第14話 ギャグ回もしくは伏線

 お兄さんとの話は終わり、部屋を出る。


「姐さん、若はこちらですので、案内します」


「あ、よろしくお願いします。……大丈夫ですか?」


「……ええ、大丈夫です」


 どうしてか顔が腫れている毒島さんに案内をされたのは給湯室……というか、キッチンだった。

 

「若、姐さんをお連れしました」


 毒島さんは、キッチンで可愛らしいクマさん柄のエプロンを着て立っていた仁先輩に声を掛けた。


「おう、ありがとな。もう良いぞ」


「はい、失礼します」


 仁先輩がそう告げると、毒島さんは会釈をしてから事務所へと戻っていった。


「話、終わったみたいだな」


「はい、ちょっと警戒されてたみたいです。……けど、一応気に入ってはもらえたみたいです」


「そいつは良かった」


 仁先輩はニヤリと笑ってそう言った。

 それにしてもクマさんエプロンのインパクトが強い。

 私は視線を周囲に巡らせ、奥に楓さんがいることに気付いた。


「楓さん、こんばんは」


「こんばんは、歌音さん」


 楓さんはまな板の上でお肉を切っていた手を止めて、振り返って答えてくれた。

 仁先輩に名前で呼んでほしいと言ったとき、楓さんも聞いていたため、あれから私のことをちゃんと下の名前で呼んでくれている。 


「何を作っているんですか?」


「今夜の献立は、から揚げと根菜の味噌汁、おにぎりです」


 楓さんが答えた後、仁先輩が腕を組みながら問いかけてきた。


「歌音は料理は出来るか?」


「いえ、全然。家庭科の授業くらいでしか包丁を握ったことないです」


「……いい機会かもな。楓に色々教えてもらえ」


 仁先輩は苦笑を浮かべてからそう言った。


「え、料理するんですか?」


「ああ。櫻木會(ウチ)じゃあ、食うに困って腹をすかせたはぐれ者をいつでも受け入れられるように、食い物を常備しているんだ。……まぁ、今作ってるのはほとんど組員が食っちまうけどな」


「へー」と私が感心したように呟くと、


「それでは、歌音さん。一緒にご飯を作りましょう」


 優しい声音で楓さんが言った。

 私は頷いて、楓さんの近くに寄った。

 イチゴ柄のファンシーなエプロンを差し出されたためそれを身に着け、髪の毛をまとめてから手を洗う。

 それから、楓さんに教えてもらいながら、野菜の下処理をしていく。


「上手ですよ」


 普段は無表情なのに、料理を教えてくれるときはやたらと優しい表情をして話しかけてくれるため、私は嬉しくなった。


「……ところで、仁先輩?」


「ん、どうした?」


「先輩は、何をやってるんですか?」


「見てわからねぇか? ……皿洗いだよ」


「いや、見てわかりますけど! あんだけ偉そうに『料理は出来るか?』なんて人には聞いておいて、自分は全く料理しないってどういうことですか? その可愛いクマさんのエプロンの必要性がますますわからなくなってますけど!?」


 堂々と皿を洗っている先輩に、私は突っ込んだ。

 

「こういうのは組の下っ端がやることなんだがな。毒島は他にもやることあって忙しいから、俺が事務所に来た時は、代わりにやってんだよ」


「そういうことではなく……っ!」


 仁先輩の良い人エピソードを聞いた私は、もう一度ツッコみそうになっていたけど、


「歌音さん、若は料理をしないのではないです。……生まれつき、料理が出来ないのです」


「生まれつき料理が出来る赤ちゃんがいたら逆に怖いんですけど?」


 楓さんの言葉に、私は疑問を投げかける。

 しかし楓さんは、悲しそうな表情で首を横に振った。


「若の作る料理は、例えば全くを火を使わないサラダや、電子レンジを使った調理ですら……全て得体のしれない焦げた何かになってしまうのです」


 仁先輩を見ると、無言のまま悲痛な表情で拳を握っていた。

 ……私今、揶揄われてるな。

 そう思った私は、とりあえず二人の好きにさせることにした。


「それでも、例外が一つだけあります。……若の作る塩むすびだけは、どんな高級店の料理にも負けない絶品になるのです」


「おにぎり、ですか。……大げさに言い過ぎじゃないですか?」


「いえ、歌音さん。決して私は大げさに言っているわけではありません。……すぐに、お判りいただけるかと思います」


 楓さんがそう言ったあと、『ピー』という電子音が聞こえた。

 見ると、ご飯が炊き上がったようだった。


 仁先輩は炊飯器を開き、しゃもじを使ってよく解きほぐす。


「……この後は少し、蒸らす」


 そう言ってから、仁先輩は炊飯器の前で目を閉じた。


「……蒸らす時間が必要だとしても、炊飯器の前で瞑想する必要はないと思うのですが」


 呆れつつ、楓さんにそう言う。


「歌音さん。……若の『調理』は、時を越えるんです」


「……意味が分かんないんですけど」


 しかし、楓さんの表情は真剣そのものだった。

 全く馬鹿々々しい、と私は呆れていたけれど――。

 

 次の瞬間。

 時を越えると楓さんが言った意味が分かった。


「うし、終いだ」


 仁先輩がそう呟き、目を開いたと思いきや……。


「おにぎりが出来上がっている……!!?」


 大量に炊かれていたご飯が、全て塩むすびに調理されていた。


「どういうことですか? え、なんですか? よくわかんないんですけど……これ本当に食べていいものなんですか?」


 動揺する私に、

 

「これこそ若に与えられし業。生まれながらに強制された縛り……天与呪縛のおむすびギフテッド」


 楓(まんがおたく)さんがキメ顔でそう言った。


「おあがりよ!」


 仁先輩はそう言って、私におにぎりを差し出してきた。


 ……テンションについていけない。

 そう思いつつ、半ばやけくそで食べた仁先輩のおにぎりは、びっくりするほど美味しかったです。


_____________________________________

あとがき


読者のみんなからの質問に答えるコーナー!(^^)!


読者からの質問

「若の調理は時を越え、過程は見えていないようですが、『俺は見ましたぜ、若がおにぎりを作るとき、白い粉を使っていたのを……!』と言っていた組員がいたのはなぜですか?」


愛花からの回答♡

「このご質問はたくさん来ていました!(^^)!愛花も本当のところは組員さんに聞いていないので分かりかねますが…きっと次の①~③のどれかだと思うのです(∀`*ゞ)エヘヘ

①見間違い

②同じタイプの能力者

③シャブ中の組員が見た幻覚

の三本です(´∀`*)ウフフ」

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