第1章 クソゲーはどこから生まれるのか?

 結論を言ってしまうと、「どこからでも生まれる」という当たり障りのない解答になる。

重要なのは、「クソゲーを生み出す要因となるものを排除すること」と、もし生まれたとしても「引き返してやり直すこと」だ。

 ゲーム制作というのは基本的にはチームで行うので、誰かしらが問題点に気づいている可能性は高い。

 しかし、気づいていたとしても意見を出さなければ、それは存在しないことと同義だ。

 もしクソゲーを作りたいのならば、いかにそれを生み出す要因となるものを設置し、意見を言う者を潰していくことが重要になる。

後者の意見を言う者はとくにそう。

 菌を見つけて殺す白血球のいない体にとって微量な菌が致命傷となるように、発見する人間がいないほど都合がいいのだ。


 さて、ここからはゲーム制作の流れに沿って、先ほど挙げたものを説明していこう。

ゲーム制作の大まかな流れは下記だ。(※なお会社やプロジェクトによって異なります)

この番号は後々の章でも取り扱う。


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① 企画書作成  … コンセプトやターゲット層を設定し、ゲームの方向性を決める。

②プリプロ版作成 … 企画を元に簡単なゲームを作成し、本制作の検討をする。

③本制作(α版) … プリプロ版を元に、ある程度までゲーム全体を作りこむ。

機能自体はここで出揃っている状態で、デザインは一部仮組みの状態。

④本制作(β版) … α版をブラッシュアップして製品クオリティを上げる。

β版後にブラッシュアップ期間が設けられることもある。

⑤デバッグ    … ゲームの不具合の発見と対応を行う。

⑥ロットチェック … プラットフォームごとの仕様に沿っているかを確認する。沿っていない場合、仕様に合わせて改修する。

⑦リリース    … 販売。みんな課金or買ってね!


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 ゲーム制作は下に進むほど関わる人数や資金が増えていく。

「④本制作(β版)」あたりまで行くと「撤退(お蔵入り)」の選択肢はほぼなくなる。

この話の全体も同じで、「⑤デバッグ」以降の作業は特筆することがなくなるので、君とはそこまでの付き合いになる。


 さて、この章はゲーム制作の流れの最上流工程に位置する「①企画書作成」における「クソゲーを生み出す要因となるもの」の分類の話だ。


 君がクソゲーを作りたい場合、特に重要な箇所になる。理由は単純で、「作品の根幹」だからだ。

企画書には「作品のテーマ」はもちろん、「ターゲット層」や「ゲームの目的」「プレイヤーに与える体験」といった、作品全体の方向性が書かれている。


『スーパーマリオ(FC)』を例に独断と偏見で勝手に当てはめてみよう。


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テーマ:横スクロール型アクションゲーム

ターゲット層:全年齢だが、メインとしては小学校4~6年生の男児。ゲーム初心者向け。

プレイヤーに与える体験:敵や地形といった障害をどうやって潜り抜けるのかテクニックを磨いてゴールを目指し、様々なステージをクリアしていく楽しさを提供する。


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 前述みたいな所になると思われる。下流工程は、この「①企画書作成」を元に作っていく。

 そのため、よほど読解力が独特でない限り、左右に画面は動くし、炎やフラッシュといった男児が好きそうなモチーフを散りばめ、初心者でも分かるように進むべき道を示唆するように仕様を練るだろう。

 企画に書かれた内容は基本的に覆ることはなく、いうなれば小説でいうところの世界観設定に近い。

世界観がちゃんとしていれば、小説『ハリー・ポッターシリーズ』において魔法魔術学校がなくなることはないし、小説『指輪物語』に核兵器が登場することは絶対にありえない。物語の根幹に関わるからだ。


 では、ここがブレるとどうなるか?

答えは単純で、以降の工程が全て崩れてしまう。奇跡的にうまくいったとしても、全体的なバランスは最悪だ。何か一つでもこぼれ落ちれば、悲惨な結果は免れない。

 故に、ここをいかに曖昧な表現にするかがキーとなる(※『クソゲーの作り方』になるので、この表現になるよ)。

では実際にブレる表現にしてみよう。


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テーマ:画面スクロール型ゲーム

ターゲット層:全年齢

プレイヤーに与える体験:進行とともに難しくなるステージを突破する楽しさを提供する


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 かなり極端な書き方をしたので、「こんなので企画が通るかよ!」と思っただろう。

 ここで狙っているのは、「どうとでもとれる表現にして、下流工程をブレさせること」だ。企画を通すことではない。

なのでこの書き方が大正解!

 こうすることで、下流工程で次のようなブレが発生するし、余計に時間がとられるので工数も圧迫しスケジュールが破綻するだろう。


 いまいちピンとこない人のために、この表現とした場合どのような捉え方をされるかをやってみよう。


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■テーマ:画面スクロール型のゲーム

Aさん「縦スクロール型のアクションゲームだね!」

Bさん「奥行スクロール型の探索ゲームだね!」

Cさん「横スクロールのシューティングゲームだね!」


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■ターゲット層:全年齢

Aさん「どこかで幼児向け云々って言ってたし、メインは3~6歳の幼児向けってこと…? それなら、親御さん用の説明テキスト以外は無しのイラスト中心で考えよう!」

Bさん「全年齢ってことはYOUTUBEの人気動画を元にすればいいのかな…? それなら、ポップさを前面に出す形で考えよう!」

Cさん「全年齢の中でゲームを一番プレイする層向けってことか…? それなら高校~大学あたりか。いったん派手なものは避けて落ち着いた画面構成でいくかな」


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■プレイヤーに与える体験:進行とともに難しくなるステージを突破する楽しさを提供する

Aさん「ステージが先に進むごとに難易度が変わるのかな? それなら、地形の調整で難しさを表現しよう」

Bさん「ステージって1つしかないってこと? それなら、物やイベントによるフラグ管理で難しさを表現しよう」

Cさん「進行って時間経過のこと? それなら、時限開放で進めるルート分岐する形で難しさを表現しよう」


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 見事にバラバラだ!

みんなどういうゲームを作るのか、方針すら掴めていない!

 日本人は行間を読む人種だとしても、コンセプトすら情緒的な文章にする必要はないだろう。

 こうなると、仕様を書く時間が無限に増える。

 何故なら最終的なゲーム像が全く分からないため、各々が手探りで進めることになる。だから様々なリテイクが増えるのだ。

慌てて企画内容の共有会をやったとしても、やる前までの時間が無駄になるね。


 実際にはゲームのイメージ画があるから、ここまで盛大にブレることはないとは言え、表現1つでここまで崩壊する。

 出だしから挫けば、あとは芋づる式にほころびが生まれる。

 重要なのは、たとえゲームのシステムが面白いものだったとしても、根幹部分が定まっていなければいつでもクソ化するという点だ。


 想像し辛らいのならば、これがもし「殺人事件のプロファイリング結果」だとしたら分かりやすいと思われる。

映画『コピーキャット』や海外ドラマ『シャーロック』で馴染み深いプロファイリング。犯行現場や殺害方法などを元に犯人像を特定・推測する手法だ。


 例えば、君が刑事だとして、警部から次のような殺人事件の資料を受け取ったとしよう。


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・犯人は男、あるいは女。

・中肉中背か、少し小太り。

・髪色は茶色か金色。髪型はボブヘアおよびマッシュルームヘア。

・年齢は15~30歳、40~50歳ごろ。

・身長は150~180cm。

・犯行現場近くの監視カメラの映像より、ロングコートにブーツあるいは革靴を着用していたことを確認。

・犯行現場近くの監視カメラの映像より、犯人は車に乗り逃走。色は黒か紺のセダン。ナンバーは不明。


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これで初動捜査を決定しろと警部に言われた君(刑事)は、警部の望み通りに動けるのか? 市民の安全を守れるのか?


 もっと対象を絞ってくれないと、無駄に高速道路を閉鎖したり、フィーリングで決めた国道線で検問をしたりすることになる。

セダンとか言われても、どこ制の何年モデルかくらい言えよ…。

犯人の魔の手が2人目に伸びているのかもしれないのに…。

 警部の頭にあったとしても、我々は名探偵シャーロック・ホームズではないのだ。


 「①企画書作成」の話に戻ろう。

企画書は基本的にイメージ絵を載せる。自分で多少絵の描ける人なら、イメージを表現できるからまだマシだが、描けない人間ならば、誰かに依頼することになる。

ここでDSさんに的確に伝えることが出来なければ、たとえイメージ図があったとしても内容がブレることは間違いない。


 情緒的な文章が悪いわけではない。想像を駆り立てたい説明のページになら、好きなだけ使っていい。イメージが広がるのはいい事だ。物語のあらすじとか、キャラ設定とか。

 だか想像が広がってはいけないところに、使ってはいけない。

ちゃんと伝えるべき所をハッキリせずにブレさせるなど、百害あって一利なしだ。


 クソゲーを作りたいならば、作品の根幹をブレさせろ。百害をとれ。市民を危険にさらすんだ。

みんながホームズじゃないのが悪いんだからね。


 さて、ここで質問をしよう。次に挙げる映画の中で「サブカル好き向け」はどれか分かるかな?

ここでのサブカル好きの定義は、大型映画館で上映されるような主流とされる作品よりも、単館で上映されるような主流から外れた作品を好む人間とする。


A、 ジュラシック・パーク

B、 もののけ姫

C、 ディープ・ブルー (※サメが人間をフィッシングする方)

D、 CUBE (※間違っても邦画版ではないし、2でもない)

E、 シン・ゴジラ


 分かったかな?

そう、正解は「全部」だ!


 「嘘だろ! なんで全部サブカルなんだよ!?」と悲鳴をあげる人、君の気持はとてもよく分かる。

企画を建てた人間の認識によってそうなるのが人の世の常だ。

 このラインナップで本気でサブカル好き相手にすると言われたら、混乱する人間が出るのもおかしくない。

 「どういう意味でのサブカルと判断したラインナップなの?」とも思うだろう。

レンタルビデオ屋には必ずある定番のメジャー作品ものだし、過去にテレビで放映もあったし、配信サイトで配信している有名作なのだから。

 漫画でいうと、コミック雑誌の大手『少年ジャンプ』を、サブカル好き向け雑誌と言っているようなものだ。『ガロ』読者は泣いていい。


 確かに挙げた作品は、見方を変えると、非常にサブカル好き的に楽しめる名作であることに変わりない。

演出や特殊技術、カメラアングルやテーマに対する姿勢、背景美術など。

 例えるなら、某男性アイドルさんと某作曲家さんがよく愛を語っているTDRの美術設定のような、大多数の観客が気づかないけれど、とことんマニアックな要素を突き詰めるという意味でのサブカル層向けとするなら、先ほど挙げた作品は合致するだろう。


 しかし、得てして上層部の連中は、この注釈を省くのだ。

書かれていないことを、あぶり出ししろとでもいうように。


 書いてなくても分かるようにするならば、分かりやすい象徴となる作品を持ってくることが適切だろう。

映画でいうと『ミッドサマー』『ムカデ人間』『キラーコンドーム』とか。


 目指すものすら曖昧にすれば、見るべき目線が四方八方に散らばり、どの層も引っかからないという悲惨なものになるのは明らかだろう。

 何を信じていいか分からない資料なぞ、誰が真剣に見るだろうか。


 企画書の内容1つで、その先の工程や思想がここまで崩れることが分かったのなら、君がやるべきことは1つ。

 情緒的な文章で、全ての表現を曖昧にし、どうとでもとれる内容にしよう!

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