第3話
『はい、オペレーター四〇七七八五六一。感度良好です、同志中尉』
『君の方で同志少佐殿の位置は分かるかい?』
『申し訳ありません、同志中尉。センサーの大部分が破壊されたようではっきりとした位置が分かりません。現在、「ラトニク」を再起動中です』
『大体で構わないんだ』
『了解しました、同志中尉。…………って、言ったけど…………う~ん……。難しいなぁ……「ラトニク」ってどうしてこうポンコツなのかしら…………って――あれっ? もしかして、わたし……無線……って──?』
『君の素敵な声がたくさん聞けて光栄だよ、
『ごめんなさ――じゃなくて、申し訳ありません、同志中尉!』
つい最近、交代したばかりの新人オペレーターの初々しい声に思わずソコロフの頬も緩む。
『大丈夫。君を信じるよ、オペレーター』
『え……あっ…………はい……。わ、わたし、ガンバリマスッ!』
ソコロフは、彼女の作業の進展を待ちつつ、柱の陰からそっと前方を窺った。
ここから見える発砲炎は、全部で三つ……否、四つ。
聞こえて来る敵の銃声から考えると明らかに少ない。
(背後に回り込まれたか……それとも……)
拳銃のグリップを強く握り締めて、ソコロフは耳をすませる。
もし、背後に回り込まれると、おそらくその辺りにいるのであろう同志少佐殿が
クソの役にも立たない上官ではあるが、ここで死なれては困るのだ。
劣等民族たちのことわざに曰く、「腐ってもなんとやら」。
そう。件の上官は、上級民族なのだ。
ここで下手に死なせて、一緒にいたソコロフ達がタダで済む筈がない。
『オペレーター……』
と、ソコロフが再び呼び掛けたその瞬間だった。
世界が、
視界が、
時間が止まったかのようにセピア色に霞み、轟音と共にソコロフの体が柱から弾き飛ばされた。
何もかもがスローモーションで動いているかのように視界の中を跳び退って行くその刹那。
床に叩きつけられたと確かに感じたその瞬間、悲鳴のような怒号が響いた。
「同志中尉! 同志少佐殿が!」
声と同時に起き上がったソコロフは振り向きざまにトリガーを引く。
両の手に握り締めた拳銃から四十五口径の鉛の弾丸が甲高い発砲音と共に吐き出され、小気味よいスライドの動きと共に空薬きょうが金色の螺旋を描いて宙を舞う。
網膜を彩る煌びやかな銃火の輝きと鼻孔をくすぐる装薬の香り。
一時方向の柱から
(まずは、二人――)
ブーツの踵を鳴らして手近の柱の陰に飛び込み、再びマガジンをリリース。
給弾ベストから新しいマガジンを補給し――
ソコロフは、目の前の光景に凍り付いた。
自身がついさっきまで隠れていた柱とその後ろの五本の柱。
ソコロフがいた柱はその半身を大きくえぐり取られ、その後ろの柱五本は床と天井の基部を残して消し飛んでいる。
(…………なん……だと?)
ツイてないにも程がある。
情報屋のヤニで汚れた黄色い歯を瞼に浮かべつつ、ソコロフは柱の陰からそっと背後の様子を窺う。
あと、一ミリ……否、もう少し……。
対峙している敵を確認してソコロフは舌打ちした。
『オペレーター……』
『もう少しだけ待って下さいね、同志中尉……もう少し……もう少しで「ラトニク」が再起動しますからねぇ……』
『すまない、オペレーター――その、言いにくいんだが……悪いニュースが二つある』
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