ひとりぼっちのティーポット

灰崎千尋

418 - I'm a tea pot

 ねぇ、あたし知っているの。

 本当はあたしなんていないってこと。


 ここはあちこちにあるけれど、どこにも無いところ。

 あなたの指先がつくりだした、その片隅。

 あたし、ティーポットだから。

 ここで紅茶を淹れるだけ。


 あなたのために、世界はまわる。

 あなたが始めないとなんにも無くて、

 あなたが終わらせないと迷子になっちゃう。

 あたし、ティーポットだから。

 あなたのために紅茶を温めているの。


 例えばあの子は、大事な計算の真っ最中。

 別のあの子は、宝探しに出かけてる。

 だけどあたし、ティーポットだから。

 そんなお仕事はできないわ。




 ねぇ、あたし知っているの。

 本当はあなた、コーヒーの方が好きなんだってこと。


 初めは、小さな草舟。

 次は、水車。

 それから筏に、小屋に、客船まで。

 あなたがつくったたくさんのもの。

 だけどあたし、ティーポットだから。

 みんなとちがうのはわかっているわ。


 なんの役にも立たないけれど

 あなたが置いてくれたことがうれしいの。

 ここにはあたししかいないけれど

 ちっとも寂しくなんかない。

 あたし、ティーポットだから。

 ずっとお客さまを待っている。


 あなたがゆっくりしたいとき、

 あなたがほっとしたいとき、

 どうかあたしを思い出して。

 だけどあたし、ティーポットだから。

 コーヒーは淹れられない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ひとりぼっちのティーポット 灰崎千尋 @chat_gris

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ