勇者パーティから追放された腹いせに『追放』を商標登録したら、勇者パーティから年10万の追放使用料を徴収できた。戻って来てくれと言われても追放料が欲しいから嫌です

下垣

※この物語はフィクションです。登場する人物名、団体名、商標名は全て架空のものです

「シトロン。お前を追放する」


 勇者パーティのリーダーであるスロウリイがそう通告する。


「な、なぜだ! 俺の支援魔法はパーティの役に立ってたじゃないか!」


「いや、お前より優秀な魔術師が見つかった。お前はもう用済みだ。ゆっくり消えていってね!」


 こうしてシトロンは雑に追放された。


「くそう。スロウリイの奴め。許さんぞ。せめて退職金をよこせってんだ……退職金……? 待てよ。あいつが追放したってことは、追放を商標登録すればあいつから金を巻きあげられるんじゃないか!?」


 そんな下衆な発想に至ったシトロンは、早速国の特許庁に『追放』を申請した。申請はあっさりと通り、シトロンは『追放』の商標を手に入れることができた。これで、追放行為をするためにはシトロンに使用料を払わなければ行うことができなくなったのだった。


 そんなことは知らない勇者パーティ。彼らの軍資金から10万円がなくなっていることに気づいた時にはもう遅い。


「あれー? おかしいな。何度計算しても帳簿が合わないぞ」


 スロウリイが頭を悩ませていると彼の目の前に1枚の紙きれが舞い落ちてきた。その紙きれをキャッチして確認するスロウリイ。そこに書かれていた事実に衝撃を受ける。


「なんだよこれ! 2022年度。商標使用料……? 10万円也? 対象商標『追放』!? おい、どうなってるんだよこれ!」


 スロウリイは早速、事の真相を調べた。すると、自分が追放したシトロンが追放で商標登録していることが判明した。


「お、おい。シトロン。お前、なんで追放で商標なんて取ってるんだよ」


「商標保護のためです。予め私が商標を取っておくことで、第三者に悪用されることを防ぐ目的があります」


「いや、追放はお前だけのものじゃないだろ! みんなのものだ!」


「追放という文化はまだ、それほど世に定着していない。特許庁がそう判断したので、商標が取れました」


「仮に商標が取れたとしても、俺がお前を追放したのは、商標を取る前だろうが! なんで、俺たちまで追放の使用料を払う必要があるんだよ!」


「それは、この私、シトロンが現在追放状態にあるからです。その状態にしたあなた方に使用料を継続的に支払う義務がある。それがこの国の判断です」


 わけのわからない理屈を述べるシトロンに対して、スロウリイは頭を悩ませた。と同時に天啓が降りた。世の中では追放がいとも容易くえげつなく行われている。つまり、全世界のパーティから年10万円がシトロンの懐に入ってくる計算となる。シトロンを再びパーティに戻せば、彼の追放状態は解除されて使用料を払う義務はなくなるし、シトロンが得た使用料を軍資金に充てることができる。正に一石二鳥の逆転の発想。


「わかった。シトロン。俺が悪かった。お前の待遇を改善するから、もう1度俺たちのパーティに戻って来てくれないか? なあ、勇者パーティなんて名誉あることだぞ。名誉は金では買えない。金を手にしたら、次は名誉が欲しいだろ? な?」


「いや。そういうのはいいんで。勇者パーティに戻ったら、年10万円の損失なんでお断りします」


「な……! ふ、ふざけるんじゃねえ! お前! こっちが下手したてに出てりゃいい気になりやがって! お前をパーティ総力あげて潰せば解決する話だ!」


「はっはっは。怖い怖い。じゃあ、こっちは商標で得た使用料でボディガードでも雇おうかな」


 そう言い捨ててシトロンは夜の街へと消えていった。


「いやあ。愉快愉快。まさか商標だけで4630万円も儲かるなんてな。これを全額カジノに突っ込んで更に大儲けしてやる!」


 シトロンは、永続的な資金源を得たことですっかり気を大きくしていた。仮にここでスったとしても、1年後にはまた各地のパーティから追放の使用料が入ってくるのだ。この世に追放がある限り、シトロンが衰えることはない。正に最強の銭の力だ。


 カジノで豪遊! 散財! 素寒貧! 金が尽きたシトロンはそのままカジノを後にした。でも、問題ない。またしばらくすれば追放の使用料が入ってくる。そう、シトロンは信じていた。


 翌日、シトロンの家に役所の職員を名乗る人物が訪ねてきた。


「シトロン様ですね。実は先日お振込みした4630万円ですが、我々の手違いで誤送金をしてしまいました。申し訳ないのですが、返還して頂けないでしょうか?」


「え? なに言ってるんですか? このお金は追放の使用料ですよね?」


「いいえ。そんなもので商標が取れるわけないじゃないですか。こちらの手違いで、誤って使用料を徴収してしまったのです。ですから、シトロン様のお金は正当なお金ではありません」


 シトロンはその言葉を聞いて血の気が引いた。シトロンは既に4630万円をカジノで溶かしている。返還の仕様がない。シトロンが最後に残された手段は――


「払えって言われても払えませんよ。もうカジノで使ったからな! それに追放は俺のものだ! 誰にも渡さない!」


 ごねる。見苦しくごねる。その浅ましい様子を見て職員はため息をついた。


「仕方ありませんね。払えないのならば、逮捕させていただきます」


 こうしてシトロンは4630万円を返還できずに逮捕された。追放なんかで使用料を徴収できるわけがない。一般的に浸透している言葉で商標を取ろうとするのはやめようね!

 

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