最終話

「大筋は分かりました。あなた、また悪戯したのですか。それで私は森の修復に?」


ティオは呆れながら気怠げに答える。


「いや、その必要はもうない。この子は管理者だ。」


アイスは自分が理解できない話だと理解して蝶々を追いかけていた。

ティオは咳払いをし、鋭い目つきになった。


「…全てを教えろと?こんな幼気な少女に?」


ロイヤルは静かに頷く。

ティオは観念して大きくため息をつき、アイスの前に立つ。


「アイスさんと言いましたか。ここはあなたの夢の中です。そして私はあなたを目覚めさせることが出来ます。あなたは元々、草原で読書中のお姉さんの隣にいました。そこで眠っています。」


「起きればお姉ちゃんに会えるの?」


アイスは幼い頭をどうにか回転させて、答えを導いた。


「そうですね。しかし、記憶の一部が欠損してしまいます。具体的にはあなたの夢の住人ではない私とロイヤルのことです。」


「僕らの記憶だから、アイスちゃんと出会ったときからかな。兵士に追われているときからかな。」


まだ完全には分かっていない様子のアイスだったが、ロイヤルと、ロイヤルとの思い出を失くしてしまうことだけは理解していた。

無論アイスはそれを拒んだ。


「いやだ!…ロイヤルとはもっとずっと一緒に居たいし、ティオさんとも仲良くなりたい!」


「すみません。夢の管理者であるあなたが ”これは夢だ” と認識してしまった為、もう間もなくこの世界は終わりを迎えます。」


ティオの背後で無情にも屋敷が崩壊を始めた。

全てが細かい粒子となり、風が吹き、それは流れていった。

幻想的な景観とは裏腹にアイスは泣きじゃくる。


「やだ!ロイヤル!いかないで!」


「大丈夫。大丈夫だから。」


ロイヤルは優しくアイスを抱きしめ、宥めた。

屋敷も、森も、波打ち際も全て無くなってしまった。

そこはただ白さが支配する世界になってしまった。

アイス、ロイヤル、ティオ、扉を除いて。


「アイスさん。この扉をくぐれば、目覚めることが出来ます。」


アイスはティオに対して何も反応を示さずに、ロイヤルに抱き着いていた。

アイスの長い長い号哭が終わると、ロイヤルは落ち着いて諭した。


「アイスちゃん。君はお姉さんに会いたい?」


「うん。」


「僕らと離れたくない?」


「うん。」


「でももし、君が起きなかったらお姉さんは心配するよ?」


「それは…」


「僕らにはまた会いにくればいい。その時にまた仲良くなろう。」


「会えるの?」


「君が強く強く願えば…ね。君は夢といえど、一国を救ったんだ。誇いに思っていい。」


「うん。ロイヤル、最後に聞いていい?」


「うん、何でも。」


「懐中時計って何だったの?」


「それは君が一番良く知っているはずだ。効果はさっきの通り大幅な身体能力の増幅だけど、君がここに来た時に最初にウサギが持っていたんじゃないかな?」


アイスは全てに合点がいった。

そして鼻を啜り、目元を服の袖で涙を拭い、扉の前に立った。

アイスは振り返って、


「ロイヤル!ティオさん!またね!」


「「またね。」」


アイスは重い扉を開け、向こうへ消えていった。

白い世界も原型を留めず無に帰そうというときにティオが呟いた。


「そういえばあなた、”り”を”い”っていう癖、ありましたよね。」

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こおりひめ madoka @ciela_

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