第13話

 イチャイチャカップルにカツ丼を提供した俺は、ふと保温ケースの上に置いてあるスマホに目をやった。それはテレビ番組が放送され、内容は緊急速報とやらを今は放送している。大きな見出しは、大型の連続テロだ。


 研究所、大学、会社を次々に襲ったテロらしく、サイバー的、物理的な攻撃を仕掛けている。医学、ロボット工学、量子力学とかジャンルは問わず、テクノロジー技術に関連する場所ならどこでも襲っていると考えて良い。


 ただ、誰が襲っているのか現段階では不明だと報じられ、謎深まるばかり。

 一方で、ネットの馬鹿共は陰謀論を息を吐くように拡散し、不用意に民衆の不安を煽る。


 俺は、小汚い丸椅子に腰掛けた。

 


 画面に、見覚えのある大学名が表示された。

 らしい。


「母校もやられたか」

 そう、ため息交じりの言葉を吐く。


「ねぇカツ丼一つお願い出来る?」

 不意にそんな女性の声。


「カツ丼ね」

 俺はいつも通りに応答する。


 しっかし、今日はカツ丼が多いな。誰が頼むんだ?

 そんな疑問が渦巻き、注文者を横目で見る。


 白いワンピースに半透明の青い腕。ゼリーのような気泡混じりのそれは、日光を反射し、光り輝く。


「私の腕は綺麗ですか? 考古学の教授」

 肝を抜かれた俺にそう、笑いかける。

 自身の額に脂汗が滲む。同時に、物が落ちる音、尻餅をついている現状を知った。


「俺が考古学の元教授? いやいや見て分かる通りに小汚い屋台の店主ですよ。全くいやだぁ」

 変な嘘を垂らし立ち上がる。


 ただ、分かった事がある。

 女は何かしら今回のテロに関わりが有る。私が学者だと知っている事が、何よりの証拠だ。

 そして目的は、あの発見、それの口封じか何かだろう。


「あれ? 教授は忘れてしまったんですか? 私ですよ。ほら硝子って教え子が居たでしょ? 私です私」


「だから、俺はそんな大層な人じゃないって。ほら同じ顔は世界に3人居るって言われてるだろう?」

 言い訳をするも、俺の表情は歪んだまま。


 そして、この女は硝子と言ったか。あの発見時の助手か。


「ちゃんと私がDNA鑑定したのですがね。それでは記憶喪失? まぁ良いです。嘘ついてるのか本当に記憶喪失なのかはもうどうでもいい」


 肌が痺れるような殺気を感じる。

 今から、思い出したとほざいても、きっともう既に遅いだろう。


「と、とにかく、かつ丼ですね。今から作りますのでしばらくお待ちくださいね」

「そうですね。作り終わったら話をお願いします」


 これは殺されるのか?


 慣れた手付きで事を進めるが、今だけは効率を極端に下げたい気分だ。

 ほんの数分で料理は出来上がり、女に提供する。

「で、なんだ。その話とは」

「あ、うん。嘘を付いている事はバレバレなので端的話します。まってそれにしても、少し固いですねこのカツ。美味しいですけど」


 女はカツ丼を頬張りながら話を進める。


「教授も、最近、研究機関が襲撃されてるニュースって知ってますよね?」

「ああ、知ってはいるがどうした?」


「結局アレって、過去の文明の者によって起こっている事件です。見て分かる通り私も過去の者ですが」

「何が言いたい」


 すっかり女から殺気は消えている。


「え、ああ。この文明が停滞するか消滅します」

「だろうな。で、なんだ」


「黙って見ていて良いんですか?」

「それは...」


「私は今、加害側と接触もしてますが、一応中立を維持してますので。と言っても、被害側の思想が強いですが」

「主犯は誰だ?」


「主犯? あーナノシステム「愛」を保有する個体名「母性」とその配偶者の「ゆず」ですね」

「ゆずは人間だろう? 何故生きている」


「それが複雑なんですよ。我々が見つけた歴史書には続きがあるんですよ。同様にアギピド神話にもね。その続きには、ゆずがシステム「愛」の力を借りて、者になったって歴史もあります」

「あいつ結局は者なのか」


「ただ、者になった後、ハードウェア技術を専攻しているようで実質アメジストみたいな事をしているらしいです。だから者達がまだ生きてるんですよ」

「なるほど。話を戻すが、主犯が母性とゆずなのは分かった。石英や水晶、それにアメジストはどうなっている? 生きているのか?」


「あー石英と水晶は母性に洗脳を受けてマリオネット状態ですね。アメジストはさっきの、いちゃつきカップルの女の方です。母性の洗脳をハードウェアで大半解除したようで、今は自由に青春してます」

「はぁ? でも、見た目は人間だったぞ? ちぐはぐゾンビでは少なからずなかった」


「それは、「愛」の機構を移植しているからですね。結局、あのシステムが根源なので」

「なるほど。ではさっき言った、洗脳ってやつは、その「愛」の一部を移植する事であると?」


「ですね。でも、その「愛」束縛を彼女はどう抑制しているか。そこまでは分からない」

「了解。少なからずアメジストが生きている事はわかった」


「で、どうするのです? 教授は」

「どうするって何を?」


「何を言っているのですか? 今の連続テロです。ある意味、この内容を知っているのは、貴方だけです。時代背景や加害側の技術力、それに主犯の存在、文化。何か水面下で出来るんじゃないですか? 地上でやっても良いですが命の保証はできませんのでオススメしません」

「したいのはやまやまだが、この根本の原因は「母性」だろ? それを分解、破壊しろってか? 相手は命を処理するナノシステムだそ? それにナノマシンが無くても、異常な再生能力。どうしろって?」


「アメジストですよ」

「あの嬢ちゃん?」


「そうです。彼女に、その再生能力を上回る攻撃性の有るナノマシンを作ってもらえれば、こちらも、洗脳前の「石英」や「水晶」「アメジスト」のシステムファイルを持っていますので、母性に寄生して無理やり体内に殴り込めますよ?」

「アメジストのシステムを持ってるなら、自身でやればいいのでは?」


「色々あって、起動出来ないんですよ」

「あーハードロック的な?」


「まぁそんな感じですね」

「OK。了解した。だがアメジストへの接触はお願いしたい。こちらも別経路で打開策を考えてみるよ。現代のPCでな」


「わかった。別経路とは?」

「俺のシステムさ。あれば面白いだろ?」


「現代のクソ雑魚パソコンで実行するシステム? 面白いですね。それとアメジストへの接触はこちらでやっておきます」

「OK。お願い」


「では、私は用が済んだので帰りますね。カツ丼は店主の奢りで良いですよね?」


 そう女は言い残すと体を溶かし、地面に消えていった。

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