第20話

 赤? 私は思った。

「赤って?」

 そう、息の切れた声が鳴った。


「私基吾は今の現状、吾の機能である思考代行を実行している。さあ、二問目だ」


「「問題。


 アメジスト及び、その保護化にある少年を殺す事が可能ですか?」」


 その声の持ち主はこの白い空間に、草原、青空、雲を描写させた。風すらも感じる。

 そんな中、二人の姿がそこに有る。

 同時に私自身の周辺、地面に武器という武器が突き刺さっている。ただ、どれもこれも、現在の文明に存在しない物。正直、目にも写したくない。禍々しい。


「「答えよ」」

 そう、問い詰めてくる。篩いにかけているのだろうか?

 ただ、この質問に答える必要は無い。

「硝子。どうしたのだ? 何故答えない。貴様、本当に仲間なのだろう?」

「...」


 なんでも良いか。


「コマンド「液化」コマンド「認識阻害」ショートカット「専用武装」」

「「「実行完了しました」」」


 確かに、技術に疑問を抱いた事は有る。でもそれを破壊しようとは思わない。最新鋭の技術には、最新鋭の法、倫理、道徳が必要になる。世界は成長速度が異常である故に、それらが未熟だった。

 今は違う。遺伝子改良。ゲノム編集。それらは、自身の価値観、倫理観で成長を抑制している。私は、倫理観を育みたい。

 ただ、現状の倫理観に扱えない技術など、有ってはならない。そう、我々だ。



「母性の生存位置を把握」

「「「確認。開示します。同座標に個体名ゆず、石英、水晶を確認」」」

「問答実行システムに接続。システム改変を開始。命令形変換専用チップが必要なのであれば、自動的に生成」


 この空間の真上、そこに居るナノシステム保有者。全員が集まっているなんて、都合が良い。解溶性攻撃をすれば、全体が言葉通り消える。


「母性保有の赤による実行。コマンド「防壁」。コマンド「コマンド妨害」。コマンド「ナノマシン動作不全」」



「おお。すごい。これが硝子。再現力を司る神の力!」

「そうも、興奮しないで」

 私は言った。彼と会話をする時だけは、その時だけは、赤を解除する。

 何もない空間。そんな場所に、意識と声だけが、響いた気がした。


 横では、線に繋がれた石英と水晶が、声にならない音を発して、その能力を発揮している。無論その力は、硝子の破壊行動を阻止する為に使用された。ただ、その出力は時間に比例し低下し、そんな彼女らに罵声を浴びせる彼。


「おい! 何をやっている!? プロセッサークロックを下げて、性能を落とそうとするな。硝子に押し切られるぞ!?」


「石英より、ゆずに通知。エラー。タスクの過多により制御プロセスが機能していません」

「水晶より、ゆずに通知。エラー。タスクの過多により制御プロセスが機能していません」


 言葉を発したと思えば荒い息混じりに、機械じみた言葉を発する。

 

「なんだ。何が、思考力の神だ。理解力の神だ。雑魚じゃないか。権限Aを硝子を標的に使用。命令。機能をを停止しよ」

「「「エラー。管理下に存在しない生命体です」」」


「無理だよ。ゆず君。ここは私達が居生きていた時代じゃないんだから。そんな権限は使えない。ね? 彼女達の酷い扱いを解いて、休ませてあげましょうよ。ね? 可哀想。硝子は逃げられても私達の敵じゃない」


「逃してはいけない。脅威は今排除しなければ。恐怖の芽は摘み取らなければ」


 君は怖い顔をした。まるで、思い出を全て捨てたかのように。真っ赤に染まったその瞳は止まることを知らない。


 仕方ない。彼はそんな人だ。

「抗戦を続けましょう。です」




 私は、母性の居る座標に踏み入れた。

 先程とは、真反対の場所。真っ黒にな世界。


「ゆずさんは、久しぶりでしたっけ?」

 私を睨みつける彼に、そう話しかけた。

 血管が切れんばかりに激怒した男は、血の言葉を吐く。

「お前は裏切った!」

 そう、負けた犬のように。


「ふん。何を今更。もともと味方じゃないしーだ」

「なっ! お前。騙したな!」


「騙されたのはお前だよ。おっさん。ざまぁだね。私は裏切った記憶もないし、騙した記憶もないしね。所詮は、一般システムを積んだ雑魚だね」

「言わせておけば。貴様!」


「ほら、後ろ見たら? あーあ、可哀想に酷使した神様が機能を停止しちゃったよ」


 彼らの後ろ。線の切れた人形が二つ有るかと思えば、その形は崩れ腐ったように液化している。中から本のような結晶が顔をだした。過度なタスクを与え続けた結果か。


 私は、足を一歩引いた。こんな優勢みたいな雰囲気を醸し出しながら、実は現実離れした位に不利な状況下。

 母性には敵わない。その事実のみが劣勢だと叫んだ。そして他の音も聴こえない。


「赤より代理実行。コマンド「発砲」」

 そして、そんな言葉が聴こえた。既に左腕は半透明のまま、地べたで暴れてた。勿論感覚は無い。


 体内に保管していた銃か。よくもまぁ、拒絶反応を起こさずに入れられているな、と感心しつつ、私は身体を液体にさせる。

 個体を維持している、離れた左腕を回収して、壁の隙間、出口に入る。

 ただ、理解し難い事に、母性達は逃げる私を見ても尚、立ったまま固まっている。


 後追いをして来ない私は、変な違和感を覚えた。


 出口の外。そこは土だった。毛細管現象と、自身の力を使って地表に顔を出した。

 距離として、数十メートルだろうか。そこは、惨劇の場所。燃え尽きた町だった。

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彼女と描写と詩人の決断 生焼け海鵜 @gazou_umiu

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