オチヨ視点 2人の愛


 ただならぬ事態に、オチヨは思考の罠におちいりかけた。


 近頃噂に聞くインチキチートを使って、武名だけを巨大化させているのか?

 ……イヤ、違うッ!

 筋肉ッッ!!

 圧倒的肉量が目の前に在るではないか。


 バイタツと名告なのった大男の肉体、見紛みまごう事なき巨人ヘビー級

 ホマレの光によって神々しいまでに輝くアストラル筋肉バディインチキチート如きではし得ぬ肉量本物

 その肉量に劣らぬ巨大な武名のホマレによって、存在その物を巨大化させている。


 まさに、巨人ヘビー級

 凄まじい力を持った武人が、今目の前に在るのだ。


 ……戦慄。


 オチヨは戦慄をした。

 先ほど取り戻した胆が萎むのを自覚する。

 苦心して名を売り、魂援ファンから集めた推し魂お布施は、あらかた消し飛ばされた。

 練り上げた胆から湧き出る地ソウルで、かろうじて二人組カップル名のホマレは保たれている状態。

 隣のカレンに到っては、目の前の武人が掲げる巨大な武名のホマレを前に、金縛りスタン呪詞デバフ状態へとおちいりかけている。


 幸い、己の身体は、血反吐を吐くほど鍛え抜いたお陰で、無事。

 身体はギリギリ動く。


 ならば……逃げるのは可能か?


 最初に考えたのは、逃亡。

 それは、負け犬の思考。

 オチヨの思考は、逃げへと傾きかけていた。


 だが……

 逃げるには、接近しすぎていた。


 ヤツの間合いは爆発的に拡がり、すでにその範疇はんちゅう

 それに何より、愛するカレンは、金縛りスタン呪詞デバフ状態。

 カレンの逃走は不可能。

 目の前に立つ巨人がその気になった時……それが終わりの時。


 死は……まぬがれぬか。


 ならば……


 死ねッッ!!

 俺は、死ね!!!


 カレンのためならば、この命惜しくなど無い。

 己を捨ててしまえ!!!

 己を捨ててしまえば、恐れも同時に消え去る。

 前へッッ!!!

 後では無い、やいばの先にこそ極楽ヘブンは開く。

 前へと出るのだァッッ!!!


 覚悟であった。

 名を売ることで貯めてきた魂援ファンからの推し魂お布施は、綺麗さっぱり吹き飛ばされてしまったが、心は不思議と晴れ晴れしい。

 覚悟をすれば、何ほども無い。

 功名心や、己を縛り付けていた余計な欲は、全て消え去った。

 残ったのは……


 オチヨは、隣に立つカレンを確認した。

 カレンもまた、オチヨを見つめていた。

 今にも泣き出しそうな顔をしている癖に、笑顔を作ろうとしている。


 ……そうか、カレン、おぬしも俺と共にく覚悟なのだな。


 オチヨは、かつてカレンと共にスールの木の下で誓った言葉を思い出していた。


『我ら二人、産まれた日は違えども、衆道カップリングちぎりを交わした今、死する時は同じ日、同じ時を願わん』


 今思えば、血気盛んな若気の至りであったが、真心よりの誓いであった。


「ふっ」


 オチヨが微笑むと、カレンもまた微笑みを返してきた。

 その顔を見た刹那せつな肩の力が抜けた。

 余計な憑き物が落ち、代わりに魂の真理に気づいた。


 それは、互いを信じ合う真心。

 それは、愛の力。

 愛の力に気がついただけで、オチヨの全身から虹色のソウルが沸き上がってくるのだ。

 隣のカレンもまた、金縛りスタン状態を脱していた。


 まだ戦える。

 いや、それどころではない。

 オチヨが今まで経験したことの無い、爆発的ソウル量が湧き出すのを知覚する。


 何……だ、このソウル量は!!?


 オチヨは戸惑った。

 今まで体験したことなど無いソウル量。

 戸惑いはしたが、オチヨはすぐに思い直した。


 この期に及んで余計な雑念は無用。

 いま成すべきは、カレンと共に前へ出る覚悟のみ。


 己を捨てる覚悟によって、初めてたどり着く境地であった。

 愛の力は、偉大だ。

 生命の奥深い底の底から、力が沸き上がるのをオチヨとカレンは共有していた。

 限界だと思い込んだ命の先から、膨大な命の炎が燃え上がっていたのだ。


 それは……愛の力がたぎらせる、情熱の炎。

 余計なモノ全てをそぎ落とし、命を昇華させて辿り着く、神への頂。

 神殿パルテノンの生臭坊主モンクどもなら、さとりの境地と戯れ言ざれごとを言うかも知れぬが、そんなことはどうでも良かった。


 あらん限りの愛……

 その全てをソウルへと変え、必殺技へと叩き付けるのだ。


 オチヨは、愛の力を頼りに、運命に抗うべく吠えた。


「チェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」


 カツ……であった。


 かつて、極限まで鍛え抜いた筋肉は裏切らなかった。

 二人の愛は裏切らなかった。

 萎えかけていたオチヨのホマレが、輝きをブーストす。

 オチヨが、喝を入れる事によって、隣のカレンもまた輝きをブーストす。


 武人の勘がささやく。


 前へ……

 ならば、必殺のあの技しかあるまいッ!


 オチヨの脳裏に、必殺技を出すべきだと直感が走った。


「アレをやるぞ、カレンっ、出し惜しみは無しだッッ!!!」


「はいッッ!!!」


 カレンの快活な返事が返ってきた。

 彼女もまたオチヨとの愛を信じ、全てを投げ打ち、共に前へ出る決心をしたのだ。


 覚悟。


 通常、必殺技詠唱には、明確な弱点が存在する。

 技を前に、相手に対して予告をする行為である。

 歴戦の武人ならば、予告された技など、容易たやすく対応する。

 通常は、相手を弱らせるか、不意を突き、ここ一番の機で繰り出す技であった。


 だが、今の二人カップル達に迷いなど無いッッ。


 例え、必殺技詠唱によって、技を繰り出すタイミングを察知されようとも問題なかった。

 これから繰り出すのは、避けられようはずなど無い、合体必殺技コンビネーションブローなのだ。


 何を迷う必要があろうか。


「まいるッ!!」


 オチヨとカレンの肉体が動いた。

 共に毛すじほどの迷いも生じてない。

 全身の血肉。

 その奥底に残ったソウルは、愛の力によって、爆発的に増加したのだ。

 二人カップルで声を合わせ、合体必殺技コンビネーションブローを詠唱……愛の誓いを斉唱する。


「「合体必殺技コンビネーションブロー双璧のツイン閃光鬼百合リリィフラァアッシュ~ッッ!!!」」


合・体・必・殺・技コンビネーションブロー!! 双・璧ツイン閃・光・鬼・百・合リリィフラッシュッッ!!!”


 一世一代、最高の合体必殺技コンビネーションブロー名が、愛し合う二人の頭上に現れた。


 オチヨは、ソウル槍刺突ランスチャージへと乗せ加速させる。

 愛の力によって加速ブーストされたホマレが、その形状を変化させる。

 槍へとホマレの光が集まり、槍先がギュンッッと伸びる。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


 力有る文字マジックスペル付与エンチャントした紅玉火龍槍から炎がほとばしる。

 限界突破のソウル振動によって空気が吠えた。

 槍の周りの空間が歪み、激しい紫電を放つ。

 己の最大の心、最大の技、最大の力をもって、槍刺突ランスチャージを繰り出す。


「「ケエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」」


 裂帛れっぱくの気合いで吠ゆる。

 隣のカレンも吠ゆる。

 二人で吠ゆる。


 カレンも、横殴りの|剣戟〈スラッシュ〉をオチヨのタイミングに合わせた。

 直伸する槍刺突ランスチャージと、横から叩き付ける剣戟スラッシュ

 バイタツが後ろに下がれば、オチヨの槍が伸びる。

 バイタツが横に逃げれば、カレンの剣戟スラッシュが襲う。

 上に飛べば、そこは回避のあたわぬ空中。

 オチヨの二の槍刺突ランスチャージが、串刺しにする。

 不可避の合体必殺技コンビネーションブローであった。


 二人の愛の咆哮が、怪鳥の如き気合いとなりてほとばしる。


 ボッ!!!


 オチヨの気合いにホマレが乗り、通常に繰り出される槍が加速する。

 ホマレの炎が槍先に灯り、バイタツへと届いた。


 ったかァッッ!?


 二人の必殺技が、巨人の心臓を貫く確信と共に突き込まれた。

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