第7話「日本語教師になろう」

 その場にいる大勢の人から一斉にため息を吐かれるのが仕事の一環。日本語教師のシンドー・ケンイチです。

 先日、中間試験を行いまして、始めるときに全員がため息を吐いていました。医者や弁護士でもこんなに面と向かって複数の人にため息を吐かれることはないんだろうなと思った次第。


 さて、今回は『日本語教師になりたい場合どうすればいいのか』というテーマで書いていこう。

 私は今までこれら3つの施設で指導経験がある。


・海外の大学

・国内の大学

・国内の日本語学校

 

 大学は少し特殊なので、主に日本語学校で働く場合に焦点を当てたいと思う。

 前回、何の役にも立たないシンドーの就職噺を書いたわけだが、アレを見て日本語教師を目指す物好きでクレイジーな人がいるかもしれない。いなくても(その方が正常なのだが)日本語教師とはどのようにして就く職業なのか気になる方もいるだろう。

 求人サイトなどを見ると確実に書いてあるのは以下の内容。

『日本語を母語とし、以下のいずれかを満たす者』

 

・日本語教育に関する専攻課程あるいは副専攻課程修了者

・日本語教育能力検定試験合格者

・日本語教師養成講座420時間修了者


 要はこれらのいずれかを満たせば日本語教師として雇ってもらえるというわけだ。

 もちろん他にも経験や四年生大学を出ていることが追加されたりなんて場合もある。でもまずはこれら三つのうち一つを満たさなければ話にならないのである。

 ならば、それぞれどのようなものなのかを説明しようか。

 

 まず第一に『日本語教育に関する専攻課程あるいは副専攻課程修了者』。

 別に説明いらない気もするけど……。前回の話で書いたが、私は大学で日本語教育の副専攻を修めたことで資格を手にした。これは現在高校生や大学生という方に意識していただきたい条件だ。

 もし日本語教育に興味がある大学生がこれを読んでいるならば来学期から是非授業を履修していただきたい。授業を増やして資格を手に入れても、ボンヤリしたまま何も考えずに大学生活を過ごしても、学費そのものは変わらないわけだから資格をとった方が得だ。

 もしあなたが「ただでさえ今、授業が忙しいのにこれ以上増えるとかキッツイなぁ」とお思いなら安心してほしい。

 社会人はその比にならん程忙しい。社会人の忙しさが『大魔王ゾーマ』ならば、今のキミが「忙しい』と認識しているソレは序盤で戦う『カンダタ』みたいなものだ(ドラゴンクエスト3より)

 モンスターハンターならば『イャンクック』相手に血反吐を吐いているようなものだ。

 そんなわけで、この条件は社会人として転職を考えたり生涯学習としての日本語教育に興味をお持ちの方には縁遠い話だと思われる。


 ちなみに私は帰国後に大学院へ進学し日本語教育学を修了したため、この資格を武器に今の仕事に就いている。

 

 

 次に『日本語教育能力検定試験合格者』というもの。

 日本語学校で働いていると、この条件を満たして働いている方が多いように思う。皆さん素晴らしい。頭の下がる想いだ。なぜならば、偉そうにこんなエッセイの連載を始めた私自身はこの資格を持っていないのである。

 『日本語教育能力検定試験』というのは年に一度、10月に行われる試験だ。確認したら2022年は10月23日とのこと。出願は7月4日から始まるらしい。

 この試験、私は大学4年生の時に受けたのだが、半分しか取れずそれっきりになっている。恥ずかしながら、副専攻もあったし身が入っていなかったというのも事実。その後はタイにいたり帰国しても院の研究が忙しかったりで再挑戦はしていないのだが、日本語教師としてちゃんと持っておきたいという気持ちもある。日々の授業や準備で忙しく、勉強できる気がしないので尻込みが続いているというなんとも情けない話だ。

 なぜそんなにもビビっているかというと、この試験の合格率は約20%と言われている。生半可な勉強では到底太刀打ちできない相手だ。

 ただし、自分でコツコツ学習するのが得意な方には日本語教師を目指す上で一番適した方法かと思う。何より他二つの条件に比べると学校に通わない分、一番安く済む。

 


 最後に、講座に通っていろいろ質問しながら教師への道を歩みたい場合は『日本語教師養成講座420時間修了者』を目指すのがいいだろう。

 これは読んで字の如く、日本語教師養成を目的とした講座に通って420時間の講習を受けるというもの。詳しい内容は各地の養成講座に問い合わせていただきたいのだが、現役の日本語教師が日本語教育の歴史や日本語の文法・音声など様々な基礎的なことを説明し、受講者さんの模擬授業にアドバイスをするというもの。

 なぜそんなに詳しいかって?実は私、院を終了した直後は大学・日本語学校・養成講座の3か所で働いていたのだ。さすがに忙しすぎて養成講座は減らしてしまったのだが、なかなかにいい経験ができた。何せ初めて日本人相手に授業をしたので、笑わせるポイントが留学生と違うことなどかなり勉強することができた。笑わせることを念頭に授業をする教師なぞ私くらいのものだろうな。

 ちなみに、ここに通っていた人は社会人だけでなく学生さんも多くいた。通う高等教育機関に日本語教育に関する専攻・副専攻がないという方々だ。私が日本語教師になった経緯はひたすらラッキーだったので、早くから進路に向けて行動している彼らにも頭が下がる想いである。

 

 今回は日本語教師になるための資格三種類をザックリ解説した。何か質問や聞きたい話のリクエストなどがあればカクヨムのコメントやTwitterからどうぞよろしく。

 ここで一つ、養成講座や検定に出てくる勉強でみなさんがご存じないであろうお話を。

 日本で最初に『日本語教育』を行ったのは誰でしょう?案外、知らない人が多いと思う。答えは意外にもポルトガル人。具体的には宣教師として日本にやってきた人々。つまりザビエルの仲間たちだ。宣教するために自分たちは日本語を覚えなければならない。そのため、第一陣は根性で日本語を勉強し次にやってくる後輩たちに日本語を教えた。日本語教師の夜明けである。詳細は省いて資料を読み返しもせずザックリ書くとそんなん。細かいところ間違ってたらごめんなさい。

 他にも教科書にはイエズス会翻訳の平家物語が使われていたとか、日本語教師じゃないと知らないお話がたくさんあるけどそれはまたの機会に。

 

 

 ちなみにですが、教師の資格というか資質の一つとして『休み返上で泣きながら試験を作ったのに実施で「はぁぁぁ」、返却でまた「はぁぁぁ」とため息を浴びせられる環境でも心が折れない人』というものがあるかなと思う。全身にため息をかけられた私の心はいま折れそうです。

 ではまた次回。

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