第4話 僕に出来る事は……

 亡くなった友人達は3人共、喘息持ちの僕にしてみれば、羨ましいくらいに健康体で、スポーツ系の部活も頑張っていた男子だった。


 彼らは正義感が強く、僕の喘息の真似をしたり嫌がらせしてくる男子達のせいで、クラスメイトに笑われていた時も、いつも庇ってくれた優しい友人達だったのに……

 僕にしてくれた分のお礼も返せないまま、彼らは若くして帰らぬ人となってしまった……


『君は自分の非力さを感じて、不甲斐無かったよね? でも、知っているよ。君が自分に対して憤りを感じたのは、それが初めてじゃなかったって事を……』


 そう、その気持ちは、あの時と似ている……


 あれは、僕が、理科の遺伝の授業で、血液型について習っていた時だった……


 蚊に一番狙われて、あちこち赤く腫らせていた僕は、喘息持ちの汚れた血液をしているせいだと、散々馬鹿にされ続けていたけど……

 その時ばかりは、自分が優位に立てた気持ちでいられた!


 僕はO型で、どの血液型にも輸血できる便利な血液型だと知ったのだから!


 たかが、血液型の事と思われるかも知れないけど……

 僕にしてみれば、その時は、O型に生まれて来た事により、ヒーローにでもなれたような気持ちでいた!

 

 ところが、そんな崇高なる気持ちは、その日のうちに無残にも打ち砕かれてしまう事になった……


 夕刻、帰宅したお母さんに、僕はO型だから、自分が献血したら、色んな血液型の人達に輸血して、命を救える事が出来ると自慢気に話していた。


「O型はそう、便利な血液型だけど……残念ながら、功太には無理なの……」


「えっ……? どうして?」


「功太は小さい時に手術して、輸血を経験しているから、そういう人は献血は出来ないの……」


 お母さんのトーンを落とした声に、耳を疑った。


 やっぱり……

 僕は、いつだって、助けられる側の人間でしかいられないんだ……


 いつか、助けてもらった分のお返しをしたい! っていう僕のささやかな希望は、決して、叶えられる事が無かった。


 せっかく、O型に生まれていたのに、僕は人助けが出来ない、無価値な人間でしかなかったんだ……


 でも、そんな自分を否定したくて……


 このままだと、本当にダメ人間のままで一生終わるかも知れない自分だけど、もしかしたら、今なら、まだ間に合うかも知れないって!!


 少しずつでも、こんな自分にも出来る事を何でもいいから見出したくて……


 運動はダメかも知れないけど、勉強なら何とかなるに違いないと思った!


 僕に出来る事は、今は、それしか無いのだから、真面目に、ただ無我夢中で勉強した!


 成績は、努力した分ちゃんと反映された!


 なんだ!

 僕だって、やれば出来るじゃん!!


 そんな風に自信を取り戻して、このままの流れで、自分は勉強という分野で頑張って行って、それから、将来、人の為になれそうな何かを探して行けばいいんだと思っていた矢先だった。


 あの『フロムET』ウイルスが、恐ろしい勢いで蔓延し出したのは……


 いや、違うんだ!!


 こうして、時間が経ってから分かったけど、実際の敵は『フロムET』ウイルスではなかったんだ!


 その宇宙由来のウイルスよりも、もっと罪深かったのは、それを利用した人間達による金儲けの愚策の方だった!

 

 規定では、ワクチンが原因の死者には、3000万円の死亡保証金が支払われる事になっていた。

 ところが、製薬会社側は、死因がワクチン由来と特定出来ない旨を主張し、百万単位で死者が出ているにも関わらず、死亡保証金を支払われた症例は、今まで皆無だった。


 その経口ワクチンというのは、『フロムET』ウイルス以外にも、メッセンジャー(m)RNAなるものの実用化を初めて試みたものだった。


 そのメッセンジャー(m)RNA自体は、当初は接種後、数分から数日で分解され体外に排出されるといわれていた。

 ところが、実際には、ワクチン接種後60日経過しても、リンパ節内でワクチンのmRNAが存在し続けている事が発見された。


 mRNAが体内に残った部位には個人差が有ったが、接種者達は、次々に自己免疫疾患を起し、検査値も大幅に悪化し、色んな疾患に侵されていった。

 その中でも、最も顕著なのが、男女とも急増する不妊症率だった。


『フロムET』禍ではなくても、日本の出生数は毎年右下がりになっていたというのに、追い打ちをかけるように、流産や死産率が急上昇し、五体満足で生まれて来る新生児は激減した。


 更に、誕生時は健康体とされていた新生児も、成長につれ『フロムET』ワクチン接種後に顕れやすい、感覚器官や精神の疾患が目立つようになっていった。

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