きた頃にはすでに終わってるだろう。あと、お前の嫁も無事だ」


「そ、うで…すか。良かった……くぅ…」


 抗うことは出来ず、そのまま眠りについた。




 ■ミルア視点■



「水よ、大いなる清流よ、その勢いは止まらず、全てを巻き込む渦となれ、廻れ廻れよ……

 清流の廻転渦!!っはぁ、はぁ…」


 目の前に居る大量の魔物共が私が生み出した大渦に巻き込まれていく。

 魔物が廻る廻る…その勢いはどんどん強くなり、やがて魔物の体が平べったくなっていき千切れていく…しかし、渦は赤く染まらない。


 私が扱える最高・最大範囲の魔法。

 水の聖級魔法はどれもこれも威力や範囲が凄まじい。この前のマンドラなんだっけ?うぃーた?の時に使った絶対零度の一矢も威力特化の聖級魔法。


「…っうぐ」


 体の魔力が底をつきかけている。血も少なくなって貧血気味だ…既に吸血族特有の能力を使ったから…


「……これ以上は無理」


 魔法の制御が不安定になったせいで、清流の廻転渦がドパァァァァン!!と大きな音を立てて中の魔物がと辺りに飛び散った。

 私はそれと同時になけなしの魔力を使って城壁の方へと退避した。



「…あ」


 なんで、目の前にっ…魔物が…


 既に攻撃に使える魔力はない、血液もこれ以上使えば動くことすら出来ない。体力もほとんどない…


 これ…は、やばい。目の前の魔物は恐らく5以上の魔物…



 まだ、レオとちゃんとした結婚もしてない。死にたくない…嫌だ、嫌だ、嫌だ!!


 牙が私に迫る……それに、私は抗うことも出来ず……私は目を瞑り襲いくる痛みに備えた。




「……?」


 けど、痛みは来なかった。


 ゆっくりと目を開けると、目の前に障壁が展開されていた。


「…これは、防御障壁」


 結界魔法、防御障壁…込められた魔力に応じてその硬度を変える使う術者が強いほど比例するように強力になる魔法。

 5以上の魔物の攻撃を受け止める障壁なんて……一体誰が…


「大丈夫かしら?」


「あなたは?」


 現れたのはダサい緑のコートが印象的な…コホン、緑のコートを着た若い女性。


「私?魔鉄鋼級アダマンタイト冒険者のリディアよ」


「アダマンタイト?」


「そう」


 …確か、レオの一個上だった気がする……え。


「アダマンタイト!?」


「まさか分かってなかったの!?」


「……分かってた」


「もう少し上手に嘘をつきなさい。あ、忘れるところだったわ。…真空弾」


 そうアダマンタイト――名前忘れた――が魔法名を告げた後、未だに防御障壁に齧り付いてる魔物の体に小さな穴が空いた。

 そこからピューと勢いよく血が溢れ出す。そして、魔物の目から光が徐々に失われていき、やがてドスンッと音を立てて倒れた。


「凄い」


「そう?これくらい普通よ、貴方でも出来ると思うけど?…貴方、名前は?」


「ミルア」


「ミルアちゃんね?…見たところ魔力もない感じだし、もう下がっていなさい。…あ、もしかして下がってる途中だった?」


「ん」


「なら、ここから先はもう安全よ?全部殺してきたから」


 アダマンタイトがそう言うのなら本当?信じよう。


「ありがと」


「後輩ちゃんを助けるのも私の役目よ」


 まるで聖女?のような慈愛の笑みをアダマンタイトが浮かべる。それを見て安心したのか、眠くなってきた…


「あら、大丈夫?」


「…眠い」


「わっ、ちょっ、こんな所で寝たら不衛生よ!?」


「分かってる……よいしょ」


「…うーん、一つ聞いていい?」


「なに?」


「貴方って進化してる?」


「…一回もしてない」


「ふ〜ん、なら進化ね。見たところ獣人っぽいし、その眠たさはきっと進化の前兆よ」


「ほんとっ?」


 進化、その単語を聞いて眠気も少し吹き飛んだ。…少し。


「そうよ。私の勝手な予想だけど高確率で進化だと思うわ。…それも当然よね〜、こんなに魔物を倒せば進化もするはずよ」


 …あれ?でも、魔物は戦いが始まった時から倒して続けてる。それなのに、今頃進化の前兆が来るって…んん?


 私の考えてる事が顔に出てたのかどうか知らないけど、アダマンタイトが答えてくれた。


「多分、神様のお陰よ。進化については未だ不明な事だらけなのよ。戦闘中に進化する事はあるけど、ほぼ無意識のうちに進化するから気付かない人も多いらしいわ。…まぁ、そういう私も体験してるけどね。戦闘が終わった後に進化の前兆、もしくは進化したことに気付く事があるから…貴方の場合はそれかもね」


「なるほど」


「あと少しだから、ほら頑張って起きなさい」


「ん…頑張る」


 私は眠気を我慢しながら立ち上がる。


「さっ、行きなさい。目覚めた後はきっと強くなってるわ」


「ん、ありがと」


「どういたしまして」


 私はお礼を言って少しだけ回復した魔力を使って走った。



 ◆



「ん?誰か来たな…ミルアか」


 ギルマスが居た。その側には毛布を被ってすやすやと寝てる私のレオが居た。


「ん、退避してきた。あと、進化するから寝る、おやすみ」


「要点だけ伝えるな」


 何かダメな所あったのかな?


「…ん、アダマンタイトが来てくれた」


「アダマンタイト?……あいつか。なるほど、分かった。休んでいろ、恐らくスタンピードはもうすぐ終わる。二人によってな」


「二人?」


「気にするな、それより進化だってな?もう立っているのも限界じゃないのか」


「…ん」


 何故分かった?…そんなに分かりやすかったのかな?


「寝てろ、ここに魔物は来な「おやすみ」


 私はレオの側に行って、レオに寄り添うように座って瞼を閉じた。直ぐに私の意識は微睡へと落ちていった。


「……自由な奴だな。レオも大変だな」


 なんかギルマスが失礼なことを言って居たけど気にするな余裕もなかった。

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