さすらいの異世界職人⭐︎異世界競技大会編

マサユキ・K

第1話

私の名は千夜狐零人ちよこ れいと──

お菓子を作る職人パティシエです。

変わったレシピを求め、あちこち渡り歩いています。


湖中に咲く不思議な果実──

世界に一つしか無い貴重な香辛料──


珍しい食材を求め、西に東に旅をします。

そのせいか、人は私の事をこう呼びます。

「さすらいの異世界職人ワールドパティシエ」──と。


そんな私ですが、今朝から机の上を睨んだまま考え込んでいます。

そこにあるのは、リボンのついた一通の手紙……


「ふぁ、おはようございまふ、マスター……どうしました?」


シロップが、眠そうに目をこすりながら入って来ました。

彼女はの娘さんで、私の助手をしてもらってます。

四本の腕に褐色の肌──

そして、抜群のプロポーションの持ち主です。

よく見ると、下着姿のままでした。

それも、胸と腰にヒモがぶら下がっただけの……


「ああ、おはよう……てか、服、服っ!」


目のやり場に困った私は、顔を伏せながら叫びました。


「ゆうべは。ダーリン♪」

「いや、言い方おかしいし!ダーリンてなんだ、ダーリンて……君がフライパン全部がすから、後始末に一晩中かかったんじゃないか」

「おお、そうでした!こりゃ失敬」

「オッサンか!」

「そんな事より、何むずかしい顔してるのデスか?」


シロップはペロッと舌を出すと、机上の手紙に目を向けました。

いつもながら、どこまで本気なのか分かりません。

そのまま手紙を拾い上げ、まじまじと眺めています。

服を着る気は……無いようです。


「これは?」

「……招待状だよ」

「招待状……どこからデスか?」


私は封筒から中身を取り出すと、シロップの方に向けました。


異世界競技大会ワールドコンテスト……?」


シロップは、首を傾げて読み上げました。


「世界中から腕自慢が集まる、お菓子作りの祭典さ。僕にもお呼びがかかったんだ」

「それは、すごいデス!マスター」


シロップは目を見開くと、四本の手で盛大に拍手しました。

顔が満面の笑みに変わります。


「助手の私も鼻がアカイです!」

「いや、トナカイじゃないんだから……鼻がタカイだろ」

「でもマスター、イケすかない顔してます」

「それを言うなら顔だ。何気なにげに傷ついたわ」


ツッコミながらも、私はため息をつきました。


「マスター、あまり嬉しくなさそうデス……」

「……まあね。なんで僕が選ばれたのか、分かんないんだよ。毎回競技者は、各種族の中から相応の実力を有する者が選出される。たいていは、宮廷料理人や一流料理店の職人パティシエだ。気ままに旅してる僕なんかを、推薦する人はいないはずだ」


私はそう言って、肩をすくめました。


「それに出場するにしても、選りすぐりの凄い職人ばかりなんだ。とても勝てる気がしないよ」

「マスターなら大丈夫デス!私が応援するデス!」


そう言って、シロップは珍妙な踊りを始めました。

豊満な二つのが、激しく上下します。


「何を隠そう、これこそ我が多肢族に伝わるなのデス!これを見たら元気百倍!体中に勇気があふれマ〜ス!あそれ、ドン、ドコドコドコ、ドン🎵」


まるでフラダンスを、早送りしたような踊りです。

あまりの過激な動きに、胸のヒモがちぎれ飛んでしまいました。


「わあっ!し、下着が、した……」


私の指摘など、まるで聴いていません。

腰のヒモがはじけ飛ぶのも、もはや時間の問題です。


「マスター、ファイトっ!それ、ドンドコ、チャチャチャ、ドン……🎵」


私の中に湧いたのは、勇気では無く羞恥心の方でした。


「も、もういい!わ、分かったから……わか……」


私のを尻目に、その後も踊りは延々と続くのでした。



************

 


異世界競技大会ワールドコンテストは、はるか南方のサ・テーン大陸にあるエッグドームと呼ばれる巨大な会場で行われます。

観客も世界各地から大勢詰め掛けます。


競技は三名ずつのトーナメント方式で、毎回提示される食材を使ったお菓子の出来具合を競います。

当然、魔法や呪術の使用は禁止されています。

競技者はあくまで、自らの手で調理しなければなりません。

審査員は、七色の味覚を持つと言われるの族長が努めます。


この競技に招かれること自体大変な栄誉なのですが、優勝者に与えられる『至高の職人トップパティシエ』の称号は、全ての菓子職人の憧れでもあります。

それだけ招待された者は、相当の技量を持っているという事です。


こんな大きな大会に、なぜ私が選ばれたのか……


誰が……何のために……


その答えを得るためにも、私は出場してみる事にしました。

勿論、優勝を狙う気はありません。

ただ、出るからには一生懸命頑張るつもりです。

でないと、他の出場者の方に失礼ですので。


はてさて、一体どんな結末が待っているのやら……


期待と不安を胸に、私は出発準備に取り掛かりました。

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