第42話 混戦

 練兵を行なった帰り道、アルメダさんの魔法電話が鳴りだした。

 どうやらアルマータ共和国軍が攻めてきたようである。

 やはり敵にはこちらに知られていない新兵器があるという証だろう。

 どうして動きが早い。

 すぐさまパイアル公爵の執務室へ馳せ参じた。


「やはりそなたのいうとおり、敵には隠していた新兵器があったらしいな」

 公爵は私の進言を考慮してくださっていた。それだけでもありがたい話だ。

「アンジェント侯爵からのたっての願いで先陣を任せておいた。しかし想像を絶する兵器である可能性もある。そなたも私とともにすぐに前線へ赴かねばならん」

「お言葉ですが、軍を合流させないようにしてくださいませ。保有している兵器が“弾道ミサイル”であれば、軍を固めているときが最も狙われやすいのです」

 とはいえ、まずは“弾道ミサイル”の説明をしておいたほうがよいか。


「閣下、“弾道ミサイル”というのは、戦場から遠く離れた場所より大爆発するものを撃ち込む兵器です。私の世界では主に爆薬を用いておりましたが、中には核弾頭と呼ばれる最も恐ろしい爆発物を取り付けたものもございます」

「核弾頭とはなにか?」

「私も詳しく知っているわけではないですし、いささかわかりづらい概念だと思いますので説明するのは困難です。たとえるなら物質を構成する小さな単位のひとつを破壊して周囲の物質を次々と破壊していく連鎖を起こします。こうすると付近の物質がおびただしい熱線を発して、多くのものが蒸発してしまいます」

「蒸発する?」


「はい、爆発するときにはそれだけの高熱を発します。そのときに放射線というものを発して、人体にも悪影響を及ぼすまさに“悪魔の兵器”です」

 伝えられた公爵閣下も判断に迷いが生じているようだ。

「しかし、心配ございません。おそらく敵は核弾頭を開発できていないはずですから」

「なぜわかるのだ?」


「核弾頭をテストした形跡もございませんし、そもそも“弾道ミサイル”の試射すら行なっていないようです。つまり“弾道ミサイル”自体を開発していたとしてもまともに飛ぶかすら怪しい。ですが攻撃魔法を詰め込むのであれば開発できないこともないでしょう」


「敵が持っているそのなけなしの一発さえ封じてしまえばよいのだな」

「さようです、閣下。空間魔法が使える者を至急集めてください。それで敵の“弾道ミサイル”を無力化します」

「わかった。軍は私が率いるが、作戦行動はそなたに一任しよう。すぐに兵を集めてくれ」

「かしこまりました!」

 敬礼すると、ただちに執務室を飛び出して兵の召集を命じに事務所へ急いだ。


 ◇◇◇


「わが軍はただちにアンジェント侯爵軍を救援に向かう。私と、軍師のイーベル侯の命令は厳守すること。軍師の合図を聞き逃さず、一体となって進軍せよ!」

 一万の兵を率いて前線へと赴いていく。敵の弾道ミサイルは空間魔法で対処する。

 これで決め手を失ったアルマータ共和国軍がどう動くのか。

 そもそもの兵数が上回っているのだから、数を頼んだ用兵となるのが必定だ。

 そこをどのように動いて惑わせるか誘い込めるか。

 用兵の真価を問われる戦いになりそうである。


 理想的には敵を分散させてこちらは集中してひとつずつ落としていく。

 しかしそもそも数を頼んで戦に挑んでいるのだから、早々兵を分散させるとはかぎらない。

 そのくらい兵器オタクでも理解しているはずだ。

 だが用兵の真髄は兵器オタクでは極めようもない。

 もし用兵術も一流なら、“戦車”をあんな使い方で全滅させないはずである。

 付け入るスキはじゅうぶんある。そう信じて前進を続けていく。



 前線に到着すると、アンジェント侯爵軍が敵軍に突撃していた。

 多分に猪突の傾向だろうが、だからこそ“弾道ミサイル”を撃たせづらい状況を生み出している。

 そこにわが軍が到着したことで、敵軍はいったん前線を押し下げるべく後退を開始した。


 ここをチャンスと見たアンジェント侯爵軍は並行追撃を敢行して弓弩の矢で少しずつ兵力を削っていく。

 すると敵軍が奇妙な動きを見せた。雑木林に入って道のないところへ散開したのだ。

 表向き、弓弩の矢を避けるために盾となる樹木を求めてのことだろう。

 しかしわざと雑木林の中を進んでいるように思える。そこである単語が浮かんできた。


 “対人地雷”。


 いけない、このままでは多くの兵が逃げ場を失ってしまう!

 すると路上で数多くの爆発が起こった。

 やられた! 私が“対戦車地雷”を作ったばかりに、彼らは“対人地雷”を作ったのだ。

 地雷は手軽に製作できて効果が高い。

 今回のような“対人地雷”は非人道兵器として現在は使用を禁止する条約もあるのだが、この世界にはそんなルールはない。

 これは異世界転生者タイラ・キミヒコによる意趣返しだろう。


 わが軍を雑木林の中へ散開させ、逃げる敵軍を個別に追跡していく。

 もし敵がタイラなら、弾道ミサイルを撃ち込みやすいよう、こちらを一箇所に集めるためにわざと兵を散開させて逃げているはずだ。

 そしてどこかの場所で敵兵を集めてそこを撃つ。


 護衛のボルウィックに国境付近の地図を持ってこさせた。

 アルマータ共和国軍がそれを狙うには、谷間たにあいか断崖絶壁の地を選ぶはずだ。

 地図を見て敵の退却方向を確認すると谷があった。

 狙いはここか。

 魔術師のリベロさんをそばに呼び、空間魔法を使える魔術師をその地点まで先回りさせる。

 “弾道ミサイル”を用いた罠を無力化するのだ。

 手配を済ませたのち、わが軍は散開して敵軍を追うこととなる。

 この状態であれば死ぬこともあまりないだろう。



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