2 10歳の最強武神誕生


「どうなっているんだ……?」


 私は混乱しながら歩き出した。


 しばらく進むと、小さな川を見つける。


 水面に自分の姿を映してみた。


 ――そこには十歳くらいの少年の姿が映っていた。


「だ、誰だ、これは」


 綺麗な蜂蜜色の髪に青い瞳。


 細身でしなやかな体つき。


 背丈は……150センチ前後だろうか。

 少女と見間違いそうなほど繊細な顔立ちの美少年である。


 これは――私じゃない。


 私の子どものころの姿とも違う。

 まったく見知らぬ子どもだった。


「まさか」


 一つ、思い浮かんだ言葉。

 それは――。


「私は……転生した、のか?」


 呆然としていた私だが、次第に気持ちが落ち着いてきた。


 まず、私はやはり殺されたのだと思う。

 直前の記憶がはっきり残っている。


 ギルドの追っ手と交戦し、剣で貫かれて意識が暗転した。

 そして、こうして子どもの体に変化している。


 あれが呪いの剣の類で、私の体が子どもになった――という可能性も考えたが、やはり違う。


 本能が告げていた。


 この体は、私のものじゃない。


 私であって、私じゃない。


 生まれ変わった、新たな肉体なのだ――と。


「受け入れるしかない。そして慣れるしかない、か」


 私は小さくため息をついた。


 それは――ある意味で『老い』を受け入れる心境に似ている。

 少しずつ衰えていく体を自覚し、認め、受け入れる。


 今回はその逆だ。

 若くなった――いささか若すぎるが――体を自覚し、認め、受け入れる。


「よし、まずこの体に慣れるところからだ」


 以前の武術を使えるかどうか、試してみよう。

 しかし、なにぶん子どもの体である。


「さすがに以前の力は出せないか……?」


 とりあえずやってみよう。


「ほっ」


 軽く拳を突き出す。


 ごうっ!


 突風が巻き起こり、地面がえぐれた。


「これは――」


 もしかして、全盛期並みの力があるのか?


「今度は――全力!」


 拳をもう一度突き出す。

 100パーセントの力で。


 ごがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんっ!


 大音響が鳴り響いた。

 眼前の巨岩は木っ端微塵になり、その向こうの岩壁も粉々になってしまった。


「これはもう間違いないな」


 私は確信した。


 竜すら拳一つで打ち倒す――と謳われた武神ガーラ。


 その力が、転生した十歳の少年の体にそのまま宿っているのだ、と。


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