金木犀

藤和羽流

第1話  好奇な心

 私は金木犀の甘い香りが好き。そして、私は、今日も一人。


 私は、放課後に金木犀のある公園に毎日通っている。金木犀の近くにあるベンチに座り、ランドセルから本を取り出した。

 しばらく読んでいると、

 「どんな本読んでるん?」

 と、話しかけてくる人がいた。同級生の美咲だ。

 「ミステリだよ。知ってる?」

 美咲は「すごっ! 見せて見せて!」と言うと、私の隣に座った。


 30分ほど読むと美咲が不意に、

 「ねぇ、私のお父さんを殺してくれん? クソおやじなんだよ」

 「だったら私のお父さんも殺して」

 「おっ、いいね。 ならさ、どっちが先に殺せるか競争しようよ!」

 美咲は弾むような口調で言った。

 私も楽しくなり、「わかった!」と言った。

 「そうだ! 頭だけ持ってきてさ、この金木犀の下に置いとこうよ! クソおやじを殺した記念に!」

 美咲が興奮した口調でまくし立てた。私も興奮してしまい、「分かった! お互い上手くやろうね」と言って、美咲の手を握りしめた。美咲の驚いた顔がかわいい。


 私は走って家に帰った。お母さんが仕事から帰ってきたら、殺しづらくなるからだ。2~3分で家に着いた。玄関の引き戸をゆっくりと開け、忍び足でキッチンに向かった。どの家庭にもある包丁をしっかりと握りしめ、リビングのソファーで寝ているお父さんに刃先を向けた。


 私はゆっくりとお父さんに近づき、包丁を構えた。お父さんは不細工な顔をして寝ている。ニート野郎。死ねっ。

 私は高々と包丁を掲げ、お父さんの胸元めがけて突き下ろした。

 包丁はあっさりと刺さり、ソファーに血が飛び散った。刺した時の感触が気持ち悪い。

 はぁ……。あっけないものだな。つまらない。

 まぁ、家のお父さんは不細工だし、そりゃそうか。と、自分で納得した。


 ……あ、かわいい人殺したらどんな顔するんだろ……。


 ふと、そう思ってしまった。

 私は欲求を止めることができなくなった。美咲を殺したい……。


 殺したお父さんの体から頭を切り離し、ランドセルにねじ込んだ。そして、うちにあるアウトドア用のロープを手に持ち、公園に向かった。

 美咲はもう居た。私に気づいた美咲がこちらに近づいてきた時、手に持っていたロープで、素早く、美咲の細い首を絞めた。


 「ぐっ……。なっ、なにずるのぉ……!」

 「ごめんね、美咲。でも、かわいいあなたがいけないよ」

 「やっ、やだぁっ……! 死にだぐないぃっ……!」

 「かわいい子も死ぬときは不細工になるんだなぁ。あ、でもギャップ萌えってやつかな。かわいいかも」

 「……ぁっ、やめっ……」

 美咲は動かなくなった。

 

 私には不思議な充実感があった。1つ、気づいたこともある。

 「かわいい子は、死ぬ瞬間が一番かわいい」

 

 美咲のお父さんの頭を探したが、どこにも無かった。

 なんだ、つまらないなぁと思いながら、美咲の死体と、お父さんの頭を金木犀の下に置いた。

 「確か、金木犀の花言葉で真実ってあったよね……」

 これも何かの運命かなと思い、私はそのまま帰った。

 きっと、金木犀の甘い香りが、真実を隠してくれる。

 そして、数日経ったが、私のお父さんと美咲の死体は見つからなかった。


 私は今日も、金木犀の下にあるベンチで本を読む。

 「あの……。もしかしてこの本……。ミステリですよね……」

 誰かが話しかけてきた。眼鏡をかけた、美人な子だ。

 「うん。ミステリだよ」

 あ……。また殺してしまわないよう気をつけよ。でもこの子、かわいいなぁ……。まぁ、また金木犀に真実を隠してもらえばいっか。

 

 深く息を吸い込むと、金木犀の甘い香りが鼻腔に広がった。

 

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金木犀 藤和羽流 @syousetubaisuki

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