第6話 奪え奪えと手を伸ばす (3)

 突然聞こえたねっとりと耳から離れない声。その方を向くと、青色のフードのついた、金色の花の刺繍が入ったポンチョを着た青年がいた。フードを深く被っていて、目から下の部分しか見えない。その、真っ直ぐで、かえって気色の悪い目の色は紺色だった。


「僕ぅ、レアルっていうのぉ」


 急な自己紹介、ニタニタと笑いながらこちらをじっと見つめてくる。こいつはどちらかというと妖怪じゃないかと思えるほど不気味だった。


「呪いちゃんの、お友達ぃ?」


 ここで言う呪いちゃんとやらはきっとシルリィのことを言うのだろう。魔導書を読んだ人は呪われた人とも呼ばれるようだし、あながち間違ってはいない。が、じわじわと怒りの温度が上がってきているのは紛れもない事実だ。


「自分はデュレイ……シルリィの友達か?」


 今更ながらどこから発せられているか全くわからない声を少し低くして話しかける。するとレアルと名乗った青年は首をかしげて、会話を続けようとした。


「あの子、シルリィっていうのぉ? 可愛らしい名前だねぇ」


「君はどうして彼女に会いに来たんだ」


「別にぃ? お友達だから会うことくらい普通でしょぉ?」


「悪い……先ほど騎士がやってきて交戦した後なんだ。警戒心を高めすぎていた」


 そっかぁ、と聞こえるか聞こえないか程の小声でつぶやいて、自分の方へ近づいてきた。


 身長差は大きかった、というより自分の身長が前の世界に居た時と比べて随分と高いのだ。その青年を気軽に撫でられるほどの差。


 シルリィより少し高いくらいの身長をした青年は、商品を見定める目で自分を一瞬見た後、こう言った。


「デュレイ、君はこの世界で生まれた魂じゃないだろう」


 その声は嫌にハッキリ聞こえたような気がした。将棋で王手をかけられたときのように、目の前に剣を突き付けられ身動きが取れないときのように、追い詰めることが目的とでもいうように、それを宣言した。


「何故そう思う」


「勘だよ。深い理由があるわけじゃない、でもいつかは証拠を突き付けられてバレるよ」


「違うかもしれないのに脅し口調なんだな」


 ニタァと独特な笑みを浮かべて口がまた動く。


「まぁ確率で言ったらぁ……五分五分だしぃ。気にしなくていいよぉ」


 ものはハッキリというタイプの人間なんだなと把握する。そして同時に、こいつはやばい奴だから出来るだけ関わりたくないとまで思ってしまった。


 しかし、彼は一応、シルリィの友達。不自然な感じで避けるのは良くないだろう。現実世界で身に着けた、嫌いな人でもなんでもないように接するスキルをこっちでも使う羽目になるとは。


 ノーストレスで過ごせると思っていた新たな世界が速くも崩れてしまった。そんな都合の良い世界があると信じていたわけでは無いが、少し期待してしまったからこその感情である。

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